業界の状況が好転している中で、ミニストップの不振が目立っている(記者撮影)

コンビニ業界4位、ミニストップの業績が厳しい。7月12日に発表された2023年3〜5月期決算は売上高に当たる営業総収入が195億円(前年同期は205億円)、営業損益は5億円の赤字(前年同期は7億円の赤字)となった。

コンビニ各社の状況は好転している。コロナ禍での行動制限がなくなり人流が回復、出先での朝昼食需要が上向いているからだ。セブンーイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンの大手3社は、今年に入って既存店客数が前年同月比で100%を超えている。そこに昨年からの値上げラッシュによる客単価上昇も加勢し、大手3社の既存店売上高は同104〜105%台前後で推移している。


しかしミニストップだけは様相が異なる。既存店の客数は2022年10月以降、前年割れ。つれて既存店売上高も伸び悩んでいる。小売業にとって客数は、お客からの支持の表れといえる重要なバロメーター。コンビニ全体が回復局面にある中、なぜミニストップが客数減に直面しているのか。

価格戦略が迷走

ミニストップは月次業績とは別に、店内加工ファストフード(FF)の月次販売動向も公表している。これと全体を比較すると、全商品が不調ではないことがわかる。


X型にカットされた「Xフライドポテト」や「ソフトクリーム」を含む店内加工FFは、年始から前年同月比110〜120%台と安定して推移している。これらはミニストップ自身も他社との差別化になる商材と自負しており、特にソフトクリームは専用の機械を店内に配備するこだわりようだ。

オペレーションも複雑で、1万、2万店以上を展開する大手3社にはそう簡単に模倣できない。そのため、ポテトやソフトクリームは3月に10〜20%以上値上げをしてもなお、順調な販売数を維持している。

チェーン全体の不調が続いている要因として、社内外の関係者が口をそろえるのが、価格戦略の迷走だ。その最たる例がおにぎりである。

ミニストップは2019年7月、従来最大130円(税抜き、以下同)だった工場製造のおにぎりを100円に値下げした。競合他社が人件費などの高騰からおにぎりの値上げに踏み切っていた中での「奇襲作戦」だった。


2019年当時の店頭。「おにぎり100円」を全面に打ち出している(編集部撮影)

2019年度当時の月次を見ると、上期(3〜8月)の既存店客数は全ての月で前期割れしているものの、7月の値下げが浸透した下期(9〜2020年2月)は全ての月で前期比超え。客単価も9月を除けば全月で前期を超えている。季節を問わず日常的に購入されるおにぎりで、節約志向の消費者を捉えたといえるだろう。

だが足元の物価高騰の影響もあり、ミニストップは昨年10月、「100円おにぎり」を廃止せざるを得なかった。「値上げ後も他社よりは安い」(ミニストップのIR担当者)が、短期間に値下げと値上げを繰り返してしまったこと、また「100円おにぎり」という他社にはない価値を失ってしまったことで、「おにぎりの販売が落ち込んでしまい、それに比例して全体の客数も減ってしまった」(同)。

客数減に焦った本部は、110円など低価格帯のおにぎりの種類を増やすことで対抗した。販売は若干上向いたというものの、まだ値上げ前には戻っていないという。

「一貫性欠き、現場は疲弊」とオーナー

「価格が突然下がり、今度は突然上がった。なんで下げたのか、なんで上げたのかわからない」

価格戦略の迷走については、加盟店からこんな声が上がっている。さらにある加盟店のオーナーは「最大の問題は、本部側がこうした施策を打った背景を加盟店に説明し、オーナーたちをまとめようとする姿勢が弱いことだ。本部の中長期的な経営戦略が見えず、現場は疲弊している」と指摘する。

コンビニ各社にとって加盟店との連携強化は永遠の課題だ。たとえば最大手のセブン-イレブンは、2019年から永松文彦社長とオーナー15人ほどとの意見交換会を、今年からは全オーナーを集めた交流会をスタートさせている。オーナーにとっては、他のオーナーの取り組みを知るいい機会になっているという。

他方ミニストップでは、「勉強会は社長が一方的に話す録画が店舗のコンピューターに送られるだけ。交流会についても本部主導で企画されることはなく、知り合いのオーナー同士で非公式に会うしかない」(前出のオーナー)。本部と加盟店が密にコミュニケーションを取れるのが小規模チェーンの利点のはずだが、ミニストップはその利点を生かし切れていない。

「業績不振で既存店テコ入れにリソースを割けず、結果、集客に影響が出て、より業績は厳しくなっている」と指摘する関係者も多い。実際、大手3社と比べ、店舗への投資には大きな差がついている。

セブンーイレブンは前2022年度に国内で939億円の設備投資を実施、これを期末の国内店舗数で割ると、1店舗当たり約440万円に相当する。業界3位のローソンも前期実績(南九州など一部エリアを除く)は同約200万円だ。

一方、ミニストップは国内外合わせても前2022年度設備投資額は約22億円で、1店舗当たり110万円程度に過ぎない。チェーン全体の儲けが減る中で、既存店の活性化投資が遅れ、それが競争力低下を招き、さらに儲けが減る、という負のスパイラルに陥っているように見える。

新規出店など投資を2.6倍に

こうした状況に対し、本部も策を打っている。

まず本部とオーナーとの関係強化策については、2021年から新しいフランチャイズ契約に順次移行している。本契約は売り上げが低〜標準レベルの店舗では加盟店の利益が従来契約より減ると試算されるなど賛否はあるが、従業員の採用などにも本部が踏み込める内容であり、担当者は「チェーンの経営体制は強化されてきている」とする。

投資についても、今2023年度から2025年度までの3カ年で354億円(直近3カ年の約2.6倍)の投資を行う計画を公表している。今期は既存店の改装投資を積極化して、来年度以降は国内と育成中のベトナムで新規出店を強化する予定だ。

こうした施策は、これまでのところ効果を発揮しているとはいえない。コンビニにとって人出の増える夏場は最大のかき入れ時。そこでどこまで盛り返せるか。ミニストップにとっては正念場の夏となりそうだ。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)