発足当時、スタンダード市場はプライム市場と同列、という建前だった(撮影:尾形文繁)

東京証券取引所のスタンダード・グロース市場に上場する企業のうち少なくとも68社が今年1月から6月末までに新たに上場維持基準に抵触し、計画書を提出したことが東洋経済の集計でわかった。

2022年4月に新市場区分に移行して約1年が経過。移行当初は基準を満たせたものの、業績悪化や不正会計の発覚などで株価が下落し基準を満たせなくなる例が続出している。プライム市場では57社が基準未達になった(東証プライムから新規50社超の「脱落危機」リスト)。

スタンダード市場への移行、という救済措置が用意されているプライム市場とは異なり、スタンダードやグロース市場の上場企業には、逃げ道がない。

例えば3月末決算企業の場合、2026年3月までに基準を満たせない場合は上場廃止基準に該当する可能性があるとして監理銘柄に指定される。その後も基準を満たせない場合は最終的に上場廃止となる。

そもそも、スタンダード市場の上場維持基準は流通株式時価総額が10億円とプライム市場が要求する100億円より格段に低い。流通株式比率も同様で、プライム市場が35%以上を求めるのに対し、スタンダードでは25%以上でいい。グロース市場の基準はさらに低く、流通株式時価総額は5億円以上を求めている。

安定株主への対応に苦慮

各社が開示した計画書には、担当者の苦悩が滲む。

「安定株主の皆様に対し、これまでの保有に感謝申し上げるとともに、今後、当社株式の市場への放出にご協力いただけるよう要請してまいります」

消防・防災関連など各種ゴム製品の専業メーカー、櫻護謨は6月29日に東京証券取引所スタンダード市場の基準に適合していないことを適時開示した。流通株式時価総額と流通株式比率の2つで基準未達となった。大株主に売却を依頼する企業は多いが、感謝のコメントを添えた開示はめずらしい。

「役員及び役員の2親等以内の親族」に対して保有株の売却を促すとしたのはヒューマンホールディングス(スタンダード市場上場)だ。開示によれば流通株式比率が20.85%となり、新たに基準に抵触した。

同社の大株主欄には佐藤耕一会長をはじめ、社長の佐藤朋也氏など佐藤姓の株主が並ぶ。3月には新たに佐藤姓の個人が「安定株主として保有」目的で9.1%の大量保有を報告している。はたして2025年3月末までに売却は進むのだろうか。

ほかにも「特定の元従業員の不正行為」に言及し「かかる事案の及ぼす影響も考慮すべきである」とした会社や、「普通銀行に売却を打診」すると記載した企業など、各社各様の工夫で上場維持基準の適合に向けた計画を公表している。

基準未達企業がすがる意外な逃げ道

こうした基準未達企業は今後も増え続ける可能性がある。ただ、東証が市場区分の移行に際して用意した経過措置の適用を受けられるのは2025年2月まで。それ以降は上場維持基準に抵触した場合、監理銘柄となり、それでも基準を満たせない場合は上場廃止となる。

プライム市場の上場企業であれば、経過措置終了後も再度上場審査を受けることで、スタンダード市場へ鞍替えすることができる。ではスタンダードやグロースの上場企業は座して上場廃止を待つほかないのか。

市場関係者の間で上場廃止を回避する秘策として噂されているのが、地方市場への上場だ。札幌、名古屋、福岡などの証券取引所が想定されている。

上記の3市場では、東証などほかの証券取引所で上場している企業が新規に上場する場合、証券会社による上場審査を実質的に免除する仕組みがある。元々は東証や旧大阪証券取引所などとの重複上場を促すための制度だが、上場維持基準もスタンダードやグロースよりさらに低く、東証からの移行がしやすくなっている。

ある地方市場関係者は「東証がダメならうちで、という営業はしていないが、市場なので品物は多いほうがいい。上場してくれる企業が増えること自体は歓迎」と話す。

ただ、現時点で東証の市場再編を理由に地方市場に上場した企業はまだない。逃げ道を確保するよりもまずは業績の改善や流通株式比率の向上など、目の前の課題解決を図るほうが先決だ。


(梅垣 勇人 : 東洋経済 記者)
(一井 純 : 東洋経済 記者)