「価値観の違いで離婚」って、つまり何?

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 著名人の離婚記者会見などで必ず出てくる、「離婚した理由」に関する質問。その答えの多くと、一般の人に「なぜ離婚したのか?」と質問したときに返ってくる答えの多くは「価値観の違い」です。

「価値観の違いって、結婚する時点で分からないものなの?」「価値観が合っているから結婚を決めたんじゃないの?」と、離婚経験のない方々は不思議に思うかもしれません。しかし実際に、離婚理由を「価値観の違い」と発言する人は多いのです。そこには一体どんな心理が働いているのでしょうか。「恋人・夫婦仲相談所」所長の筆者とともに考えてみましょう。「価値観」って、一体何だ?

「結婚相手に求める条件」の1位は、ずばり…

 内閣府が2014年から2015年にかけ、20〜29歳の男女7000人を対象に実施した「結婚・家族形成に関する意識調査」。その中にある、結婚を希望する男女が「結婚相手に求める条件」の1位は「価値観が近いこと」でした。つまり、裏を返せば「価値観が近いから結婚した夫婦が多い」ということです。しかし一方で、離婚理由としてよく聞かれるのは「価値観の相違」…。このミスマッチをどう説明すればよいでしょう。

 ここで、事例をご紹介します。

 恵里さん(38歳、仮名)と智さん(39歳、同)は出会って6カ月で結婚したスピード婚のお2人です。どちらの友達に会うときにも一緒についていくほどラブラブ。「そんなに早く結婚を決めていいの?」と心配する周囲に、「こんなに価値観の合う人に会ったのは初めて。ソウルメイトだから結婚するのが運命」と、2人は全く聞く耳を持ちませんでした。

 しかし結婚後、1年もたたず離婚することに。子どもがいないうちに“相手の本性”に気付くことができて本当によかった、と恵里さんは言います。

「結婚前は何でも私ファーストで、頼み事を聞いてくれていたのに、結婚したら自分中心スタイル。話は聞いてくれなくなったし、休みの日は自分一人で出かけちゃうし。

結婚した意味ないじゃないって何度か怒ったら、『一緒にいるだけでいいって思ってた』って言われたんです。一緒にいるだけでいいわけないじゃないですか! 恋愛コミックじゃあるまいし。2人で取り組むいろいろな時間を共有したかったのに。

生活そのものが結婚なわけで、隣にいるだけでいいなんて言っていません。結婚生活に関する価値観は全然違ったんです」

“一人っ子夫”の衝撃の事実

「趣味が一緒で、付き合った期間は6年ちょっと。一緒に暮らしてもいたし、だったら結婚しちゃった方が何かと便利かなと思って結婚したのですが、失敗でした」

 そう話してくれたのは真知子さん(34歳、仮名)。夫の康生さん(32歳、同)は一人っ子で、結婚する前の独身時代も何かにつけて実家に帰るタイプでした。

 彼の親が高齢だったこともあり、「親思いでいい人だな」と真知子さんは感心していたといいます。しかし実際には大違い。というか「勘違いだった」と。

「結婚した後も頻繁に実家に帰るから、私も一緒に行くよって言ったんです。そうしたら、『来ないでほしい』と言われて。ちょっとビックリ。こちらも気楽だし、しばらくはそれでもいいかなと思ったんですが、1年経過しても頻繁に帰ってしまう。ご両親にも変に思われるからと、年末に一緒に行こうとすると『いいから、いいから』と。

私が『何で?』と問い詰めると、『君と2人の生活の息抜きをするためだから』と涼しい顔で言ったんです。

『やりたい放題、上げ膳据え膳で両親からちやほやされる時間が一番幸せなんだよ』って言われました。バカなの? だったら何で結婚したの?って聞くと、『孫の顔は見せてあげたいから』ですって。私、そこでキレました。その後も、散々なことを言われました。

6年付き合った私と別れて、他の人とまた一から恋愛して結婚までもっていくのは面倒だから、そのまま結婚したって。私、怒り心頭ですよ。あぜん。こんなに長い時間一緒に過ごした人が、そんなふうに考えていたなんて、情けない。

もう何を信じていいか分からない。正直、あの話し合いで人間不信に陥ってしまって。離婚してもらいましたが、今も男性と接するのが怖いです。ショック過ぎて、離婚したことは両親と姉弟以外には話していません。家族に離婚理由を聞かれたけど、本当のことは言えないし、『価値観が違ってこのまま結婚生活を続けていくのは無理だと思った』って伝えました。両親も姉弟も納得はしていないと思いますが、そっとしてくれています。

離婚は結婚の何十倍も大変だって聞いていましたが、こういうことなんですね。芸能人がこんな状態で記者会見するのは本当にすごいと思います。離婚理由を『価値観の違い』と言うのも当然ですよ。本当の理由なんて、渦中ではしんど過ぎてとても言えませんよ」

離婚した人たちの“本当の離婚理由”

 離婚の理由が、本当に「価値観の違い」だったケースもあれば、他者に説明しづらいので「価値観の違い」と表現する場合もある――。それは全て、それぞれの夫婦の問題です。離婚の理由を他人が詮索することに何の意味もありません。本当の理由は当事者たちにしか分からない。そして、当事者の間でも相違があることでしょう。何もかもがすれ違うからこそ別れるのですから。

 経済観念の価値観、家事分担の価値観、子どもを持つか持たないかの価値観、子どもの教育についての価値観、浮気問題の価値観、実家への関わり方の価値観…他にも、さらに無限の価値観があります。離婚した人たちが話してくれた離婚理由を、あれこれ詮索しないようするのが大人のマナーです。

 理想のスタイルは、「価値観なんて考えたこともない、夫との(妻との)ミスマッチなことも全て含めて好き。プライスレス!」と感じているかどうかです。「そんな夫婦いねえよ」の声が聞こえてきますが、見えていないだけで確実に存在します。相手の存在をプライスレスと思うかどうかは無意識なので、あえて他者に解説しません。

「1000億円振り込むから、明日離婚してください」というゲームを大富豪から提案されたら、さぁどうする!? 価値観が浮かび上がってきますね。結婚とは、哲学の要素を含んでいるなと感じています。