無人で走行するオーブテック社の新型マイクロバス「ミカ」(筆者撮影)

2023年4月から道路交通法や道路運送車両法などの改正により、公道での巡回サービスなどについて、いわゆる「自動運転レベル4」が解禁となった。特定条件下であれば、遠隔監視のみで、運転手が乗車しない無人自動運転の路線バスなどを運行することが可能になったのだ。‪少子高齢化に伴う運転手不足‬や公共交通機関の路線廃止などにより、とくに地方における住民の移動手段が不足するといった社会課題の対策として期待されている。

ボードリーが導入を発表した新型バスとは?


ミカの外観(筆者撮影)

そんな中、ソフトバンク傘下の「ボードリー(‪BOLDLY‬)」は、自動運転レベル4に対応した新型マイクロバス、‪エストニア共和国の‬「‪オーブテック‬(‪Auve Tech‬)」社が開発した「ミカ(‪MiCa‬)」を国内導入することを発表した。同社は、主に自動運転バスの運行管理プラットフォーム「‪ディスパッチャー‬(‪Dispatcher)」‬などを‪運用するIT関連事業者‬。茨城県境町や羽田空港に隣接する商業施設‪「HANEDA INNOVATION CITY(以下‬、‪HICity)」‬などで、自動運転バスの巡回サービスを実用化した実績を持つ。


ナビヤ社のアルマ(筆者撮影)

緊急時に車両停車などを行うオペレーター(運転手)1名を同乗させる必要があった従来の法規制下(自動運転レベル2)でボードリーは、車両にフランスの「ナビヤ(NAVYA)」社が製造する「アルマ(ARMA)」を使用してきた。ところが、法改正でレベル4も可能となると、対応車両にまったく新しいモデルであるミカを選び、世界に先駆けて初導入するという。周囲の検知機能やソフトウェアなどがよりアップデートされ、障害物の回避も自ら行うなど、自動運転の機能がより向上しているというのがミカ。しかも、日本導入モデルに関しては、‪オーブテック‬社との共同開発により、さまざまな機能を独自仕様に仕上げているという。

では、実際に、ミカとはどのようなモデルで、どういった特徴や優位性を持つのだろうか。2023年5月16日に、東京大学柏キャンパス 生産技術研究所の専用コースで実施された、報道関係者向け試乗会を取材したので、その内容を紹介しよう。

自動運転レベル4に対応したミカの特徴


ミカの車内(筆者撮影)

ミカは、バッテリーとモーターで駆動するEVタイプのマイクロバスだ。すでに日本導入されているアルマと同様、自動運転を前提としているため、ステアリングばかりか運転席すらない。


アルマの車内(筆者撮影)

車体サイズは、‪全長4.2m×全幅1.8m×全高2.5mと非常にコンパクト‬だが、最大8名の乗車が可能な広い室内を持つ。ちなみにアルマの車体は、全長4.75m×全幅2.11m×全高2.65mで、最大15名の乗車が可能。車体がやや小柄なぶん、ミカのほうが乗車定員も少ない。

だが、ボードリーによれば、「地方の巡回バスなどでの利用であれば、一度にさほど多くの乗客が乗ることはないため、十分な定員数を確保している」という。また、よりコンパクトな車体は、「‪小回りが利き、(地方などにある)狭い道路での走行にも最適‬」なのだそうだ。

なお、最高速度は20km/hで、バッテリーの充電時間は‪約1時間(急速充電モデルの場合)。フル充電で‬約20時間の走行ができる。比較的短い充電時間で、長時間の走行ができることで、1台あたりの運行時間をより拡大することも可能だ。


車両に搭載されたLiDAR(筆者撮影)

自動運転関連の装備では、‪7台のLiDAR(ライダー)センサー‬と、8台のカメラを搭載。これらにより、周囲の環境や障害物などを検知し、自動運転を行う。ちなみに、‪LiDAR‬とは、‪レーザー光を使ったセンサーのことだ。ユニットから照射したレーザー光が物体にあたり‬、‪跳ね返ってくるまでの時間を計測し、車両と物体までの距離や方向を測定‬する。ミカでは、100〜200mというより遠方を検知できる最新の‪LiDAR‬を採用。アルマなどの従来モデルが搭載する‪LiDAR‬の場合、検知距離は30〜60mだというから、かなり遠方までセンシングできることになる。


障害物を避けるミカ(筆者撮影)

また、ミカは、こうした最新型のセンサーと、より機能が向上したソフトウェアを搭載することで、先述のように、障害物を自動で回避することも可能。回避する範囲は、事前に設定することもできる。


このような街路樹などの回避も可能(筆者撮影)

例えば、路肩側にある街路樹の枝や葉が車線側まで伸びていて、そのまま真っ直ぐ走行すると車体にあたってしまうような場合。そうした事前にわかっている障害物を回避するケースでは、センターライン側へどの程度まで車線変更するかなど、回避動作を細かく設定できるのだ。

さらに、‪降雪や豪雨などの環境下での走行も可能‬だ。開発時には、‪オーブテック‬の拠点があるエストニア共和国の雪道などでのテストも実施し、悪天候時でも安全な走行を行えることを実証済みだという。


ボードリーの自動運転車両運行プラットフォーム「ディパーチャー」の画面(筆者撮影)

