5月10日、林芳正外相は衆院外務委員会で、中国の呉江浩駐日大使による台湾をめぐる発言が「きわめて不適切」として、外交ルートを通じて厳重に抗議したと明らかにした。

 呉氏は4月28日、東京都内で開いた記者会見で、日本国内にある「台湾有事は日本有事」との危機認識を批判し、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言していた。立憲民主党松原仁氏への答弁。

 林氏は、台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障にとって重要だと強調。「対話により平和的に解決されることを期待する、との日本の立場を、中国側に首脳レベルを含めて伝えている」と説明した。

 立憲の松原氏は、林氏に対してこう見解を問うていた。

「まさに日本の民間人にも危害を加えることを示唆した発言であり、断じて許すことはできないと思う。外交問題に関するウィーン条約『ペルソナ・ノン・グラータ』というのがある。今回の件は、外交使節団の長である大使に対してもこれを適用し、追放するべきではないか。一昨日、カナダは、中国・新疆ウィグル自治区の人権状況に批判的なカナダ議員に圧力をかけようとした理由で、在トロント中国外交官を追放している。カナダはやっている。林大臣は、カナダと同様の決意があるかどうかうかがいたい」

 松原氏が指摘するように、カナダ政府は5月8日、カナダに駐在する中国人外交官1人に対して、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去を通告した。中国当局による少数民族の扱いを非難するカナダ下院議員と、香港に住むその親族へ、この外交官が脅迫を企てたとされる。

 一方、中国は9日、上海のカナダ領事館員ジェニファー・リン・ラロンド氏に、13日までの国外退去を通告。さらなる対応も辞さない立場を示した。

 カナダのトルドー首相は、記者団に「報復があることは理解しているが、われわれは恐れることなく、カナダ国民を外国の干渉から守るために、必要なことをすべておこない続ける」と述べた。

 4月21日には、フランスに駐在する中国の盧沙野大使が、テレビインタビューで、かつて旧ソビエトから独立したウクライナやバルト3国などの国々について「主権国家であることを定めた国際的な合意はない」と発言。ウクライナ、バルト3国が猛反発した。

 盧大使は、ロシアが一方的に併合したウクライナのクリミアの帰属について見解を問われると、明確に答えることを避け、「旧ソビエト諸国が、主権国家であることを具体的に定めた国際的な合意はない」などと述べていた。

 中国外務省の毛寧報道官は24日の記者会見で「ソビエトが解体されたあと、中国はもっとも早く関係する国々と、外交関係を樹立した国のひとつであり、加盟していたそれぞれの、共和国の主権と国家の地位を尊重している」と述べ、大使の発言を否定。「私が言っていることが中国政府の正式な立場だ」と繰り返し、火消しに追われた。

 各国に駐在する中国外交官は、トラブル続きのようだ。

 松原氏は5月10日、自身のTwitterにこう書きこんだ。

《そもそも何故、私が質問するまでこの抗議がニュースにならなかったのか?本来なら政府が日本国民を代表して堂々と非難するべき案件だ。こそこそと遺憾を伝えるのでは中国に怯えているように見える》

「ヒゲの隊長」こと元自衛官の佐藤正久自民党参院議員も同日、自身のTwitterにこう書きこんだ。

《【外務省に呼びつけても直接抗議すべき暴言→林外相、中国大使の発言に厳重抗議…台湾情勢巡り「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」 】まだ、戦狼には、厳しくしないと、また、つけあがる。繰り返すだけ》

「戦狼外交」とは、中国による、威嚇や恫喝を含む攻撃的な外交スタイルを指す。その象徴的な人物とされてきた、中国外務省の趙立堅報道官の異動が1月に発表されたことで、戦狼外交が修正された可能性も指摘されている。だが、トラブル続きの中国外交官を見ると、対外姿勢を軟化させるつもりはなさそうだ。