統一教会が日本で広まったきっかけと、自民党とカルト宗教が癒着していることの本質的な問題点とは。知っておきたい政教分離の基礎知識
統一教会とは何なのか? なぜ日本で蔓延しているのか。そして、自民党と繋がっていることが、どれだけ危険なことなのか。知っているようで知らない宗教と政治の関わりについて『日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す』から一部抜粋・再編集して紹介する。
Q1なぜ統一教会は、日本で流行しましたか。
統一教会はカルトです。反社会的で、病原性が高い。カルトだから、伝染力が高くて、広まってしまった。そして、その正体がわからなくて、社会がワクチンを用意することができなかった。
ノーマルなキリスト教とカルトの区別がつかなかった。これが、統一教会が広まった理由だと思います。
キリスト教系のカルトに立ち向かうには、キリスト教の基礎知識が大事です。病気に立ち向かうのに、病理学が大事なのと同じです。カルトは、ウイルスの突起が変化して、危険なものになっているからです。
アメリカでは、人びとはキリスト教の基礎知識があります。そこで、ああ、あれはカルトだなとすぐわかります。
モルモン教は、出てきた当初は、カルトでした。ですから、ほかのキリスト教会とモメにモメた。モルモンの書とか、ジョゼフ・スミスが預言者だとか、言っていることがどう考えても突飛です。
それでもアメリカでモルモン教がある程度広がったのはなぜかと言えば、ふつうのキリスト教の教会に不満な人びとが一定の割合でいて、そういう人びとを仲間として迎えたからです。
モルモン教に加わって、初めて私は生きた心地がしました、という人びとが、ふつうの教会からやって来る。そういう人びとを集めて、拡大していく。
日本の場合、そもそもキリスト教があまり広まっていません。そこで、キリスト教に入るはずが、キリスト教系新宗教に入ってしまうという場合があります。統一教会の、キリスト教の部分に魅力を感じるのですね。
(統一教会の教祖の母国)韓国ではどうか
韓国にはキリスト教が広まっています。ふつうのキリスト教の教会もたくさんあるし、キリスト教系新宗教も多い。統一教会は、文鮮明(ムンソンミヨン)が再臨のメシアだとする、典型的なプッツン系です。
これが韓国で始まってそれなりに流行ったのは、つぎのような事情が考えられます。まず、キリスト教が韓国で根付いたのは、どうしてか。
韓国はもともと父系社会です。父と子の関係を大事にし、自分がどの父系集団に属するか確認して安心する。これが伝統でした。
ところがこうした儒教の文化がだんだん下火になって、都市化が進むと、心に穴があいたような気持ちになります。どこかに偉い父親がいないだろうか。
キリスト教には天の父がいて、その子のイエス・キリストもいる。父系社会の韓国に、キリスト教はわかりやすいんです。
キリスト教会がたくさんあるから、統一教会が奇妙なことはすぐわかる。だから本家の韓国では、統一教会はいろいろ叩かれた。
さて日本社会では、母親が重要です。父親の存在感があまりない。だから高天ヶ原の中心も女神なのです。キリスト教の出番があまりありません。それなのに、統一教会のようなカルトがなぜ入って来るのか。
まず、統一教会がカルトだと、気がつきません。キリスト教の基礎知識が足りないからですね。防波堤になるはずの、キリスト教の力が弱い。そして最後に、統一教会が政治と結びついたからです。
Q2統一教会のようなカルトが政治と関わるのは、
どこが問題なのですか。
政教分離の原則から言って、問題です。
それになお問題なのは、統一教会にはっきりとした政治目的があって、それが危険で、しかも隠されていることです。
だから、民主主義にとって、とても有害です。カルトと政治の危険な関係宗教団体は、資金を集めます。生産活動をしないで、寄附を集める。その集め方が度を越していて、相手を騙している場合、詐欺に近い。
ほんとの詐欺なら、少なくともリーダーには、詐欺をしているという自覚があります。カルトの場合、大部分のメンバーには詐欺だという自覚がないかもしれない。むしろ、いいことをしていると思っているかもしれない。
それで歯止めがないから、詐欺よりもっと悪質だとも言えるのです。
そうやって集めたお金を政治家に渡します。自由に使ってください。選挙のときにも手伝います。秘書とか、事務所の電話番とか、ふだんのお手伝いもします。それはつまり、病原性の強いウイルスが蔓延するのを、見て見ぬふりをしてください、ということです。
統一教会には、その先の計画もあります。政権政党に喰い込み、政治家を教育し、信者の議員、シンパの議員を増やして、政治的影響力を強めよう。そうやって日本の政治を左右し、地上に神の王国を実現しよう。それが、統一教会の信仰の内容なのです。
議員のなかには何人か、うかうかと「政策協定」にサインしたひとがいました。危険このうえない。
政治家がそういう手口にひっかかってしまうのはなぜなのか。まず、宗教についての基礎知識がなさすぎます。そして、民主主義についての理解がなさすぎます。
民主主義の基本は、アメリカン・デモクラシーです。アメリカン・デモクラシーの基本は、宗教と政治の関係にあります。「政教分離」ですね。
政教分離は、名前だけならみんな知っています。でもなかみがわかっていません。
Q3では政教分離とは、どういうことなのですか。
民主主義ができた当時、いちばん大事なのは「政教分離」(政治と教会の分離)でした。この考え方を、おおもとにさかのぼって考えてみましょう。
