「M&Aは時間と荷主を買える。償却が終わった倉庫を手に入れることもできる」とSBSの鎌田正彦社長は語る。倉庫をどのように確保していくかは3PLの生命線だ(写真:SBS)

3PL(物流の一括請負)事業を軸にM&Aを繰り返し、急拡大を続けるSBSホールディングス。この10年間で売上高は3倍、営業利益は5倍に急拡大し、業界きっての成長企業として知られる。緻密な戦略と大胆な経営判断で成長を牽引してきた、佐川急便のドライバー出身の創業者、鎌田正彦社長に戦略を聞いた。

――M&Aを拡大戦略の軸に置いた背景は?

かつて日産自動車でカルロス・ゴーン氏が改革を進め、グループの物流会社を売却した。このときほかのメーカーでも同じように物流子会社を売却する動きが広がると思い、M&Aで成長していこうと考えた。

ずっと規模拡大が必要だと思っていた。日本の物流は日本通運やヤマト運輸、佐川急便などの大手が昔から存在し、売上高20億〜30億円の会社でもみんな下請けをやっている。

SBSも下請け中心のときがあった。小さな会社では資金繰りも苦しくて……。ただ、物流で下請けに甘んじると成長できない。大手にどう対抗するか考えたときに、必要なのは規模。規模を広げるためにM&Aが必要で、M&Aのために株式上場しようと思っていた。

上場時はメール便が中心だった

――物流業界で3PL業者は多く存在しますが、なぜSBSは3PLに参入したのでしょうか?


かまた・まさひこ 1959年生まれ。1979年東京佐川急便(現佐川急便)入社。関東即配(現SBSホールディングス)取締役を経て1988年から現職(撮影:尾形文繁)

2003年の上場時はメール便の事業が中心で、ほかは運送業と人材派遣業。ただ当時は郵政民営化の話もあった。結局、メール便は郵政の事業で、いずれ価格競争になって生き残れないだろうと思い、事業を売却。物流のM&Aを本格的に進めることにした。

実際、これまでいろいろなメーカーの物流子会社をM&Aでグループに入れ、戦える集団に変えて伸ばしてきた。3PLを簡単に言えば物流のアウトソーシングで、単に倉庫事業だけで3PLという会社もある。

われわれは倉庫内のオペレーションをやり、トラックの運送、システムまで携わることで合理化する。そこまで含めて3PLと言っている。

メーカーは工場に投資するが、物流には投資しないし、倉庫も作らない。それをSBSが代わりにやる。売却した物流会社が成長して安定すれば、仕事を頼むメーカー側にとってもいい。SBSが投資をして責任を持って事業を拡大するのは最適の形だろう。

――買収した会社をどのように立て直してきましたか?

2004年に雪印物流(現SBSフレック)、2005年には東急ロジスティック(現SBSロジコム)を取得した。当時のSBSロジコムはトラックを1000台所有して売上高270億円、営業益10億円。うち物流事業の営業益は2億円だった。業績は横ばいで営業は3〜4人。新規開拓はほぼやっていなかった。

償却済みの自社倉庫が50ほどあり、安く貸していた。これらを適正価格に値上げし、倉庫で働く正社員スタッフを大幅に減らしてパート・アルバイトを増やした。社員は営業など付加価値のある仕事に割り当てたことで、倉庫がローコストで運営でき、営業も増えて戦える集団になった。

営業すると新しい倉庫が必要になる。安い土地を買って倉庫を作り、信託受益権(賃料などを受け取る権利)にして、賃料は坪3000円などで借りる契約を結び3500円で顧客に貸す。倉庫内のオペレーションも全部SBSが担当する。

その後、信託受益権を売って収入を得ても、賃料は継続的に入ってくる。こうしたスキームで安い倉庫を手に入れることができる。安い倉庫は3PLにとっていちばん重要な要素だ。現場を磨いたことで、コンペでは大手にも負けなくなった。SBSロジコムは売上高が約700億円、営業益は50億円に成長した。昇給もして、いい会社になっている。

2018年に取得したリコーロジスティクス(現SBSリコーロジスティクス)も同じ。既存の社員で営業を強化する。ローコストで運営する力を磨き、倉庫を開発し、システムに投資する。勝てる方程式がわかってきた。

