2024年以降「新しいNISA」という投資環境を活かして、どのように資産形成を進めていくか、具体的に考えていきましょう(写真:sumito/PIXTA)

日本株専門の投資を信条とし、45歳にして金融資産1億円を築いた個人投資家・長期株式投資さん。リーマンショックなど複数の経済危機を乗り越えたどり着いた配当主体の投資術は多くの共感を集め、2023年6月現在でツイッターのフォロワー13万人超、主催する投資初心者向けオンラインサロンも人気を博しています。

本稿ではそんな長期株式投資さんの新著『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回った“割安買い”の極意』より一部抜粋。新NISAにおける「配当株戦略」をご紹介します。

2024年以降、新しいNISAを踏まえた投資戦略

令和5年度税制改正の大綱等において、下記の図表のとおり、2024年以降のNISA制度の抜本的拡充・恒久化の方針が示されました。(一部配信先では図表を見ることができません。東洋経済オンライン内でご覧ください)


(図表:『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回った“割安買い”の極意』)

年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円の計360万円です。 また、非課税保有期間は無期限化され、非課税保有限度額は1,800万円(うち、成長投資枠は1,200万円まで)と大幅に拡充されています。 さらに、簿価残高方式での管理となっており、売却した際には簿価ベース(投資した時の取得価額)で枠の再利用ができます。

非課税保有限度額は世帯当たりではなく、一人当たりとなりますので、18歳以上の世帯人数×1,800万円が事実上の非課税枠と考えることも可能です。

これは多くの個人投資家にとって、事実上、非課税で投資できる環境が整ったといっても過言ではありません。

それでは、この「新しいNISA」という投資環境を活かして、どのように資産形成を進めていくか、具体的に考えていきましょう。

なお、ここではリターンを求めつつも、それと同時に、投資初心者が長く投資を続けるためにはどうすればよいか、という点を大切にしていきたいと思います。

まずは、つみたて投資枠での投資対象を考えていきましょう。

年間投資枠は120万円で、投資対象商品は「積立・分散投資に適した投資信託」となっています。

長期的な運用を考えれば株式一択となりますが、その中にも日本株を対象としたものや、米国株を対象としたものなど様々な投資信託が存在しています。

投資信託の強みは、低い手数料で幅広く分散投資が可能なこと。 また、前述のとおり、誰でも平均点が狙える再現性の高さが魅力的な金融商品といえます。

その強みや魅力を勘案すると、世界中の株式に分散された投資信託を選択して、平均点を狙いにいくのが無難でしょう。 平均点といっても、期待されるリターンは年6〜7%もありますので、これは十分な数字でしょう。

全世界の株式を対象とした投資信託は数多く存在していますが、ここでは、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をオススメしたいと思います。

私自身もつみたてNISAで投資していますが、その純資産総額の規模や手数料の安さを考えていくと、最も無難な選択肢です。 これは新しいNISA制度が始まっても、長期的には期待値どおりの安定的なリターンをもたらしてくれるでしょう。

日本株が米国株より有利なワケ

成長投資枠は年間240万円で、保有限度額は1,200万円です。

日本株の配当金には、総合課税を選択して確定申告をした場合に適用される配当控除という税額控除の仕組みがあります。新しいNISAの非課税限度額の規模を考えると、多くの個人投資家にとっては十分な非課税枠であり、非課税での配当がほとんどとなると思われます。もはや確定申告での税還付を視野に入れて投資する必要もなくなったといえるでしょう。

ただ、新しいNISAで米国株へ投資する場合には留意が必要です。アメリカで10%が源泉徴収されて、さらに日本で20%が源泉徴収されることになります。現行のNISA制度もそうなのですが、新しいNISA制度においても、非課税の対象となるのは日本国内部分のみ。したがって、アメリカで源泉徴収された10%は非課税の対象外となります。

なお、外国で課税された税額を日本国内の所得税額から一定の範囲で控除する、外国税額控除の適用も受けることはできません。

具体的に考えてみましょう。たとえば、将来、保有限度額の1,200万円まで投資することができて、その配当利回りが5%だったとします。すると、日本株へ投資していた場合は、

1,200万円×配当利回り5%=60万円

を配当金として受け取ることができます。

一方、米国株へ投資していた場合は、アメリカで課税された10%は非課税の対象とはならないため、

1,200万円×配当利回り5%×90%=54万円

になり、手取りが6万円も減少してしまいます(下図参照)。


(図表:『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回った“割安買い”の極意』)

これは1年間での数字ですので、今後の長い投資人生を考えると、このことは資産形成を進めていく上で決して無視できない数字です。

このように税制上有利となっている状況に加えて、日本株は企業価値の観点から相対的に安く買えることや、国際優良企業が数多く存在し、選択肢も豊富にあること、さらに、日本語で決算資料やIR資料を読めることなど、日本株へ投資する魅力は数多く存在しています。

成長投資枠は日本の個別株で

長い間、「日本企業は株主還元に消極的だ」といわれてきましたが、現在の状況は一変しています。多くの企業で株主還元方針が明示され、原則として減配しないという累進配当を方針とする企業も増えてきました。

現在、東京証券取引所では、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議が定期的に開催されていて、2023年2月15日に開催された第8回では、「PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている場合には、市況の悪化など一時的な影響によるものである場合を除き、十分な対応が求められる」という内容が盛り込まれています。

今後、中長期的には、資本コストや株価を意識した経営が一般的になってくるでしょう。

日本株には財務基盤が盤石で株主還元余力が多分にある、割安銘柄が無数に存在しています。その多くはPBRが1倍を割れているため、今後、株価を上げるために(PBRを1倍に近づけるために)色々と手を打ってくると考えられます。

もともと人気がないため株価は安く、下落余地が限定されている。その一方で、上昇余地は大いにある。

つまり、思惑通りにいかなくても損失は限定的で、思惑通りにいけばそれなりのリターンが得られる。そんな銘柄が多く存在しているのが日本株です。

これらの理由により、成長投資枠は日本の個別株で考えていきたいと思います。

成長投資枠での買い方

株式投資では、絶対に儲かるという手法は存在しませんので、相場に慣れて実力がつくまでは、少額ずつ買っていく方が無難だといえます。


現在はNISA口座でも1株ずつ投資が可能で、買い付け手数料も無料となっている証券会社がありますので、それを活用していきましょう。

たとえば、私はSBI証券を利用していますが、1株ずつ投資しても買い付け手数料は無料です。

現状、売却時は0.55%の手数料がかかりますが、そもそもNISA口座で投資する株式は長期保有が前提。

ですので、売却を考えなければならなくなる可能性のある銘柄は、極力避けるようにしましょう。

資金があっても、年間投資枠である240万円を一気に埋めようとはせず、12分割して1カ月20万円までというふうに、段階的に投資していきましょう。

投資してから株価が順調に上昇していけばいいのですが、株価が下落している時には、心理的な影響を大きく受けることは避けられません。一般的に、同じ金額であったとしても、失うことと得ることでは「2倍程度」感情の振れ幅に差があるといわれています。

人間というのは、負けることを嫌う生き物。株価下落による精神的ダメージで株式投資を続けられなくなってしまうことは、絶対に避けなくてはなりません。

これらを踏まえて、前のめりにならず、定期的な投資を心がけましょう。

(長期株式投資 : 「日本の配当株」メインの個人投資家)