アメリカは、ピューリタン(清教徒)の国、ということになっています。たしかにピューリタンが、メイフラワー号に乗ってやって来て、1620年にプリマスに上陸し、植民地を築いた。
ピューリタンの信仰にもとづいて教会を建て、社会を運営しました。マサチュセッツのほかの植民地も、ピューリタンが築きました。でもそれは、ものごとの一面です。
ヴァージニア植民地は、イングランド国教会でした。メリーランドはカトリックでした。ペンシルヴァニアはクエーカーでした。植民地ごと、州ごとに、人びとの信仰は違ったのです。そして誰もが、自分の教会の信仰を守りたいと思っていました。命をかけても。
さて、こんなバラバラな信仰を背景にした州がいくつも集まって、ユナイテッド・ステイツとして団結し、イングランドから独立しようと戦うことになりました。
司令官(大統領)にジョージ・ワシントンを担いだ。そして独立を勝ち取り、アメリカ合衆国を樹立します。その憲法に、世界で初めての民主主義国家の原則が、さまざまに書き込まれました。
そしてその修正第一条が、「政教分離」(separaation of state and church)の原則です。
それは、「公定教会」(established church)をつくらないことにしましょう、という意味です。これがわからない。「公定教会」とは何でしょう。
公定教会とは、政府が税金を特定の教会に注ぎ込むことです。そういうことはなしにする、が政教分離のなかみです。
日本人は、政教分離と聞くと、そうか、宗教はどうでもいいから、政治と分離しておくのだな、と思うかもしれません。
その逆です。
宗教は、大事で大事で、人びとの生活の中心です。みんな、自分の教会を大事にしたい。安心して自分の教会に行くため、政府はよその教会と結びつかないと決めておく、なのです。
この結果、教会はみんな、税金を使わないで、信徒の献金で維持されることになります。税金は全員が払うものでしょう。その税金を特定の教会に注ぎ込むと、それ以外の教会との不平等が生まれます。すると信仰の自由が脅かされます。
信仰の自由を守るために、政府はどの教会も平等に扱ってください。どの教会の信仰を選び取るかは、市民一人ひとりが自分で決めます。これが、合衆国憲法に書かれた政府と教会の分離、すなわち政教分離の原則です。
これは、アメリカ合衆国憲法で初めて確立しました。
政教分離の原則は、信仰の自由と、表裏の関係にあるのです。
Q4日本では、政教分離と信教の自由について、
正しく理解されていますか。
あんまりちゃんと理解されていませんね。国家神道の後遺症もあります。
明治政府は、国家神道は習俗のようなもので、宗教ではない。よって、すべての日本人に強制する、と決めました。仏教徒もクリスチャンも、国家神道に参加しなさい。
でも戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に、国家神道は宗教だから、国民に強制してはいけないと言われてしまいました(神道指令)。割り切れない問題が残りました。
日本国憲法にも政教分離と書いてあるが
日本国憲法は、アメリカ合衆国憲法に倣ったものなので、政教分離と信教の自由が原則として書いてあります。でも、そのロジックがよく理解されていません。
まず、義務教育でこれをきちんと教えていません。大学でも教えないし、テレビや新聞もきちんと説明していない。教科書に載っていても、なかみがわからなければ、教えられません。すると、どうなるか。
憲法の原則、すなわち民主主義の原則にもとづいて、統一教会をどう考えたらいいか、よくわかりません。日本会議を、靖国神社を、創価学会を、…どう考えたらいいか、よくわかりません。
素人考えばかりで、迷ってしまいます。
だから、政治家が特定の宗教団体の支援を受けたり、宗教団体が政治力を発揮したりすることが、民主主義にとってとっても危険なルール違反であることが、わからないのです。
これは、政教分離や信教の自由、つまり民主主義の基本ルールから、ずいぶん遠い状況だと思います。
*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。
文/橋爪大三郎 写真/©shutterstock
日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す
橋爪 大三郎
2023年3月17日発売
1,276円(税込)
新書判/368ページ
ISBN:978-4-08-721257-0
統一教会、日本会議…
宗教社会学の第一人者がタガの外れた政教癒着を警告
日本人は、宗教の訓練が足りない
◆内容紹介◆
カルトが日本を、蝕んでいる。安倍晋三元首相暗殺を機に、統一教会が自民党に喰いこんでいた実態が明らかになった。
だが、病巣はもっと深い。統一教会以外の宗教勢力も自民党に隠然と影響を与えている。
なぜこんなことになってしまったのか?
原点に立ち戻り、政治と宗教の関係を考え直す必要がある。政府職員も市民もカルトの正体を見抜く基礎知識を身につけよう。そして政教分離の原則を改めて体得しよう。本書は宗教社会学の第一人者がカルト宗教の危険性を説き、民主主義と宗教のあるべき関係について、基本から明快に解説する。
◆識者の評◆
オウム事件や統一教会問題を経験した日本でもっとも必要な知識がここにある。――有田芳生氏(ジャーナリスト/『改訂新版 統一教会とは何か』著者)
当代随一の泰斗が、その尋常ならざる「読む力」と「書く力」の双方を注ぎ込んだ本書は、今後「政治と宗教」の議論に参加する人々にとっての、ひとつの確かな羅針盤になるに違いない。――菅野完氏(著述家/『日本会議の研究』著者)