過酷な労働環境にある女性教員たち。仕事と子育てを両立するための工夫をお聞きし、解決策や働き方改革のヒントを探ります(写真:Fast&Slow/PIXTA)

“ブラック”だといわれて久しい教育現場。教員不足は年々加速し、労働環境が悪化する中、子育て中の女性教員の負担もより大きくなっていることはご存じでしょうか。

前回の記事(「午前3時起床、育児中の教員5人が語る過酷な現実」)では、そんな彼女たちのハードなライフスタイルが明らかになりました。今回は、女性教員の皆さんに仕事と子育てを両立するための工夫をお聞きし、厳しい現状の解決策や働き方改革のヒントを探ります。

「家電」をフル活用、「授業交換」で教材研究を時短

石田:Aさんは現在、育休3年目とのことですが、上のお子さんの育休明けのときはどのような工夫で毎日を乗り切ってきましたか。

(Aさん)
公立小学校教諭。小学1年生と3年生、1歳の子どもがおり、育休中。来年度に復帰予定。

A:5年間の育休を経て復帰したのですが、その2年間は、家で手を抜けるところはすべて抜いていました。例えば、電気調理鍋「ホットクック」や、ロボット掃除機「ルンバ」、ドラム式洗濯乾燥機などの家電をフル活用していました。また、宅配の食材キット「ヨシケイ」を利用して、献立を考える時間も短縮していましたね。

石田:学校で時短のために工夫していたことはありますか。

A:授業では、優先順位を決めて大事なところに集中することを意識していました。プリントの丸つけはあまり発生しないようにするなど、細かい枝葉の業務はできるだけ切り捨てていましたね。

また、保育園からの呼び出しなどで学校を中抜けすることを想定し、授業づくりをしていました。例えば、子どもたちが「次はこれをやるんだな」と見通しが持てるようなパターン化を図ったり、私の代わりに入ってくださる先生方のために教室は整頓してどこに何があるのかをわかるようにしたりしていました。

とくにほかの先生と授業を交換する連携は、だいぶ効率化できましたね。例えば、私は算数が得意なのですが、隣のクラスの先生が社会を得意としていたら、その先生に自分のクラスの社会の授業をお願いし、私は隣のクラスの算数の授業を引き受ける。これはかなり教材研究の時短になりました。

石田:2022年度から本格的に小学校高学年の教科担任制が始まっていますが、それを自分たちの裁量でやるということですよね。実現可能なのでしょうか。

A:はい。教務主任の先生などへの相談は必要ですし、時間割の打ち合わせはちょっと面倒ですが、すごく効率化できましたよ。1年を通してこれをやろうと思うと負担は大きくなりますが、「この単元とこの単元を入れ替えよう」といった、個人間での一部の授業の交換は可能だし、効果的だと思いました。

「午後6時以降の会議は出ません」と宣言

(Bさん)
公立中学校教諭。小学5年生と6年生の子どもがおり、今年4月から学級担任に復帰。

石田:Bさんは、この春から学級担任に復帰されたそうですね。

B:私は5年間の育休を取得した後に、復帰して4年間働きました。その後数年間、家庭の事情で現場を離れ、この4月からまた復帰しましたが、学級担任は久しぶりでめちゃくちゃ忙しいです。

石田:現在、どんな効率化を図っていますか。

B:私もAさんと同じく家電に頼っています。「ホットクック」は切った食材と調味料を入れてボタンを押すだけで帰宅するとご飯ができており、「ルンバ」も帰ってくると家がきれいになっているので毎日使っています。乾燥までやってくれるドラム式洗濯乾燥機も、夜にセットして朝起きたら洗濯が終わっているし、洗濯物を外に干す手間もありません。

石田:今や電気調理鍋やロボット掃除機、ドラム式洗濯乾燥機は、女性教員の皆さんにとって三種の神器なんですか?

B:それと、食洗機も。ワーキングマザーの定番ツールですね。そのほか、草取りなどの庭の掃除は、シルバー人材の方にお願いしています。コロナ禍を機に主人の働き方も変わり、最近はテレワークで子どもの世話をしてくれるようになりました。結婚相手が教員だったら、こうはいかなかったと思います。また、子どもを自立させることも意識しています。例えば、学校から帰って取り組むルーティーンを決め、復帰前から練習させましたね。

石田:学校ではどのような時短の工夫をしていますか。

B:学年会などが午後6時から始まるのですが、「午後6時以降の会議は出ません」と宣言し、資料を読んだり誰かに確認したりする形にしています。また、私もいつでも休めるように、授業をとにかく早く進めるようにしています。

石田:Cさんは、この春に育休から復帰されたんですよね。

(Cさん)
公立小学校教諭。子どもは1歳と4歳。4年間の育休を経て、通級教室の担当として復帰。

C:4年ぶりに復帰しましたが、私も子どもたちも新生活に慣れるのが大変です。でも、ありがたいことに今年度は、学級担任ではなく通級教室の担当に配置されたので、4月の激務がない形でスタートを切れました。ただ私の学校は、研究校のような役割があり、それに向けた取り組みが午後6時から始まるんです。そういう活動には出られないと最初に伝えましたが、女性で子どもがいるのは私だけという環境なので心苦しい面もあります。

