災害による運休が続くJR津軽線 蟹田〜三厩間が廃止に向けて動いています。今後は青森県との協議次第ですが、JRは地域のバスなども含めた再編を提案。その背景には、鉄道と沿線2町のバスがそれぞれ連携していない現状があります。

もともと経営が厳しかった津軽線「蟹田〜三厩」廃止協議へ

 2022年8月の豪雨災害から運休が続くJR津軽線 蟹田〜三厩(みんまや)間の今後について、JR東日本と青森県が協議に入りました。

 同社の公表資料「ご利用の少ない線区の経営情報」によると、今回の運休区間を含む津軽線の末端区間(中小国〜三厩)の1日の利用者は100人ほど、輸送密度(1kmあたりの乗客数)は「98」(2021年度)と、既に廃止が決定している留萌本線(北海道)をも下回っています。同資料にはJR東日本の66線区が挙がっていますが、その中で「廃止も含めた協議」が行われるのはこの区間が初めてとなります。


三厩駅。青森方面への最終列車は17時台に発車。現在は運休中(宮武和多哉撮影)。

 津軽線は津軽半島の東側を南北に貫き、うち運休中の蟹田〜三厩間は北側半分ほど。途中の「津軽二股駅」では北海道新幹線(奥津軽いまべつ駅)に乗り換えることもできます。

 しかしこの区間の列車は、もともと1日5往復と多くはなく、運休前からの低迷も前述の通りです。今後の需要増への糸口を探るべく、2022年7月には蟹田〜三厩から津軽半島の北端・竜飛岬までをカバーする乗合タクシー「わんタク」が運行を開始。日中のみの運行、かつ一部便を除いて予約が必要ですが、列車の時間を気にせず観光地への移動が可能になりました。

 期せずしてその2か月後に蟹田〜三厩間は運休となり、列車は「1日3往復の代行バス+わんタク」に振り替えられています。

 JR東日本は新幹線駅を津軽半島の玄関口としつつ、鉄道にこだわらない「バス+乗合タクシー」の再編案を青森県に提示する意向を示しています。提案の内容しだいでは「時代に合わなくなったローカル線」転換の新しいかたちになるかもしれません。

乗合タクシーで浮き彫りになった? 「交通の“行政縦割り”問題」

 運休が続く区間の移動手段は鉄道以外に、2町の町営バス(外ヶ浜町営バス、今別町巡回バス)があります。しかしこのバスが町単位で分断され、「新幹線」「在来線(津軽線)」「外ヶ浜のバス」「今別のバス」それぞれの連携が薄いという課題を抱えています。

 半島の観光スポットである「竜飛岬」「青函トンネル記念館」などは、三厩駅の14kmほど北にあります。これまで観光列車「リゾートあすなろ」の乗り入れやキャンペーンに合わせたシャトルバスの運行などが、JR東日本・沿線自治体の協力のもとに行われてきました。

 しかし沿線2町は、蟹田駅が外ヶ浜町(旧・蟹田町)、新幹線駅は今別町、終点・三厩駅や竜飛岬は外ヶ浜町(旧・三厩村)という“飛び地合併”で成立しています。このため2016(平成28)年に新幹線が開業するも、併設されている津軽二股駅とは接続がほぼ図られず、新幹線駅から竜飛岬への移動は2町の町営バスを三厩駅で乗り継ぐ必要がありました。

 また2町のバスは隣町へ乗り入れると停留所をほとんど通過(新幹線駅に寄らない場合も)したり、中にはたった4分差を待たずにバスが発車してしまったりすることも。津軽線から外れた旧・平舘村エリアのように2町のバスが仲良く接続する場所もあるのですが、鉄道沿線では、ただでさえ少ない路線バスの効率が輪をかけて良くありません。


龍飛漁港を出発する外ヶ浜町営バス。合併前は三厩村が運営、その前は青森市営バスが乗り入れていた(宮武和多哉撮影)。

 当初の大きな目的は「観光地・新幹線駅への移動」だった「わんタク」ですが、2町の主要スポットをほぼカバーしているとあって、蟹田駅から離れた外ヶ浜中央病院・マエダストア(スーパー)などへ向かう地元の方の利用もあるとのこと。また目的地にほぼ直接向かえる「わんタク」を利用することで、既存の鉄道・バスが分断されて使いづらい状況に改めて気づく人もいるのだとか。

 蟹田〜三厩間はかねてからの利用の低迷に加えて、「鉄道の機能低下」「地域一帯の交通も問題を抱えている」という状態で、JRにとってはある意味、提案を行いやすい環境とも言えるでしょう。

トンネルの開通とともに人口減少 地域はいま「新幹線通学」

 かつて津軽半島の陸地移動は、沿岸航路(青森港〜三厩〜小泊。青森商船が運航)が戦後しばらく重宝されるほど困難を極め、1958(昭和33)年の津軽線全通は熱烈に歓迎されたそうです。

 しかし現在では道路状況も大きく改善され、冬場でも除雪が行われる国道280号や県道を移動するクルマユーザーのために「奥津軽いまべつ駅」も80台以上の無料駐車場を備えています。

 また「青函トンネル」の工事拠点でもあった三厩・今別では、合わせて1.3万人以上はあった人口が現在では3分の1ほどとなり、2022年3月には地域で唯一の高校(青森北高校今別校舎)も閉校。今別町では新幹線(奥津軽いまべつ〜新青森)の通学定期に半額の補助を出しており、(ただしバスの運転手さんによると「人数は両手で足りるくらい」とのこと)津軽線を使わず青森市内へ通学できているとのことです。

 青森県は、同様に8月の豪雨被害を受けたJR五能線や、県からの支援増が要望されている「むつ湾フェリー」、地域利用の大動脈でもある「青い森鉄道」など、支援が必要な交通機関も抱えており、もとより低迷していた津軽線ばかりに力を注げる状況でもありません。


奥津軽いまべつ駅。道の駅が併設されている(宮武和多哉撮影)。

 利用実態に合わない鉄道のダイヤ・ルートを受け継ぎ、これまでに輪をかけて鉄道代替バスが使いづらくなる、というケースも全国で多い中、「廃止後をどうするのか」という鉄道存続にこだわらない問いかけは、前述の公表資料で名前が挙がった66線区を抱える地域への参考となりそうです。


※一部修正しました(1月22日20時02分)。