プライム市場の上場維持基準を満たさない企業が続々と出現している(撮影:今井康一)

東京証券取引所のプライム市場から「脱落」しかねない企業が、じわりと増えている。

東証はプライム市場の上場を維持する条件として、時価総額や流通株式比率などに基準を設けている。決算期末時点で上場維持基準に適合していない企業は、改善計画書を策定・公表する必要がある。

2022年4月のプライム市場発足時点で、296社が基準に適合していなかった。3月期決算企業の場合、2026年3月末時点で不適合のままなら上場廃止予備軍である「監理銘柄」に指定され、最短で同年9月にも上場廃止となる。

そして2023年に入り、少なくとも57社が新たに上場維持基準に適合しない状態となり、計画書を策定・公表したことが東洋経済の調査でわかった。不適合の理由として最も多いのは流通株式時価総額。昨年のプライム市場移行時点では基準に適合していたが、その後株価が下落したことで基準を下回った。なお、スタンダード・グロース市場では、少なくとも68社が今年1月から6月末までに新たに上場維持基準に抵触し、計画書を提出した(業績不振・不正で「基準不適合」入りの68社リスト)。


店舗開発を手掛けるフィル・カンパニーは、プライム市場への移行時点では上場維持基準に適合していたが、2022年11月決算時点では流通株式時価総額が一転して不適合となった。2021年に2000円台で推移していた同社の株価は、2022年に入ると1000円前後をうろつくようになり、流通株式時価総額が36.6億円まで縮小した。

次に抵触した企業が多かったのは流通株式比率だ。発行済み株式から大株主や取引先、役員などが保有する流動性の低い株式を除いた割合を指す。液晶パネル大手・ジャパンディスプレイは、金融支援を目的に支配株主に対して第三者割当増資を行った。その結果、筆頭株主の保有比率が急上昇し、流通株式比率が14.6%まで低下し上場維持基準に抵触した。同社は経営再建を進め、大株主に株式の売却を促す。

流通株式比率の不適合理由はさまざまだ。日産車体は3月末時点で流通株式比率が16%にとどまった。原因は大株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが保有する約23%の株式が、突如として流通株式から除外されたためだ。

10%以上を保有する大株主の場合、投資信託やファンドなどで実質的な保有者が小口の保有にとどまる場合など、東証が認めた場合に限り、流通株式として数えられる。最初のプライム市場移行基準日である2021年3月末時点で、エフィッシモから流通株式として認められるために必要な書類の提出を受けたことで、上場維持基準を満たすことができた。

ところが、2023年3月末の適合判定では、日産車体が流通株式の基準を満たしていることを証明するために必要な書類の提出を求めたものの、エフィッシモは協力を拒んだ。そのため、エフィッシモが保有する株式が流通株式とみなされなくなり、上場維持基準の不適合となった。日産車体は引き続きエフィッシモに協力を求めるとともに、一部大株主には株式売却を働きかける構えだ。

残留を懸けるか、自主降格か

上場維持基準に不適合となった企業には、2つの選択肢がある。1つは、基準適合に向けて企業価値を磨き、プライム市場に残留することだ。ただし、冒頭で述べたように不適合の状態から脱せなければ、2026年にも強制的に上場廃止となるリスクを抱える。

もう1つは、上場維持基準の緩いスタンダード市場への自主降格だ。実は、2023年9月末までなら、申請書の提出だけでスタンダード市場に移れる(制度の詳細はこちら)。みずほ信託銀行の調査によれば、6月末時点でプライム市場上場企業の47社がスタンダード市場を選んだ。

八木啓至・企業戦略開発部次長は「6月末までに(プライム市場への残留か、スタンダード市場への降格かを)決めきれなかった企業は多い。8月末から9月にかけて、次の山場が訪れる」と見る。プライム市場への移行時点で上場維持基準に不適合だったうえ、2023年に入って別の基準にも抵触した企業もおり、身の丈に合ったスタンダード市場を選ぶ動きはまだまだ起こりそうだ。

上場維持基準の判定は毎年行われるため、2024年もプライム市場の「脱落予備軍」が大量に出現する可能性は高い。日本を代表する株式市場は、基準を満たさなければふるい落とされる緊張感と隣り合わせでもある。


(一井 純 : 東洋経済 記者)
(梅垣 勇人 : 東洋経済 記者)