7月最終週にアメリカ、欧州、日本と金融政策決定会合が続く(写真・ロイター)

外国為替市場ではインターコンチネンタル取引所(ICE)に上場するドルインデックスが約15カ月ぶりに100を割り込んだことが話題となっている。


日本では「円高・ドル安」が耳目を引いているものの、為替市場全体で起きていることはあくまで「ドル売り」であり、円が評価されて上昇しているわけではない。

米=ハト、欧=タカで「ユーロ買い」

為替市場においてドルインデックス(dollar index)と呼ばれる指数は多種多様あるが、足元で話題となっているICEの指数は58%がユーロから構成されるという特徴がある。ちなみに円は13%だ。


よってICEのドルインデックスの下落は「ドル売り」を意味するが、「ユーロ買い」を意味する部分も大きいということになる。よりラフに言い換えれば、ICEのドルインデックスは半ばユーロ・ドル相場に近似する性質があると言ってよいだろう。

ユーロが買われている背景は、かねて筆者が論じてきたように、中央銀行のタカ派姿勢の持続性に関し、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)がECB(欧州中央銀行)に劣後しそうだからという点に尽きる。

7月利上げ・9月見送りが既定路線となりつつあるFRBに対し、7月・9月の利上げが濃厚なECBという格差がそのまま欧米金利差に表れ、ユーロ・ドル相場を牽引しているのが現状である。

つまり、ICEのドルインデックス下落はFRBのハト派を見込んだ動きでもあるが、ECBのタカ派を見込んだ動きでもあり、両通貨の金融政策動向を勘案した結果がたまたま「100割れ」というわかりやすい節目に至ったと考えておくのが無難である。

現状、ICEのドルインデックス下落からドル円相場の潮流変化まで主張することは難しいのではないかと筆者は考える。

為替の実態を表す指数とは

同じドルインデックスを参照にするならば、ICEよりも国際決済銀行(BIS)の公表する名目実効相場(NEER)を広義(Broad)ベースで見るほうが為替市場全体の実態をつかみやすい。

BISの名目実効相場(Broad)の構成は、最大でも人民元の2割強、ユーロに至っては2割弱と各通貨の影響力はかなり分散している。


ICEのドルインデックスと比較してユーロの動きに左右されることはなく、幅広い通貨の動きを総合していることがわかる。こちらのほうが国際貿易におけるドルの強弱を検討するうえでは適切と考えられる。

BISの名目実効相場でG3通貨(ドル、円、ユーロ)の動きを年初から比較すると、ユーロ相場は確かに一強状態だが、ドル相場は極端に弱っているわけではなく、円の独歩安という印象だけが残る。


もっとも、本稿執筆時点ではBISの名目実効相場はまだ7月10日時点までしか公表されていない。ICEのドルインデックスが7月10日から14日にかけて急落していることに鑑みれば、BISのドル名目実効相場も類似の動きをしていたのかどうかは確認する価値がある。

しかし、仮に、ICEのドルインデックス急落の背景がFRBとECBの金融政策格差だとすれば、6割弱がユーロの動きに依存するICEのドルインデックスと異なり、BISのドル名目実効相場はそこまで下落していない可能性もある。

FRBは7月にハト派に転じるのか

いずれにせよ本格的なドル安転換を判断するにはNEERの動きまでチェックしたい。指数によって示唆する程度の差はあるが、現時点でドル安圧力が強まっているのは確かだろう。それはFRBの利上げ停止に賭けた動きと考えられる。

しかし、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)があえてハト派的な情報発信を強める理由もなく、最近のドル売りにはやや性急さを感じざるをえない。

何より、過去の寄稿を通じて円安の背景を日本の需給構造の変化に求めてきた筆者の立場からすれば、FRBが利上げを止めたり、利下げに転じたりすることが、そうした構造的な円安圧力を緩和することに何の影響も持たないことは強調しておきたい。

そのように考えるとドル円相場が米金利主導で押し下げられる局面では、淡々と押し目を拾う姿勢が長い目で見れば報われるのではないかと考えたい。

(唐鎌 大輔 : みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)