マネジメントのコツは「共通言語」でコミュニケーションをとることにあります(写真:amadank/PIXTA)

2022年度の世界全体の生産・販売の台数がどちらも過去最高を記録したトヨタ。そんなトヨタの上司が必ず確認する3つの質問があります。

新著『あなたの「言語化」で部下が自ら動き出す 「紙1枚!」マネジメント』を刊行した浅田すぐるさんに、トヨタ流マネジメントのコツを聞きました。

タイプ別コミュニケーション術は非現実的

職場でのコミュニケーションに苦戦している人は少なくありません。そんなとき、さまざまな人のタイプ分け診断をもとに、個別に対応しようと考えたことはありませんか。しかし、「各タイプに応じたコミュニケーションをしていこう」というのは、実はあまり現実的ではありません。

そうではなくて、まずは「自分とは異なるタイプの人間が3人いるんだ」という前提から常に出発する。そのうえで、「では、4つの異なるパーソナリティの人間が集まった時、それでも何とか意思疎通をはかっていくには、どのような共通言語があればいいのか?」という問いを立て、考える必要があります。

つまり、「どのタイプにどう対処するのか」という個別撃破方式ではなく、「どのタイプでも大丈夫な1パターンのコミュニケーションスタイルはないのか」という方向で、よりシンプル=実践のハードルが下がる道を模索していきます

4タイプ全員とのコミュニケーションを円滑にする「共通言語」。「そんなものが本当にあるのか」と感じている方も多いと思いますが、結論としては、あります。

私自身がトヨタで日々仕事をする中で見出した「共通言語」について、エピソードを交えて紹介していきます。

トヨタの「紙1枚」文化から得られた学び

トヨタには「紙1枚」文化があり、私を含め社員は皆、日々作成する資料を「紙1枚」にまとめていました。

とはいえ、明確な作成手順やテンプレートが決まっていたのは研修用の「紙1枚」くらいで、日常的には過去の資料の見様見真似で作成し、上司の赤ペン添削を受けながら試行錯誤していくしかありませんでした。

私の場合は、懇切丁寧に指導してくれる素晴らしい上司や先輩に多数恵まれたので、1年ほどで一通り身につけることができました。

一方、そうした環境で過ごせなかった人に関しては、「テクニカルスキル」が中途半端なまま年次が上がっていってしまうため、非常に苦労しているようなケースもありました。

その後、自分自身も後輩指導をするような機会が出てきたため、「これは何かしら再現性のあるカタチで言語化しておいたほうがいいのではないか」と、しだいに考えるようになっていきました。

ちなみに、トヨタではこのような思考回路や行動原理を「標準化」と言うのですが、なぜか資料作成やコミュニケーション領域に関してはブラックボックスのままだった部分が多かったため、私は職場で目にする「紙1枚」資料に何か共通点はないだろうかと、独自に日々研究することを始めたのです。

その成果の1つが、前述の「枠=フレーム」と「テーマ」だったわけですが、実はもう1つ、「テーマ」に関して重要な本質を見出すことができました。

「現状」「課題」「対策」「要因解析」「背景」「今後に向けて」「スケジュール」「発注先の決定方法」「予算規模」、等々。

各資料の項目名だけを見ると表現はバラバラなのですが、これらをさまざまな切り口で分類できないかと考え抜いた結果、次の3つでグルーピングした時が最も現実的に機能しそうだということがわかったのです。

●What?:現状、概要、課題、問題点、討議内容、詳細情報、等
●Why?:理由、要因解析、本資料の背景、経緯、当初の目的、等
●How?:実行計画、今後の対応、スケジュール、展望、見通し、等

端的に言語化すれば、人は誰しも「What?」「Why?」「How?」の3種類の疑問を抱き、これらが解消すると「わかった」という納得感が生じる。

だからこそ、どの「紙1枚」資料も、煎じ詰めればこの3つを最小単位にして構成されているし、そうであるならば、いついかなる目的でどんな資料を作る際にも、何項目もテーマを設定するのではなく、この3部構成1パターンで作成していけばいいのではないか。

相互理解に至る「共通言語」の本質

その後、実際に「What?」「Why?」「How?」という「3」を軸にした資料で報連相やプレゼンを実践したところ、「いつも説明がわかりやすいね、ありがとう」と言われるようなコミュニケーションスタイルを確立することができました。

詳しくは、2017年に上梓した拙著『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』(サンマーク出版)にまとめていますが、本書の文脈で強調しておきたいことは、このまとめ方・伝え方であれば、どんなタイプの人にも有効だという点です。

まさに、タイプ間の垣根を超え、相互理解に至れる「共通言語」の本質。それが、「What?」「Why?」「How?」という3つの疑問を解消しながら行っていくコミュニケーションなのです。

そこで、この本質をビジネススキルとしてフレームワーク化し、トコトン再現性を高めたのが、次の「紙1枚」となります。一番上の「What?」「Why?」「How?」の順番は、テーマに応じて変えてください。


(出所:『あなたの「言語化」で部下が自ら動き出す 「紙1枚!」マネジメント』)

これから、この「紙1枚」をどのようなカタチで部下とのコミュニケーションに役立てていくのか解説していきます。ただ、どうかその前に。くれぐれも、いきなり部下に「今後はこのフレームで報連相しなさい」などと言わないようにしてください。

部下に書かせるのではなく、自身の手で記入していく

それでは、この「紙1枚」の活用法を紹介していきます。


まずは、「部下の背景が多様になり、何を感じ、考えているか掴みにくい」あるいは「考えを述べさせても、話が要領を得ず何が起きているか把握できない」という悩みに活用してみましょう。

あなたが部下の相談を受けていて、イマイチ何が言いたいのかわからないといったことが起きたとします。

そんな時はすかさずこの「紙1枚」を紙に書くなり、ホワイトボードに描くなり、デジタル版をZoomやTeamsで画面共有するなどしてみてください。

フレームを準備できたら、次の3つの問いを立てて、まずは部下ではなくあなた自身が、部下に成り代わって埋めていく姿を見せていきましょう。

● What?:何を相談したいのか?
● Why?:なぜ、解決できないのか?
● How?:どうすれば、状況を打開していけるのか?

こうした問いを記した「紙1枚」を部下に見せ、「ちょっとこれを埋めながら整理したいんだけど、まず何を相談しようとしているのか改めて話してもらってもいい?」と言って、コミュニケーションをリスタートしてみてほしいのです。

(浅田 すぐる : 「1枚」ワークス代表取締役/作家 社会人教育のプロフェッショナル)