ビッグモーターにクルマを売った男の後悔…調査委「2717件調査のうち44%の1198件に不適切な行為の疑い」

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 ビッグモーターの保険金不正請求が世間を騒がせている。元プレジデント編集長の小倉健一氏は「知人がビッグモーターに車を売ってみたら、激しく後悔していた」というーー。

ビッグモーター保険金不正請求。2717件調査のうち44%の1198件に不適切な行為の疑い

 「車を売るならビッグモーター」や「買い取り台数日本一」などといったキャッチコピーを使ったコマーシャルで、知名度を高めながら事業を拡大してきた中古車販売大手『ビッグモーター』(東京都港区)が、修理に出されたクルマを故意に傷つけて修理代を水増ししたり、損保3社に自動車保険の保険金を不正に請求していたことが明らかになり、大きな話題を呼んでいる。

  ビッグモーターが設置した外部の調査委員会がまとめた50ページにわたる報告書には、

ヘッドライトのカバーを割る ドライバーで車体をひっかいて傷をつける ろうそくやサンドペーパーなどを使って、車体に傷をつける ゴルフボールを靴下に入れて振り回し、車をたたいてひょうの被害で受けた傷の範囲を拡大させる リサイクル品を使って部品交換を行ったにもかかわらず、新品の部品を使ったとしていたケース 発注、使用しなかった部品を発注、使用していたとしたケース 実際には行わなかった作業を施工したとしていたケース

 といった具体的な不正行為が列挙されている。調査報告書によると、サンプル調査の対象となった2717件のうち、44%にあたる1198件が「何らかの不適切な行為が行われた疑いがある案件」として検出された。これだけの不適切の疑いがある案件が続出したにも関わらず、現時点でヒアリング等の実施はされていない模様で、「これらのすべてで不適切な行為が行われたと確実に認定できるものではない」などと結論づけている。

ビッグモーター社長「社員の2%の不祥事でも、会社全体の不祥事と決めつけているのはメディア」

  さらに、 ビッグモーター兼重宏行社長が、全店の店長を含む従業員たちに対して、メディアの一連の報道を批判するメッセージをLINEで送っていたことがわかった。兼重氏は「メディアの常として、全社員の2%に満たない一部のBP(板金塗装)社員の過去の不祥事でも、世間の関心を集めるために、会社全体の組織ぐるみだと決めつけて報道しています」としている。

 2%にも満たない社員の過去の不祥事というが、先の調査での社内アンケートでは、382人中のべ172人の従業員が、みずから不正な作業に関与したことがある、または自分以外の人が不正な作業を見聞きしたことがあると回答した。172/382を2%と片付けられる認識が、甚だ、何の反省もしていないことが明白だ。「バレちまったんだからしょうがない」ぐらいにしか感じていないのではないだろうか。LINEの内容を報じた産経新聞によると、広報担当者が「前半部分に不適切な内容が含まれていることについて猛省しております」とコメントを同紙に寄せている。

修理1件あたりの工賃と部品の粗利の合計金額の平均目標をノルマとして定める歪な企業風土

 不正な保険金請求が行われた原因について、報告書では「事故車両に対する修理工賃は、対象車両の損傷状況によって決まるものであるのに以前から、修理案件1件あたりの工賃と部品の粗利の合計金額について平均の目標値をノルマとして定め、工場長の会議などでその達成を強く求めていた」と指摘されている。修理案件につき金額ノルマが設定されれば、足りない分は、無理やり傷つけて修理代を請求するしかないではないか。会社法上の要件を満たす取締役会も開催されていないとなれば、兼重氏による異論を受け付けない独断専行型の経営が行われていた可能性が高い。「経営陣にそのまま従い、そんたくするいびつな企業風土があった」(同報告書)というのは、まさしくそのとおりだ。

ニュース後に、200万円の中古ドイツ車をビッグモーターに売ってみた

 私の親しくする知り合い(Yさんとする)が、1か月ほど前に、200万円ほどで中古のドイツ車をビッグモーターに売ったのだが、そのときの体験談が非常に示唆に富んだものだったので、許しを得てここに公開させてもらおう。ビッグモーターに嫌がらせを受けることの無いよう、本論には関係のないことについて金額を丸めている部分がある。

 Yさんはビッグモーターが客のタイヤにネジを突き刺しパンクさせ工賃を請求したり、実際は激安タイヤであるのに「高級タイヤと交換した」と嘘を述べたり、さらには「オイル交換はしたテイでいい」とアドバイスするLINEのスクショが存在していて、さらには車検に関しても無資格者が行っていたとする、週刊誌フライデーの記事をオンラインニュースで知っていた。しかし、「クルマを売る分にはひどいことをされる余地はないだろう」と考えて、中古車買取大手のガリバーとビッグモーターの両社で相見積もりをとることにした。もっとたくさん見積もりをとりたかったが、1社の見積もりだけでもかなりの時間がかかることが予想され、大手の2社に絞ったのだという。

 最初に赴いたのは、ガリバーだった。ガリバーでは、200万円(程度)の額を提示された。当初予想よりもだいぶ高値だったので、ガリバーとしても勝負にきたのだろう。2社目に向かったのがビッグモーターだった。ビッグモーターには、ガリバーでの値段を伝え、それよりも高ければ売ることを検討すると告げた。

やっぱりビッグモーターに車を売却「後悔した」

 すると、ビッグモーターが出した答えは以下のようなものだった。

「買い取り価格は200万円以上は難しいのですが、買い取った後で、クルマの内部が破損していたなどの場合に、お支払する金額が減ってしまうことがあります。それを防ぐための保険が3万円するのですが、その3万円を無料でおつけします。これでどうでしょうか」

 Yさんは、ビッグモーターが顧客が預けたクルマに対してめちゃくちゃなことをしているというフライデーの報道を通して知っていたため、保険に入らないと面倒なことに巻き込まれる気がしてしまった。ガリバーに戻って売ることも考えたが、どうせ同じ値段であることから、それについても煩わしさを感じて、ビッグモーター社員のいうままに、売ってしまったのだという。「ビッグモーターなら、勝手にクルマを傷つけるようなことをしてくるかもしれないと思ってしまったのがよくなかったのか。今になって考えると、回る順番をビッグモーターを先にしていたらまた結果は違ったのかもしれません。後悔しています」。

 ビッグモーターでは、顧客のクルマを傷つけるだけでなく、「(ノルマが)達成できないと、上司から「昼飯も食べるな」と厳しく叱責(しっせき)された」(朝日新聞デジタル・7月19日)など、従業員に対しても、ひどいことをしていたのが明らかになってきた。

 経営者の責任は極めて重いといえよう。