気持ちが上がるランニングシューズ選びについて、筆者が解説します(写真:sasaki106/PIXTA)

足を蹴り上げ、腕を大きく振る――。この「走る」というシンプルな動作に隠されている心とのさまざまなつながりを、プロランニングコーチの金哲彦さんがひもとく本連載。今回は「ランニングシューズの選び方」です。
自分に合ったお気に入りのシューズとウェアで走れば、気持ちも上がるはず。ランニングを始めたいという人には必見のコラムです。

皆さんの玄関にある下駄箱にはどんな種類の靴がラインナップされていますか? ビジネスシューズ、ハイヒール、サンダル……。1つくらいはスニーカーも持っているのではないでしょうか。

走るときはランニングシューズを

以前、市民ランナーの方からこんな質問を受けたことがあります。「初心者なのですが、走るときはどんなスニーカーを履けばいいですか?」。

「走るときはスニーカーではなくて、ランニングシューズを履いてくださいね!」と笑顔で即答しましたが、実はこのとき少し違和感がありました。私の頭の中にある「スニーカー」のイメージは、バスケットシューズのようなものだったからです。

運動靴全般を指すスニーカーという名前は、英語のsneak(忍び寄る)からきているそうです。革靴が歩くたびにコツコツ音を出すのと比べ、音を立てずに“すり足“で歩けることから、この名称になったようです。

スニーカーはスポーツ種目に応じた機能に特化して作られているシューズで、バスケットタイプ、テニスタイプ、アウトドアタイプ、ランニングタイプの4種類にざっくり分類できます。

バスケットタイプは、屋内体育館の床で滑らずにジャンプとグリップがしやすい構造になっています。

テニスタイプは、屋外コートのタイプによってソールの種類が異なり、安定性と通気性に優れています。

アウトドアタイプは、石ころなどがある山道でも滑らずにしっかり歩ける構造になっており、かつ防水性にも優れています。

そしてランニングタイプは、着地衝撃を和らげるクッション性と通気性に優れていて、どのタイプよりも軽量であることが特徴です。

ランニングタイプ以外のシューズでも走れないわけではありません。しかし、構造がランニングタイプとは根本的に異なっています。

たとえば、走るときに体重の3倍以上にもなる着地衝撃がシューズでうまく吸収できなければ、脚がすぐに疲労困憊になってしまいます。また、ゆっくり走っても、膝や足首を傷めてしまうリスクが高くなります。長時間にわたって同じ動きを続けるランニングの特殊性を考慮して作られた、ランニング専用のシューズを履くことを強くお勧めします。

では、ランニングシューズはどこで手に入るのでしょうか。

店を選ぶときのポイント

購入できる場所とラインナップの特徴を以下にまとめましたので、ご参考までに。

・スポーツ用品量販店(全国チェーン)

ブランドの種類とサイズの品揃えが最も豊富なのが特徴です。ランニングシューズだけでなく、ウェアやグッズも取り揃えていて、型落ちシューズ(古いモデルのシューズ)が安売りに出されている場合もあり、お得に買うこともできます。店舗内のランニングマシンで実際に試し走りができるお店もあります。

・地域のスポーツ用品店

ブランドやサイズの在庫が限られていることが多いですが、スタッフと顔見知りになると親切な説明やアドバイスも受けられますし、在庫がなくてもメーカーから取り寄せてくれることもあります。地元のお店で行きやすいというのもポイントです。

・ランニング用品専門店

豊富なラインナップだけでなく、珍しい海外ブランドやグッズなども取り扱っています。専門店は店員がランナーであることも多く、商品購入のアドバイスだけでなく、その方のレベルに合わせたシューズ選びや、その他ランニングの専門的なアドバイスも受けることができます。

・メーカー直営専門店

メーカーが直接経営するお店では、専門知識をもったスタッフがコンピューターを使って足をスキャニングして自分に合ったサイズを正確に教えてくれたり、ランニングマシンで動画を撮影してランニングフォーム分析をしてくれるお店もあります。

・デパートのスポーツ用品売り場

ディスプレイされているブランドが限られている場合が多いと思います。ていねいな接客や商品券が使えることなど、デパートならではです。

・インターネット通販

大手通販サイトでは、あらゆるブランドとサイズが揃っていて、少し前のラインナップが割引されている場合もあります。家にいながらじっくり検討でき、お得に手に入るメリットがある一方、試し履きができないので、サイズが合うかどうか、フィット感やシューズの重さの体感などを確認できない難しさもあります。

履いたことがないシューズを選ぶときには注意が必要です。インターネット通販で購入する際は、使用した経験があるお気に入りのシューズにしておいたほうが失敗が少ないと思います。

