フィードバックが上手くいかないと、部下の成長はいつまでたっても進みません(写真:アン・デオール/PIXTA)

仕事において、時として上司は部下に対して厳しい指摘やフィードバックをする必要がある。それは部下のためにもなることであるが、伝え方は大事だ。ここを誤ると、伝わるものも伝わらず、逆効果さえ生みかねない。元Googleの人材開発責任者でもあるピョートル・フェリクス・グジバチ氏の最新刊『心理的安全性 最強の教科書』から、マネジャーが部下に対する「厳しいフィードバック」で失敗しがちなパターンを紹介する。


あなたは部下に、こんなフィードバックをしてしまったことはないだろうか。

「昨日送ってくれた資料、あれは先週までにつくってって言ったはずだよね。どうして遅れたのかな。それに、急いでつくったのか、ちょっと誤字が多かったよ。困るんだよね。そもそも、遅れるなら遅れる、忙しいなら助けてほしいって、なんで言ってくれないのかな」

メンバーに何かフィードバックするときに、ついつい「あれも」「これも」と思い出し、全部そのままぶつけてしまうことは、よくあるダメなケースだ。

悪癖1:あれこれまとめて言ってしまう

フィードバックが大事だからといって、あれもこれも一気にフィードバックすると、メンバーの心理的安全性を損ねるおそれがあります。

というのも、ポジティブなフィードバックなら問題ありませんが、「ここは間違ってるよ」「ここは直して」といったネガティブなフィードバックが重なると、相手は「自分の全部が悪い」と思い込んで、身動きが取れなくなってしまうからです。当然、本人の自己肯定感も下がります。「あなたのここを是正して」と言われれば気をつけることができても、「あれもこれも」となると、「もうこの仕事は、自分じゃなくて、総取り替えで他の誰かがやったほうがいいってことかな?」となりますよね。

相手にとってネガティブなフィードバックは、同時にいくつも伝えるより、ポイントを絞って伝えることで、本人の心理的負担に配慮するようにします。

たとえば、フィードバックしたいことが3つあるとしたら、まず、そのうちの1つにフォーカスして伝えます。

「今日はこれを伝えるから、まずはこれにしっかり対応してほしい」

「はい、わかりました。とりあえずこれを頑張ります」

最初の課題がクリアできたら、次の課題に移ります。 

このように、ひとつずつフィードバックしていけば、相手も受け入れやすいですし、ひとつずつ取り組んでクリアすることで、相手の自信にもつながります。

悪癖2:「行動」ではなく「人」を攻撃する

どうしてもネガティブなフィードバックが必要な場合に、心理的安全性を損なわずに相手に伝えるにはどうすればいいのでしょうか。

次の4つを比べてみてください。何にフォーカスするかによって、相手の感じ方や受け取りやすさが違ってきます。

1「山田さん、最近のミーティングで、コミュニケーションがうまくいっていない部分があると思うんです」

2「山田さん、ミーティングで発言するときの山田さんの話し方がちょっときつい気がしています」

3「山田さん、あなたのコミュニケーションスキルは低いんじゃないですか」

4「山田さん、あなたは失礼な人ですね」

いかがでしょうか。もしあなたがフィードバックを受ける立場だとしたら、1から4に進むにつれ、自分自身が否定されているように感じて、受け取りがたく感じるのではないでしょうか。3や4のような言い方をされたら、カチンと頭にくるか、へこんで立ち直れないかのどちらかでしょう。

1は、ミーティングでのコミュニケーション全体にフォーカスしています。「環境ベース」での伝え方です。本人に直接フォーカスが当たっていないので、相手も素直に受け取りやすいフィードバックと言えます。その代わり、自分のことだと気づかないかもしれません。相手の行動を改善するには弱いフィードバックと言えます。

2は、相手の話し方、すなわち行動にフォーカスした「行動ベース」の伝え方です。人と行動が区別された状態で、自分の「行動」に関する指摘なので、「自分自身が否定されている」という感覚は薄く、相手が受け取れる余地もあります。「山田さんの話し方がきつい」と本人にフォーカスされているので、自分へのフィードバックであることも伝わります。

3は、コミュニケーションスキルにフォーカスした「スキルベース」の伝え方です。スキルはその人の一部なので、この辺りになると、人格否定と受け取られやすくなります。

4は、相手の態度や価値観にフォーカスした「価値観ベース」の伝え方です。ここまでくると人格否定になるので、相手は「傷つけられた」と感じるか、ブチ切れするリスクがあります。他にも、「あなたは馬鹿だ」「あなたは人を見下している」「あなたは周りを大切にしない人だ」のように相手を直接否定するような言い方も、ブチ切れリスクは高まります。

ここまで見てきたように、ネガティブなフィードバックは、人格否定になるような伝え方は避け、「行動ベース」で伝えることを意識するとよいでしょう。フィードバックは相手が素直に受け取ってこそ、行動が改善されるなどの効果を発揮します。

悪癖3:厳しいフィードバックを躊躇する

管理職とは言え、部下に厳しい指摘をすることは、あまり気持ちがいいものではないでしょう。相手を「傷つけるかもしれない」「嫌われるかもしれない」と考え、フィードバックすることを躊躇したり、ちょっと様子見しようと後ろ倒しにする方もいると思います。

でも、メンバーのパフォーマンスが指標からズレていると思ったら、早めにフィードバックすることが重要です。メンバーはフィードバックをもらうことで、方向性のズレや間違いなどに気づくことができますし、早い段階で軌道修正すれば、よりよいパフォーマンスにつながっていきます。

相手に言いにくいことほど、前払いで伝えることが大切です。言いにくいからといって後回しにしていると、トラブルが起こったり、状況がさらに悪化して、その結果、マネジャーとメンバーの人間関係にもひびが入りかねません。

言いにくいことも前払いで伝えたほうが、早い段階で物事を建設的な方向へ変えていけるので、職場の心理的安全性も壊れずにすむのです。

(ピョートル・フェリクス・グジバチ : プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者)