なお、新法規下において、自動運転レベル4が可能な車両として認可を得るためには、運行を遠隔監視することも要件のひとつだ(オペレーターが同乗しない場合)。運行中に、運行監視センターなどから、車両の室内や周囲をつねに監視し、危険がある場合は緊急停止などの遠隔操作を行う必要がある。

これについては、前述したボードリーの‪ディスパッチャー‬を活用することを想定。茨城県境町や‪HICity‬などで実績があるシステムだ。ちなみに、ミカの日本仕様では、製造段階で‪ディスパッチャー‬に‪対応した機器やカメラなどを搭載‬することで、より作動のマッチングを向上させているという。

実際にミカに試乗した印象


ミカの乗車シーン(筆者撮影)

以上がミカの概要だが、当日は、実際に乗車し、その乗り味などを体感してみた。数名の報道陣とともに、乗客として室内に入り、シートに座る。全員がシートベルトを締めると、早速出発だ。走行ルートは、あらかじめ作成された高精度3Dマップで設定されているため、オペレーターなどが乗車していなくても、決められた一定の道を自動で走る。

一般的な自動運転車両では、走行中の自車位置を特定するため、センサー類に加えGPSを併用することも多い。一方、ミカでは、最初の起動時のみ、自車がどの発進地にいるのかを特定するためだけにGPSを使い、走行中は使用しないとのこと。GPSは、山間部など衛星からの電波が届きにくい地形を走る場合や、大雨などの悪天候時には、正確な自車位置を特定できない場合もある。一方、GPSを頼りにしないミカでは、あくまで高精度3Dマップと‪LiDAR‬やカメラなどのセンサーのみを使うが、それでも、正確なルート走行を実現できるという。おそらく、想定する巡回サービスの運用では、事前に決められた一定のルートを走行し、それら以外の道を走ることはないため、GPSまでは必要としないのだろう。走るルートがシンプルなぶん、システムなどの不確実性も少なくなるようだ。

ミカとアルマの比較


ミカの走行シーン(筆者撮影)

筆者は、以前、アルマにも乗車したことがあるが、ミカのほうが発進からかなりスムーズに走る印象だ。また、巡航速度に到達するまでの時間も短い。これなら、他車両も走る混合交通の道路でも、比較的にクルマの流れに乗りやすいだろう。かといって、加速が急過ぎることはないし、交差点やカーブなどでの減速もかなりマイルド。まったくギクシャクしないため、安心して座っていることができる。


障害物を避けながら走行するミカ(筆者撮影)

今回の試乗では、車線の左側に設置したパイロンや、自転車などを自動で回避するデモも行われたが、その際も、ゆっくりと車線変更をするため、車体の挙動はとても安定していた。また、片側1車線の道路だったため、障害物を避けるには多少センターラインをはみ出す必要があったが、その際も、はみ出し方は必要最小限だった。さらに、障害物の真横では、かなり速度も落とすことで、まったく危なげのない回避動作を行っていた。

ボードリーによれば、こうしたよりスムーズな走りや、障害物回避などの新機能を実現できたのは、やはり「ソフトウェアのアップデート」が大きく影響しているという。従来から使用しているアルマが開発されたのは約5年前。最新モデルであるミカのほうが安全性能など、さまざまな機能がより優れているという。わずかな年月で、従来モデルから大きな進化を遂げるという点は、まるでPCやスマホと同じだ。

ただし、試乗中に気になったこともある。それは、障害物などもないし、前方の車道に歩行者などがいる気配すらないのに、急に緊急停止をしたことだ。しかも、かなりガツンとブレーキが利いたため、ほとんどの乗員が前のめりになってしまった。もちろん、全員シートベルトを締めていたため、室内で転んだりした乗員はいなかったのは幸いだったが。こうした急な挙動は、恐らく、センサーかなにかの誤作動だと思われるが、実際に運用するまでには、ブレーキの利き具合も含めて、きちんと調整する必要があるようだ。

具体的な運用と今後の行方


当日は、茨城県境町の橋本町長(左から2番目)や、ボードリーの佐治友基CEO(左から3番目)ら関係者も出席。境町とボードリーはミカ購入に関する覚書も締結した(筆者撮影)

ミカは、現在、関係省庁からの認可を取得するための申請など、実用化へ向けて動き出している。導入先としては、まず、茨城県境町が2023年中の購入や運用を予定しているという。同町では、自動運転バスによる巡回サービス用車両として、すでにアルマ3台を利用しているが、それにミカ1台を追加するという。


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ちなみに、今回の試乗会に参加した境町の橋本正裕町長は、もしミカが認可されたとしても、「いきなり自動運転レベル4での運行はしないだろう」という。現在、同町が実施しているアルマの巡回サービスは、自動運転ではあるが、オペレーター1名が同乗する自動運転レベル2での運用だ。緊急時に車両を停止させるなど、安全運行に関する操作を行う人員を乗せているという点では、「運転手付き」と同様となる。それが、いきなりオペレーターがまったくいない自動運転バスが運行し始めると、「不安に感じる高齢者なども多いだろう。そのため、ミカにも当初はオペレーターを同乗させ、様子を見ながら徐々に(レベル4へ)移行していく」という。

ボードリーは、‪2023年度に‬、境町を含め‪約10台のミカを、日本‬に導入することを目指すという。新法規の後ろ盾も得た自動運転レベル4対応のミカが、これから、どんなエリアで走り、その地域でスタンダードな乗り物として認知されるのかなど、今後の動向にも注目したい。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)