「Dogeミーム」で知られている、かぼすの写真

「Twitter」の「青い鳥」が、一時的に柴犬に変わったのをご存じだろうか?

 4月4日、Twitter社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏(51)が、同社買収時の “ジョーク公約” を実現させたのだ。マスク氏自身も柴犬を飼っているが、ロゴに使われたのは今、「世界一有名な柴犬」ともいわれる日本の「かぼす」の写真。

 なぜ、ザ・日本犬が世界で人気になっているのか徹底取材した。

■海外で注目される「尻癖」「柴距離」

 そもそも「柴犬」とは日本原産の犬の一種で、日本でもっとも飼育されている。日本犬保存会(日保)によれば、飼育されている「日本犬種」のなかでも、じつに約80%を柴犬が占めている。

 日保事務局長の井上実さんに話を聞いた。

「極端なことを言うと、昔の柴犬のすべてが現在のような姿、形をしていたわけではありません。

 保存活動をしていた有志の方々が、1936年に島根県益田市で石州犬の『石(いし)』号を猟師の方から譲り受けたことが、現在の柴犬のルーツです。

『石』が交配をし、その子孫が繁殖していったのが、戦後の柴犬の血統。サラブレッドと同じで、現在の柴犬をたどると、この『石』に行き着きます」

 現在、世界から熱い眼差しを注がれている柴犬。しかし、国際的な発展は、早い段階から進んでいた。

「1989年ごろから台湾で柴犬の展覧会が始まり、それから米国、欧州でも開催されるようになり、日保からも必ず審査員を派遣しています。

 柴犬は飼いやすいんです。我々はよく『日本犬は “尻癖” がいい』と言います。要するに、排便を犬舎でしない。散歩で家の門の外に出てから用を足す。それくらい頭がよくて我慢強い。そして、病気になりにくい。柴犬は体が小さい点も魅力のようです」

 柴犬の「読み」についても、おもしろい話があった。

「日本犬の多くは『〇〇けん』と読むんです。でも、柴犬の場合は特殊な事情があります。

 1980年ごろ、日本から移住された方が、米国のサンフランシスコで柴犬の数を増やしていったんです。そのときに『しばいぬ』という呼び方で広がり、定着。

 日保では、その点を考慮して『しばいぬ』『しばけん』のどちらで呼んでもよいことにしました」

 性格的にも柴犬は「日本らしさ」があるという。

「柴犬だけでなく、日本犬に当てはまることですが、誰とでも仲よくする性格ではありません。柴犬の場合、“柴距離” といいますが、家族のなかでも一定の距離を保ちます。

 ベタベタせずに自立心がある。近いときは近いけど、離れるときは離れる。柴犬にもテリトリーがあるので、こちらが踏み込むと怒ります。賢いので噛むフリをするけど、噛むことはありませんね」

■世界の「Doge」は殺処分寸前で救われた

 世界一有名な柴犬「かぼす」。飼い主の佐藤敦子さんは「かぼちゃん」と呼んでいる。

「海外のほとんどの人は、かぼちゃんが殺処分寸前で命を救われた犬だったということを知りません。でも、世界中の方から愛される存在になったということは、かぼちゃんには神様が与えた特別な使命があったと考えています」

 2006年秋に先代犬を10歳で突然亡くし、命の尊さを思い知った佐藤さん。そこから2年、「また犬と暮らしたい」と思い、里親募集サイトで目にしたのが「かぼす」だった。

「里親募集の記事を出した動物保護団体の方が、我が家のすぐ近くにお住まいということがわかり、運命を感じてすぐに連絡を入れたんです」

 佐藤さんは、2009年6月から『かぼすちゃんとおさんぽ。』というブログを始めた。世界で拡散された一枚の写真も、そこにアップしたものだ。

「ソファでくつろぐかぼちゃんを、夫が遊びに誘っている様子です。かぼちゃんはソファに座ったまま、夫の手を軽くあしらっていました。

 写真が拡散されていることは、ウィキペディアの記事で知りました(笑)。米国在住の友人は『米国ではDoge(かぼちゃん)を知らない子供はいない』と教えてくれました」

 佐藤さんは画像拡散の現象を見て、ある決心をした。

「私になりすまして、かぼちゃんのNFTを販売する人たちが現われて、恐怖を感じました。かぼちゃんの写真は誰かのお金儲けのために使われるのではなく、誰かの幸せのために使ってほしいと思い、2021年6月に友人に相談して、チャリティオークションに出品することにしました」

 そのオークションで「Dogeミーム」と呼ばれる「かぼす」の有名な一枚についた落札価格は、日本円で約4億7000万円に相当した。

 佐藤さんはそれを「あしなが育英会」「日本赤十字社」などの支援団体にほぼ全額寄付している。

「イラクと南スーダン、そしてベトナムに学校を建設し、現地の方々がとても喜んでくださっていると聞いて、私も嬉しいです。この10年は『びっくり!』の連続。保護犬は家族に幸せを運んできてくれます」

 見る者以外も笑顔にしてくれる存在だ。

■かぼすちゃん世界進出ヒストリー

●2005年11月2日生まれ(推定)
現在17歳・

●2008年11月
愛護センターに持ち込まれ、殺処分寸前で引き取られる

●2010年2月
ブログに「Doge」のもとになる写真がアップされると、それが米国ネット掲示板やブログサイトで人気を呼び、セリフをつけたり、ほかの画像と合成されて拡散されていく

●2013年12月
仮想通貨「Dogecoin」のアイコンに使用される

●2021年6月
「Doge」のもとになった写真を含めて、計8枚の写真がNFTオークションにかけられ、約4億7000万円で落札される

●2023年4月
「Twitter」のロゴが「青い鳥」から「かぼす」に一時、差し替えられる