利益の出し方を教えていく

――実際は買収後の改革が簡単に進まない例は多くみられます。

物流といっても鉄鋼の運送から倉庫の作業までさまざまだ。一つずつ顔を合わせて話をして、こうすれば利益が出ると教えていく。倉庫やトラックでの荷物の積み方にしても、空気をなくして容積いっぱいにできれば儲かる。グループで仕事を振り分け、ほかのグループ会社の倉庫も活用する。物流はそこまでやらないと利益が出ない。

改善には時間がかかるし、人事だけでもだめ。ウエットな人間関係を作って一緒に飲み、ご飯も食べて、夢を語る。いきなり指示するのではなく、やってみせる。相手も納得してやる気になれば伸びていく。

リコーロジはホームセンターやドラッグストアの仕事も獲得している。メーカー子会社のときはできなかったが、今ならできる。システムはわれわれが提供するし、建物も投資する。すると物流会社だから水を得た魚のように頑張るわけです。営業の相談も来るようになり、いい循環ができる。


――物流業界で大型の設備投資やM&Aが活発化しないのはなぜですか?

サラリーマン社長とオーナー社長の違いだろう。大手はそこまでリスクをとらない。土地を買う場合も、どんなお客さんがいて、どう埋めていくかが問われる。次の社長が方針を否定することもある。だから土地も買わないし、M&Aもしたくない。

SBSの場合はしばらく仕事がなくても、4万坪の土地でも安ければ在庫で買う。多少不便でも、高速インターから近い場所なら、安い土地は買って押さえようという考えだ。M&Aも実行するときは瞬間に判断している。

もちろん、われわれも失敗はあった。創業5年目ぐらいに小さな運送会社を買収したが赤字になり失敗した。事業が自転車操業の状態だったときに、だまされて何千万円もすった。近年はインド子会社で損失を出している。今でも勝負しているからね。

読売新聞と組んで配送網を作る

――ウェブサイト構築・運用、物流・配送、サポートまで担うEC物流プラットフォーム事業が本格始動します。

ECを活用する事業者はアマゾンや楽天などで商品を売るが、自社サイトでもたくさん売っている。物流は自分でやらなければならないが、多くの事業者は資金がなく、中小の物流会社も資金がない。SBSはこのニ−ズにようやく応えられる規模になってきた。

ECプラットフォームでは、ITとロボットの力が必要だ。M&Aでメーカーの人材を獲得し、IT人材は200人、ロボットを扱える人材も50人いる。僕らは倉庫内の作業やロボット、システムに投資していくので、安い料金で使ってもらいたい。ECの発展には物流のローコスト化が不可欠だ。

そこで読売新聞と組んだ。一都三県は読売新聞、それ以外はわれわれが配送網を作り、全国の5〜6割を占める配達網を作ることで物流全体をローコストにできる。そうすると、アマゾンや楽天に頼らなくても、ECで一緒に発展できる。EC化率はまだまだ上がるし、こうしたサービスを物流事業者が作らないといけないと思っていた。

2024年に千葉県野田市で4万坪のセンターが稼働する。機械化を進めて保管、ピッキング、出荷、配達までやる。これが成功すると倉庫も増え、2030年にはECで1000億円ぐらいの売上高になるだろう。今は若手も含めた40人ぐらいの専門チームでどう攻めていくか議論しているところだ。

物流業者の中では誰も成功していない。スピード感や投資能力も備わってきたので、大手が出てきても負けないと思っている。

――業界のドライバーの待遇や、残業規制導入で人手不足が深刻化するとされる「2024年問題」についてどう考えますか?

業界のドライバーが不足しているのは間違いない。運賃も底上げしていかないとだめだ。そのためには、単に荷主に転嫁するだけでなく、ロボット化やシステム投資、配送効率化などの努力も必要になってくる。

ただ、大手みたいに「一律10%上げないと運ばない」というのは、宅配のように寡占された市場の話。われわれはまだ競争も激しい。そう簡単には価格を上げられないところもある。

3PLはいまだにドラッグストアなどから引き合いがきている。さらにEC物流もあり、相乗効果で伸ばしていく。売上高7000億円達成を目指したい。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)