群馬県・前橋中央通り商店街内に開業した店舗は、無印流「商店街活性化」拠点となる(記者撮影)

和歌山県南部、熊野川の河口付近に位置する新宮市。この地に6月「無印良品 スーパーセンターオークワ南紀」がオープンした。和歌山県地盤の食品スーパー「オークワ」を中心とした郊外型オープンモールで、その一角に無印も新店を構える。

5月末には北海道で「無印良品 コープさっぽろ しずない」がオープンしたばかり。食品スーパー隣接型の店舗で、背後には日高山脈をたたえる風光明媚な立地だ。この2つの新店はいずれも都心部から車で2時間以上も離れた場所に位置する路面店。今まで都心部や大型ショッピングモール内への出店が多かった無印が、地方・郊外出店へと舵を切っている。

なぜ無印は「地域密着」に注力するのか

「日本には地域の課題がけっこうある。都会の“ぜいたくな課題”よりも、各地域の本質的な課題を解決しなければならない、と考えるようになった」


堂前宣夫氏はマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、ファーストリテイリング副社長などを務めた。同社初となる西友出身でない社長(撮影:梅谷秀司)

ユニクロのファーストリテイリング出身で、2021年9月に良品計画社長に就任した堂前宣夫氏。同年10月に東洋経済が行ったインタビューで、これからの無印の役割についてそう語った。

堂前社長は「第二創業」を掲げ、中期経営計画で2024年8月期は売上高7000億円、営業利益750億円を掲げる。直近2022年8月期の売上高4961億円、営業利益327億円から大幅にジャンプアップする目標だ。さらに2030年には売上高3兆円、営業利益4500億円という大目標をぶち上げる。

これまで国内の無印は、駅前やショッピングモールなど人口集中地区への出店が多かったが、来店頻度が月2〜3回程度にとどまっていた。中計では地方・郊外を含め生活圏にも出店することで客層、来店頻度を拡大させる戦略を進めている。

たとえば食品スーパーの近くなら週2〜3回の来店が見込める。冒頭のような地場の食品スーパーに隣接する形で積極出店を進めることで、無印の来店頻度を上げることを狙う。成長著しい海外は、中国や東南アジアを軸に出店を進める方針だ。今年8月末の店舗数は1202店になる予定だが、これを2024年8月期は1300店舗まで増やす勢いで出店し続けている。

地方・郊外の開拓に向けて、堂前社長が就任時に立ち上げた肝煎り事業がある。2021年9月に発足した「地域事業部」は、横浜・近畿・北海道など12(区分変更し現在は10)のエリアから立ち上がった。

各事業部長を決めるにあたっては、その地域に対して熱意を持つ有志を募るなど独自の手法が採られた。良品計画の中村和義氏は「最初に発足した事業部の中では群馬の店舗数が最も少なく、出店余地が大きい」と見込み、群馬事業部長に立候補して起用された。


前橋中央通り商店街の地元名産品コーナー。スタッフや市の観光課などへヒアリングを行い情報収集した。「無印の存在を地域住民に広めていきたい」と下田香絵店長(記者撮影)

業務内容は「出店開発、商売、土着化、新サービスなど地域の取り組み全体に責任を負う」と多岐にわたる。地域事業部の発足当時、群馬・埼玉のブロックマネージャーを兼務していた中村氏は、後任育成の傍らで群馬県内の出店交渉のほうに業務の軸足を移していったという。

そして今年2月、重要な意味を持つ店舗のオープンにこぎ着けた。JR前橋駅から徒歩15分の商店街内に開業した「無印良品 前橋中央通り商店街」で、無印流「商店街活性化」拠点となる店舗だ。

地方出店は儲かるのか

実際に店舗を訪れると、35坪ほどの売り場はコンパクトな印象だ。正規出店に先んじて行った出張販売で集めた地元住民の要望から、キッチン雑貨やバウムクーヘン等の菓子類など厳選した1600アイテムが販売されている。

特徴的なのが、レジ横に置かれた「一坪開業」の看板。前橋の生産者や事業者らを対象に、1日4000円の賃料(暫定、地域や店舗によって異なる)で店内スペースを提供するという商店街活性化の取り組みの一つだ。5月末時点で3事業者が利用していた。

一坪開業は前橋に限らず、岡山県岡山市にある商店街立地の店舗でも展開している。「まずは無印の店舗内で試し、最終的に商店街に出店してもらえれば。無印としても商店街に貢献していきたい」と、地域活性化などの新規事業を担当するソーシャルグッド事業部の工藤浩樹氏は意気込む。

店舗では地元名産品の販売や「つながる市」と呼ばれる出店イベントを定期的に行う。こうした地域活性化の取り組みを地方や郊外の店舗で精力的に行うことで、国内の成長基盤を盤石にしたい狙いだ。今2023年8月期は国内で純増76(前期は純増37)と倍増計画となっている。

しかし効果はまだ出てきていない。出店に注力中の600坪型店舗(郊外店の標準サイズ)は、1坪当たり月商が10万円にとどまる。都市部より家賃が安いため収益性は確保できているものの、「目指すところは1坪当たり月商15万円。その水準に引き上げていくため、商品の中身を変えていく必要がある」と堂前社長は1月の決算説明会で語っている。


群馬県前橋市朝日町は食品スーパーに隣接。国内で郊外店の出店を進めている(記者撮影)

4月13日に発表した良品計画の2023年8月期第2四半期累計決算は、売上高が前年同期比15.9%増の2833億円だった一方、営業利益は同46%減の101億円へ大幅に落ち込んだ。急激な円安と原材料価格の高騰が最大の要因で、国内事業を中心に苦戦が続く。

今年1月と2月には春夏商品の約2割で値上げを行ったが、今2023年8月期の業績予想は2期連続の営業減益へ下方修正を余儀なくされた。その後も販売動向は振るわず、国内既存店売上高は4月が前期比85.8%、5月が同84.1%の低空飛行が続く。

問われる堂前体制の評価

無印はどこへ向かうのか。JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは「無印の強みは国内での圧倒的な知名度。地球環境に配慮したモノ作り、包装の簡素化など無駄を徹底的に減らすコンセプトはとてもユニークで、独自のポジションを築いている」と評価する。最近は価格戦略による浮き沈みが激しいが、中核となる世界観の強みは失われていない。

今のペースで店舗数を増やし続ければ、スケールメリットを生かした商品力の強化につながる。しかし無印に限らず、大量出店と既存店活性化の両立は容易ではない。堂前体制に移行してからの中計は来2024年8月期で一区切りを迎える。2030年の売上高3兆円目標に向けてひた走るのか、それとも方針転換が行われるのか。難しい判断が迫られそうだ。


(山粼 理子 : 東洋経済 記者)