「雑談が苦手」という管理職は多いようです(写真:IYO/PIXTA)

職場は楽しく過ごすための場所ではない。仕事の成果を出す場である。だから無駄な雑談などしないで黙々と働くべきだ。そう自分に言い聞かせて雑談を避けているマネジャーがいるようです。しかしその考えは誤解で、職場の生産性を高めるためにも雑談は必要なのです。元Googleの人材開発責任者でもあるピョートル・フェリクス・グジバチ氏の最新刊『心理的安全性 最強の教科書』から、マネジャーにとって重要な雑談の意味とヒントを紹介する。

職場の心理的安全性に不可欠な相互理解や適切なサポートの提供には、お互いにコミュニケーションをたくさん取ることが大事です。これに異論のある人はいないでしょう。

そしてコミュニケーションの頻度は、できるだけ多いほうが望ましいと言えます。最近は、多くの会社が1on1を取り入れています。よい傾向ではありますが、とはいえ月1回の1on1がその部署でのコミュニケーションのすべてだとしたら、十分な頻度とは言えません。月1回よりも週1回、さらには少しの時間でも毎日話せる状態が理想です。

雑談が苦手な上司の誤解

日々のコミュニケーションに欠かせない雑談ですが、「雑談が苦手」というマネジャーは多いようです。


理由のひとつは、仕事中に仕事と関係のない話をするのは気が引けるというもの。あるマネジャーは私に、「『昨日のあのテレビ見た?』といった他愛もない雑談は仕事中にしづらい」と話してくれました。

雑談が苦手なもうひとつの理由は、「自分からネタを提供しなければならない」「自分のことを話さなくてはならない」という思い込みです。そのため、「仕事中に自分の話をして相手にウザがられたらどうしよう」「自分の話に興味なさそうだったらショックだ」と心配しているのです。

雑談が苦手と感じているマネジャーは、どうやら雑談を誤解しているようです。自分の話したいことを話すのが雑談だと思っている人が多いのですが、実はそうではありません。職場の心理的安全性を重視するマネジャーが仕掛ける雑談は、「メンバーを気持ちよくするためのもの」なのです。

たとえば、冬の寒い日に、薄手のコートを着たメンバーが凍えそうな表情で部屋に入ってきたら、「寒そうですね。温かいお茶はどうですか?」「部屋の温度を少し上げましょうか?」と声をかけると、相手はあなたの気遣いに触れてほっとします。

あるいは、新型の時計を身につけている人がいたら、「それ、新しいモデルですか? 素敵ですね」「どんなふうに使うんですか?」と興味を持って質問します。こんなふうに話しかけられたら、相手はうれしいでしょう。

これがマネジャーにとって必要な雑談です。必ずしも自分の話をする必要はないのです。

マネジャーの雑談は「診察」

マネジャーは、声をかけることで相手の状態を知り、どんな形で相手をサポートすればいいかを探ることができます。つまり、雑談は相手の状態を知るための「診察」なのです。

言い換えると、雑談とは「相手が今どんな状態なのか。この場の心理的安全性を高めるために相手に対して取るべき次のアクションは何か」を確認するためのツールなのです。

「雑談は診察」と考えれば、自分のことを無理に話さなくてもいいわけですから、ハードルが下がりそうですね。好奇心を持って相手の状態を観察して、「今、相手が何を必要としているか」に集中するだけなので、誰でもできるようになります。

「雑談が苦手」というマネジャーは、実はメンバーのことをよく見ていないのかもしれません。会話のやり取りが続かないのは、相手の状況や気持ちを無視して話を進めようとしているからではないでしょうか。

ぜひ、「相手を気持ちよくする」ことを意識しながら、雑談してみてください。

それでもまだ雑談に対して苦手意識があるマネジャーのために、ヒントをもう少しだけ解説しましょう。

Meet them where they are.という英語の表現があります。これは「相手が今いる場所に会いに行きましょう」という意味です。つまり 「相手に合わせる」 ということです。

たとえば、ゆっくり考えながら話すタイプのメンバーと話をするとき、自分(マネジャー)はテキパキと早口で話すタイプだとしても、この場合はメンバーのペースに合わせて、できるだけゆっくりと話すことを意識します。

メンバーにしてみれば、テキパキと話すマネジャーとの会話は、緊張して心理的安全性を感じられないかもしれません。しかしマネジャーが自分に合わせてゆっくりと話してくれれば、緊張がほぐれて気持ちが落ち着きます。また、無理して相手に合わせる必要がなくなるので、メンバーは自分らしくいられることで心理的安全性を感じます。

これがMeet them where they are.です。

メンバーはその気持ちだけでもうれしい

「そんな器用に相手に合わせて話したりできない」と心配する必要はありません。上手にできなくても、あなたがそうしようと努力している姿勢を見せるだけで、実は、ほぼ目的を達しているからです。どういうことでしょうか?

マネジャーが自分に好奇心を持って、集中して、寄り添ってくれているのを感じたら、メンバーはうれしく思うはずです。「マネジャーは自分の敵ではない」と感じるとともに、信頼と尊敬の念を抱くでしょう。

やれるかやれないかなんて気にしないで、どんどんメンバーのいる場所に会いに行きましょう。そうすることでメンバーは、自分の思うことを自由に話しやすくなり、チーム内の心理的安全性も高まるのです。

(ピョートル・フェリクス・グジバチ : プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者)