ランニングシューズと一口にいっても、皆さんが思っている以上に作っているメーカーは多く、その種類もカラーバリエーションも、選ぶのに困るくらい豊富です。

例えば、大手スポーツ量販店のランニングシューズコーナーに足を運ぶと、壁一面に100種類以上のカラフルなシューズが並んでいます。色やデザインの好みは別として、どのシューズが自分に合っているのか、初心者は間違いなく迷ってしまうでしょう。

メーカーによってそれぞれ特徴は異なりますが、ランニングシューズを選ぶ基準の鉄則は、まず、「自分の走力レベル」と「ランニングの目的」などに応じたシューズを選ぶことです。

そのうえで、ウェアなどの組み合わせを考えるなど、カラーバリエーションをファッションとして楽しむことができます。

メーカーが「このシューズは◯◯向け」とガイダンスしているものもあるので、参考にできますし、お店で購入する場合は、店員が実際に履いて走ってみた感触、例えば、「10キロぐらい走って脚が少し疲れたときに、クッションがどんなふうに疲労を軽減してくれたか」など、実体験で裏付けられたシューズの特徴をもとに、どんなタイプのシューズがいいかをランナーに勧めてくれるので、参考になります。

走行レベル&ランニングの目的

走力レベルは以下の3つが代表的な分類法です。

1. 走るペースが1キロ7分とか、5分とかのペース基準
2. 初心者、中級者、上級者というランニング経験基準
3. フルマラソンで5時間以上、サブフォー(4時間未満)、サブスリー(3時間未満)というフルマラソンの目標タイム基準

ランニングの目的は以下のような感じでしょうか。

1. ファンランナー(時々楽しく走りたい)
2. デイリージョガー(日常的なジョギングで健康になりたい)
3. レースビギナー(フルマラソンなどのレースにチャレンジしたい)
4. レーサー(レースでいい記録を出したい)

すべての走力レベルやランニングの目的に共通していえることは、シューズが足にしっかりフィットすることです。サイズが合わないなどでうまくフィットしていないと、快適に走れません。そればかりでなく、足にフィットしていないと足の裏のマメ、かかとの靴擦れ、爪が内出血で黒くなるなどの原因にもなり、痛みで走れなくなってしまいます。

ランニングシューズのフィット基準は以下の3つです。

1. 足の指先とシューズに1〜2cmくらいの隙間がある
2. かかとが浮かずにしっかりホールドされている
3. 母指球(足の親指の付け根)と小指球(足の小指の付け根)が横ぶれしない

ランニングシューズに限ったことではありませんが、メーカーによって同じサイズでもフィット感が微妙に異なります。自分の足に合うかどうかは、実際に履いてみて確認するのが一番です。

お店には普段着で行ってもランニング用のソックスを持参しソックスを履いてから試し履きすることをお勧めします。「セール」だからといって試さずに購入すると「自分の足に合わない」リスクが伴います。

また、ランニングに詳しいスタッフがいるお店では、インソールの追加購入を勧められることがあります。市販のものではどうしてもサイズが合わない場合に限り、故障予防が目的ならその人の足にカスタマイズされた特注のインソールを検討してみるのもいいでしょう。

そして、ある程度の距離を走ると、ランニングシューズのソールがすり減ってきます。正しいフォームで走ると、主にかかとの外側のソールからすり減ります。立ったときに、外側に足が傾いてしまうくらいになったら買い替えのタイミングです。

シューズを長持ちさせるには?

革靴ならソールを交換できますが、残念ながらランニングシューズは不可能です。すり減った部分を補修剤で補う方法もありますが、補修剤はソールとは異なる素材になるので、クッション性や快適性は確実に損なわれます。新しいシューズを購入するほうが足への負担は少なくなると思います。

ランニングシューズは消耗品ですが、安いものでも1足1万円くらいします(なかには3万円を超える高級品もあります)。同じランニングシューズばかりを履いて走っていると、ソールの消耗が激しくなります。

余裕があれば、2〜3足のシューズを履き替えるほうが長持ちしますし、その日の気分やウェアに合わせて楽しむこともできます。


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走力レベルや目的は、時間の経過と共に変化(進化)していきます。現在、自分がどの位置にいるかを客観的に分析して、進化の段階に合ったシューズを購入しましょう。

そしてなにより、ピカピカのま新しいシューズを履いて走れば、確実に気持ちが上がり、楽しい気分にさせてくれます。走るモチベーションが少し下がったときでも、玄関に置いてあるニューモデルのランニングシューズがあなたをランニングの世界に導いてくれます。

(金 哲彦 : プロランニングコーチ)