昼の帯バラエティ番組『ぽかぽか』。ここまですべての回を見てきた筆者が、番組の魅力を掘り下げます(画像:『ぽかぽか』公式サイトより)

昼の生放送の帯バラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)が始まってすでに半年余り。どうしても『森田一義アワー 笑っていいとも!』(以下、『いいとも!』)と比べられるため厳しい目が注がれがちだ。だが実際に見てみると、意外に(と言っては失礼だが)面白い。ここまで欠かさずすべての回を見てきた筆者が、この番組の魅力を掘り下げてみたい。(文中敬称略)

「ぽいぽいトーク」の魅力

『ぽかぽか』のMCはハライチの岩井勇気と澤部佑、そして神田愛花の3人。それに月曜から金曜の各曜日に伊集院光などのレギュラー出演者が加わる。まんぷく昼太郎という「ぐーたら」を自称する癖の強いマスコットもいる。

そして全曜日に共通する企画が「私たち勝手にこう思ってました!ぽいぽいトーク」だ。日替わりゲストとの生トークコーナーで、そう聞くと『いいとも!』の「テレフォンショッキング」を思い出すひとも多いだろう。

だがテイストは少し違う。この「ぽいぽいトーク」、その日のゲストについての勝手なイメージを「○○っぽい」という言いかたで次々にぶつけるというもので、純然たるフリートークというよりはむしろ大喜利に近い。

澤部はトークを仕切る進行役。一方岩井と神田は、自分の前に高く積まれた大量のフリップを使い、大喜利の要領でゲストの「〇〇っぽい」イメージを次々と出していく。

イラストを交えたユーモラスなものもあれば、世間のイメージをネタにした毒のあるものもある。時にはゲストが怒らないかとヒヤッとするようなものも。だがそこは澤部が素早く引き取り、それらの“ボケ”に臨機応変にツッコんでいく。

例えば、マツコ・デラックスがゲストの回ではこんなことがあった。

澤部の質問にちゃんと答えず好きにしゃべるマツコ・デラックスに対し、前日のゲストの北川景子のほうが良かったと愚痴り出す澤部。するとマツコは「この番組はそういうほうがいいんだな!」とさらに暴走し始める。するとすかさず岩井が「進行を無視する私を見せにきてるっぽい」と書いたフリップを出す。その見事さに思わず感心するマツコ。

この場面などは、「テレフォンショッキング」とは異なる大喜利テイストとフリートークとのハイブリッドな部分が最も活きた瞬間だった。

シンプルだが奥が深い「牛肉ぴったんこチャレンジ」

この「ぽいぽいトーク」のなかの恒例企画が、「目指せ300g 牛肉ぴったんこチャレンジ」だ。ゲストが約2kgの高級牛肉のかたまりを300g目指して切るというゲーム。ぴったり300g分切れれば、かたまりをまるごとお持ち帰り。また誤差±10g以内なら、切った分だけ持ち帰ることができる。

シンプルなゲームだが、これが意外に難しく奥が深い。かたまりの形状は毎回違う。さらに脂分が多いか少ないかによっても微妙に重さが違う。視聴者も毎日見ているとなんとなく「300g」が感覚的にわかってきて、答え合わせをしているような気持ちになる。筆者もそうだが、この企画を楽しみに見ているという視聴者も少なくないはずだ。

切りかたひとつにも、ゲストの個性が出る。2回まで切って微調整できるルールなので、それをどう活用するか作戦を練ってくるゲストもいる。「東大生タレント」の代表格・伊沢拓司などは完璧な作戦を思いついたと豪語していたが、あえなく失敗だった。

番組史上最初の成功者はGACKT。しかも1回だけ切って309gの成功。さすが「持ってる」と思わせてくれた。そして300gぴったりを成し遂げたのは山本舞香。ただ彼女の場合、最初に切ったのが実は300gぴったりだったにもかかわらず、もう一度切ってそこに少し足してしまっていた。その意味では、本来のルールで300gぴったりという快挙はまだ達成されていない(2023年7月14日現在)。

それ以外のコーナーも多彩だが、ここでは企画自体の秀逸さも込みで「甦れ!マイメモリー記憶の数だけ歌謡ショー」にふれたい。

このコーナーは、ゲストのベテラン芸能人が、自分が過去に出した本やレコードのタイトル、マネージャーからの誕生日プレゼントなどを覚えているかをクイズ形式で答えるもの。1問正解につき一定の時間が加算され、10問中7問以上答えられれば、松崎しげるが生で歌う「愛のメモリー」がサビまで聞ける。

ここでの演出が絶妙だった。『ぽかぽか』はお台場のフジテレビ社屋内にある「ぽかぽかパーク」というガラス張りのスタジオから放送されている。豪華なステージ衣装の松崎しげるが歌い始めるのはそのスタジオからだいぶ離れた外の階段のところで、そこから「愛の〜♪」としっとり歌いながらスタジオに向かってゆっくりと歩いてくる。