石田:学級担任ではないといっても、フルタイムですよね。どのように毎日をやり繰りされていますか。

C:2人の子どもが別々の園になってしまったため、午後5時に学校を出ないともう1人の子のお迎えに間に合わないんですよね。主人がお迎えに行ける日にちょっと残業をするという形で、仕事と家庭とのバランスを取っています。また、主人の実家の敷地に家を建てることにしました。そちらに引っ越せば、もう少し身内の手を借りられるようになると思います。

育休中や時短のうちから「子どもの自立」を促す

石田:Dさんは、育休を7年間取って復帰されたそうですね。

(Dさん)
公立小学校教諭。3人の子どもを育てながら、特別支援学級で担任を務める。

D:年中、小学1年生、小学3年生と、3人の子どもがいます。育休を連続で取り、特別支援学級の担当として時短で復帰しました。異学年が混在する複式学級編成だったので、担任の先生と私、もう1人の先生の3人体制で授業を回していました。

そうした形で2年間勤め、今年度からフルタイムで特別支援学級の担任を務めています。今の学校は育休を含めて10年以上。担任は10年ぶりですが、勝手がわかっている環境である点は恵まれているかもしれません。

石田:子育てと仕事の両立に当たり、どのような工夫をされていますか。

D:うちも主人がコロナ禍を機にテレワークになり、保育園に子どもを送ってくれるようになりました。だから、朝は子どもたちに朝食を食べさせるまでが私の担当で、先に家を出ることができています。ただ、フルタイムに戻ってからは、遅くとも午後5時ぐらいには学校を出ないと保育園のお迎えに間に合わないので、仕事が残っていても「失礼します」と言って帰ります。

石田:早く帰ることはできているのですね。

D:そうですね。これまで時短で2年間やってきたので、職場で私は「早く帰る人」というイメージができています。また、教務の先生が働き方改革を推し進めていることもあって早く帰る人が多く、職場の雰囲気的にも帰りやすい。校務分掌も負担が少ないものを割り振ってもらっています。ただ、何だかんだ遅くなることはあり、間に合わない場合は主人に連絡をして子どものお迎えをお願いしています。

石田:家事などで合理化している部分はありますか。

D:わが家もドラム式の洗濯乾燥機や食洗機は使っていますね。つねにおもちゃが床に散乱しているので「ルンバ」は持っていませんが、「ホットクック」は活用しています。朝のうちに仕込んでいくこともあれば、帰ってきてからスイッチを入れて、ご飯ができるまでの間にお風呂に入ることもあります。

また、私もBさんと同じく、育休中や時短の頃から「自分のことは自分で」と子どもに自立を促していました。上の子の2人は、目玉焼きや卵焼きくらいは作れます。とくに長男は料理が好きみたいで、学校図書館でおやつ作りの本を借りてきては勝手に作っています。先日も「ちょっとお母さん、今大変だ」と話したら、長女が洗濯物を一緒にたたんでくれました。

(Eさん)
教員歴28年。公立小学校教諭。3人の子どもは成人し、現在は小学1年生の学級担任などを担当。

石田:最後に、子育てしながら教師をしてきたベテランのEさんにお話を伺います。Eさんは、教員歴28年とのことですが、以前から子育てをしながら働く女性教員の方々は、このように負担が大きかったのでしょうか。

家族の時間は、部活動ができない雨の日だけ

E:3人の子どもはもう全員成人していて、最後に育休を取ったのは約20年前ですが、決して楽ではなかったです。主人も中学校の教員で、子どもが小さかった頃は運動部の顧問や生徒指導を担当していたので、22〜23時の帰宅が当たり前。ほぼ私のワンオペレーションだったため、家事は工夫していました。当時は義母と同居しており子どもを預けることはできたので、保育園に一度子どもを迎えに行ってからまた仕事に戻るといったことも、日常的にやっていましたね。

石田:夫婦で教員をやっていると、家族の時間もほとんど取れないのでは?

E:はい。主人が子どもたちを動物園や遊園地に連れて行けるのは、部活動ができない雨の日だけ。そのうち、私が1人でどんなところにも子どもたちを連れて行くというのが当たり前になっていきました。

石田:もしお義母様と同居していなかったら、仕事は回っていたと思いますか。

E:無理ですね。義母以外にも、義父、私の母と、いろんな人の手を借りながら何とかやってこられたという状況でした。

石田:昨今では実家の力を借りられないご家庭も多いですが、子育て中の女性教員にはどのような配慮が必要だと思いますか。

E:今の学校では、専科の若い先生が時短で復帰していますが、おそらく管理職が担任を外してあげていると思います。校務分掌もさほど負担のない内容になっています。育休明けで潰れないようにと配慮をしてくださったのではないでしょうか。しかし本来、そういった配慮はどの学校でも絶対に必要です。そのうえで教員個人がいかに工夫するかという問題だと、そうした理解が広がればいいなと思っています。

石田:ありがとうございました。現在、学校現場では働き方改革が叫ばれていますが、最先端の家電の活用や授業の工夫などは、個人レベルの取り組みとして大いに参考になりそうです。一方で育児中の女性教員の仕事の過酷さは、学校の配慮や、パートナーおよび実家の協力の度合いなどに大きく左右されてしまう実態が改めて鮮明になりました。次回は、学校教育に必要な体制や施策などについて考えたいと思います。

(構成:佐藤ちひろ)


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)