女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第29回は、「高齢親の実家の片づけ」について。実家の現状、両親の決意とは…?

金八第2シリーズ生もアラ還に突入。親も高齢に

金八同世代の皆様、もうすぐ還暦ですね! 昭和の時代に思春期を過ごし、14歳で金八先生という影響力を持った番組に出演した(1980年〜第2シリーズ)私の元にはたくさんの同世代の方からのメッセージが未だ途切れることなく届きます。

【写真】川上麻衣子さん15歳の頃の<幼少期の自宅写真も>

そのどれもが、私が演じた「迫田八重子」という1人の女性を同級生として捉えてくれているようで、これは私にとって間違いなく宝物と言えます。

金八先生の第2シリーズがスタートしたのは昭和55年1980年ですから、43年も前のことです。この43年間果たして同じ気持ちであったかと問われれば、決してそういうわけではありません。「川上麻衣子」という名前を覚えてもらうことよりも「八重子」という名前が先行してしまい、学生・優等生という役のイメージを払拭することに必死だった時期もあります。

●コロナ禍に「金八同窓会」をオンラインで開催

これはなにも私に限ったことではなく、33名いたクラスメイト全員が、どこかしら人気番組に出演したがための重圧を感じながら、その後の人生を歩んできたことと思います。

コロナ禍にあった2年間。すべての活動を停止せざるを得ない状況の中で手探りに始めたリモートイベントにおいて、金八の同窓生や先生方と当時の思い出話を飲みながら語り合う企画を開催したところ、多くの反響をいただきました。

40年以上の月日を経て伺う、撮影当時の本音であったり、お互いの印象は、なかなかに興味深く、YouTubeで公開するとたちまちに10万回を超え、今もたくさんの方に見ていただいているようです。

ドラマの内容においては、出演していた当人よりもはるかに視聴者の方々の記憶の方が鮮明で、同世代の芸人さん方がとても細かいセリフのやりとりを上手にモノマネて披露してくださることも多く、その影響力を改めて感じます。そんな我ら同世代の仲間たちがいよいよ還暦を2、3年後には迎える年齢となったわけです。

 

80・90代の親が身辺整理を決意…娘としての思い

自分自身がそれなりの年齢となったのですから、私たちの親世代となると80代90代となります。すでにご両親ともに見送られた方も多くなってきた年齢です。

わが家の場合では母85歳父93歳が、今も現役で仕事を続けながら健在でいてくれることに、娘としてとても感謝していると同時に、ひとり娘の私としては、今この時期にしておかなければならないことを考えると、少々不安を抱えていることも事実です。

1963年、まだ海外での渡航が自由ではなかった頃に夫婦そろって外務省の試験を受け、なんの情報もなかったスウェーデンという地に飛び込んでいった両親。父も母もデザイナーとして、とても個性的に人生を謳歌してきたように娘からは見えています。

その2人がいよいよ、身の回りのあらゆる「こと」や「もの」を処分する決意を固めたというのです。

何度も何度も口を酸っぱくして懇願してきた娘としてはうれしい反面、もう少し早く決断して欲しかったというのも本心であります。

「物置化」した実家に残されていたものたち

多分同世代の皆さんであれば、わかっていただけることと思いますが、私たちの親世代。兎にも角にも、所有しているものが半端なく多い世代ではないでしょうか。

私が中学生まで暮らしていた実家は、今では完全に物置の状態で、時間が昭和のまま止まっているかのように、ものたちであふれています。記録好きの父が集めた新聞のスクラップやアルバムだけでも1000冊は優に超えます。

写真もネガフィルム。スライド。ポジ。そして8ミリフィルム…。1977年に放送された『岸辺のアルバム』という名作のドラマでは、壊れかけた家族が、水害で流されそうな家からアルバムだけを持ち出すことで絆を思い出すという感動のラストシーンがありました。

1枚1枚に刻まれた記録は、どれもかけがえのない思い出にあふれたものではありますが、もうそんなことも言ってはいられません。

●鬼になる覚悟で「実家の片づけ」に挑む…!

娘は鬼になる覚悟で、両親の荷物と戦う覚悟で実家へと挑みます。

アルバム、書籍、レコード、といった趣味のものから家財道具、食器、そして祖母の代からの着物や洋服。私が使っていた4畳半の部屋のクローゼットには、父が私の劇団の公演のために手縫いでつくってくれた女王役の衣装が今もかかっています。つまりほとんど他人事でしたが、処分しなければならないものの中には私自身の幼少期の荷物も相当数あるわけです。

●まだ元気な60代は片づけにちょうどいい年代なのかも

荷物を処分するためには、体力がなにより必要です。肉体的にもそして精神的にも。

本当に残しておくべきものがなんなのかを見極めるための判断力と勇気、潔さが求められます。そういう意味では60歳間近のこの年齢は、作業を始めるにあたってちょうどいい年頃なのかもしれません。親が覚悟を決めたように私も覚悟を決め、人生初の大処分作業が始まります。

なにが捨てられなにが残されていくのか。すっきりとした気持ちで年末を迎えることができることをただただ願っています。