7問以上の正解があればサビと同時にスタジオに入ってこられるようにちゃんと距離が計算されているのである。だが正解が7問未満だと、松崎しげるはスタジオにも入ってこられず強制終了となる。

放送されている空間のロケーションをスリリングに使った上手い演出である。サビが始まる寸前で曲が終わったときのもどかしさや悔しさは形容しがたい。大御所歌手をいじっているぎりぎりの面白さもある。

そして、何回もダメで最後にようやくサビまで歌うことができたときの感動はひとしおだった(第2弾は高橋ジョージで「ロード」だった)。個人的には、今年これまで見たバラエティ番組の企画のなかでも屈指の面白さだったと思う。

ファミリーから無職の若者まで〜視聴者参加の魅力

さらに、視聴者参加というのも魅力のひとつだ。

小さな子どものいる2組のファミリーが賞品を懸けてゲームに挑むコーナーはそのひとつ。いかにもお昼の番組という感じだが、そのゲームが麻雀牌1段分を崩さずに同じ麻雀牌の段の上に積めるかという「麻雀牌手積みチャレンジ」なのが、一筋縄ではいかないこの番組らしい。

ファミリー向けの企画ばかりではなく、素人が勝ち抜き形式で役に立たない特技を披露するコーナー「ちっとも役に立たない ふわふわ特技さん」もある。都道府県のかたちをしたおもちゃを口に入れてその感触だけで何県かを百発百中当てられる女性が登場したこともあった。

いまは、ミンティアを格好良く食べられるという特技を持った無職の若者が岩井にも「ティア様」と気に入られ、ずっとチャンピオンの座を守り続けている。

時には観客も参加する。『いいとも!』と同じく、『ぽかぽか』も公開生放送で観客がいる。スタジオの客席に座った観客以外に、ガラス張りなのでスタジオの外にもお手製のうちわやボードを持った出演者のファン、修学旅行生や親子連れなどがいて観覧している。出演者が外にいる人たちとやり取りをしたり、外に行ってインタビューをしたりすることもある。

スタジオ内の観客がコーナーに参加することもよくある。

「ぽいぽいトーク」の際に観客が「○○っぽい」のフリップを出すこともあれば、ゲーム企画に参加することもある。「牛肉ぴったんこチャレンジ」のときに切りかたが違うと思った観客が「え〜っ!?」と声をあげることも珍しくない。このあたりの演者と観客のあいだの距離の近さは、『いいとも!』イズムを引き継いでいる。

MC陣の魅力にもふれておこう。最後になってしまったが、『ぽかぽか』の面白さは、MC3人が起こす化学反応によるところが一番大きいかもしれない。

ハライチの2人についてはいうまでもないだろう。地元が同じで幼稚園から一緒だった幼馴染、芸人としてもすでに豊富な経験値を持つ2人だけあって、生放送の緊張のなかでも阿吽の呼吸で笑いに持っていける安定した力量が光る。

加えて『ぽかぽか』では、それぞれの素顔が見えてくる面もある。特に岩井は、猫好きなど自分の趣味をそのままコーナーにして、思う存分楽しんでいる。また世間のイメージとは逆に実は岩井のほうが社交的で、澤部のほうがそうでもないという発見もある。そしてそのことがまたネタになり、笑いにもつながっている。

観客も巻き込んで“ひたすら楽しく”

イメージとのギャップという意味では、神田愛花も負けていない。元NHKアナウンサーということでお堅いイメージを持たれがちだが、この『ぽかぽか』では天然で自由奔放、だが常に体を張って一生懸命という持ち前のキャラクターが全開になっている。

特に意外性抜群な部分は、生放送向きということだ。つい先日も、お好み焼きを上手くひっくり返せるかという一見誰でもできそうなことにチャレンジしたのだが、手前ではなく向こう側にひっくり返したためお好み焼きがホットプレートから飛び出し、全部床に落ちてしまうという大ハプニングを引き起こしていた。その後食べ物を無駄にしてしまったことを本気で反省し、平謝りだったのも彼女らしい。

ひとつ言えることは、この番組では3人もそうだが出演する全員の関係に上下がなくフラットだということだ。だから、すぐテンパってしまいとんでもない失敗もするが憎めない山本賢太、通称ヤマケンのような、局アナの枠からはみ出たキャラも活きる。そのあたりは、しっかり令和のいまに合った空気感がある。

現在の民放キー局の昼の番組は、『ひるおび』(TBSテレビ系)、『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)、そして『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)と硬軟さまざまではあるが、情報番組が主流だ。

そのなかで、観客も巻き込んでひたすら楽しくやっていこうという『ぽかぽか』のような純粋なバラエティは貴重で、ユニークな存在感を発揮しつつある。朝の時間帯では『ラヴィット!』(TBSテレビ系)が似たポジションから確固たる地位を築いた。

もちろん好みはあるだろうが、まだ見たことがないというかたは一度チャンネルを合わせてみてはいかがだろうか。

(太田 省一 : 社会学者、文筆家)