坂本冬美、LiSA

 世間を騒がせた「坂本冬美×目黒蓮のモゴモゴスペシャル対談」から約半年。第2回は、 “ロックヒロイン” LiSAとの夢の共演だ。かつて『紅白』のトリを務めた坂本冬美と、レコ大アーティストのLiSA。いざ、開幕!

坂本(以下、坂) 先日は名古屋のコンサートに来てくださり、ありがとうございました。

LiSA(以下、L) とんでもない。私のほうこそ、すごいステージを見せていただき、ありがとうございました!

坂 最初、ファンの方からLiSAさんが来ていたと聞いたとき、思わず「嘘でしょう!? リサさんって、どこのリサさん?」と口走ってしまって(苦笑)。本物のLiSAさんだと知った後も、ご実家が岐阜だから、きっとお母様の付き添いでいらっしゃったんだろうなと勝手に思っていました。

L 行きたかったのは私で、自分でスケジュールを調べて、会場が名古屋だったので母を誘ったんです。

坂 でも、どうしてわたし?

L 2019年に、初めて『紅白』に出させていただいたときの出番が、冬美さんのひとつ前で。冬美さんがステージに立つ前に、すごく集中して準備されている姿を見せていただき、裏でこんなにも誠実に向き合っているんだということに感動したんです。

坂 自分でも、バカじゃないの? と思うんだけど、ギリギリまで発声していないと不安なんですよね(苦笑)。

L それで、一昨年の『紅白』のときに、偶然、冬美さんの生の歌を聴いてしまって。これはもう、コンサートに行くしかない! と思って、お邪魔させていただきました。

坂 LiSAさんにそう言ってもらえるだけで嬉しいけど、聞くところによると、レディー・ガガとノラ・ジョーンズのライブに行かれた狭間に来てくださったということで、もう感激しかないですよ。

L 楽しいっていうのは失礼かもしれませんが、MCがもう本当におもしろくて。すごくいい勉強になりました。

坂 関西人なので、オチをつけないと、なんか気持ちが悪いというか、気がすまないんですよね。でも、LiSAさんはまねしちゃダメですよ。わたしとは求められているものが違うんですからね(笑)。

L あの……ひとつ、お伺いしてもいいですか。

坂 なんでも、聞いてちょーだい!

■朝はストレッチ20分と階段の上り下り15往復

L 朝のルーティンを教えてほしくて。

坂 起きてすぐは腰が痛いし、目眩もするから、まずベッドの上で20分くらい軽くストレッチをします。

L 朝、ストレッチをすると違いますか?

坂 若いころは多少の無理もきいたんだけど、やっぱりね、年齢には勝てないから(苦笑)。朝起きて、それをやると体が楽になるんですよ。

L 毎日ですか?

坂 もちろん。あとは、1階から3階の階段の上り下りを15往復。最初は20往復していたんだけど、下りで膝に来ちゃって。LiSAさんは?

L 私は朝起きたら、まずお風呂に入って声を出します。

坂 お休みの日も毎日?

L はい。ただ思い切りじゃなくて10分くらい、ふわーっと声を出す感じで。自分を確かめるために一度、声をゼロにするようなイメージです。

坂 それをしないと不安になるの?

L そうですね。初めての武道館のときもそうだったんですが、全然声が出なくて、みんなの期待に応えられないのが、泣いちゃうほど悔しくて。

坂 一度、そういう思いを味わうと、また声が出なくなるんじゃないかと、不安になっちゃうんですよね。

L 冬美さんでも?

坂 30代の前半に体調を崩して、思うような声が出せなくなって。20代は若さで乗り切れていたのに、それができなくなってから、ステージに立つのが怖いと思うようになったんですよね。

L それ、すごくよくわかります。20代のときは、普通にフルスイングできていたのに、30代に入ったら体の変化を感じました。

坂 あんなきれいなハイトーンボイスで楽々と歌っているように見えるLiSAさんにも、そういうことがあったのね。

L 朝、お風呂で軽く声を出すようになってから、喉を壊すことがなくなったので、そうならないための可能性を少しでも広げたくて、今でも毎日やっている感じです。

坂 私もあれだけやっても、うまくいく日もあれば、目を覆いたくなる日もあるし……。

L そうなんです!

坂 不安を解消できるアドバイスをしてあげたいんだけど、わたしもまだ不安だらけでステージに立っているので……ごめんなさいね(苦笑)。

L とんでもないです(笑)。

坂 「Netflix」のデビュー10周年記念ドキュメンタリー『LiSA Another Great Day』を見せていただいて驚いたというか、驚愕したことがひとつあるんです。

L なんでしょう?

坂 コンサートのある日は、朝の8時半に会場入りするっていうのを知って、嘘でしょう!? と。スタッフより早いじゃないですか。

L そうですね(苦笑)。

坂 なぜ、そんなに早く入るの? という疑問と同時に、8時半に入って何をしているんだろうと思って。

L まず、体をゼロの状態にするために、1時間半くらいかけてマッサージをしてもらいます。それから、よーし動きだすぞと気合を入れて。

坂 何をするの?

■コンサート会場でキックボクシング

L キックボクシングです。そこでひと汗かいてから、お風呂に入って、蒸気の中で少しだけ声を出して。その後、メイクをしながらご飯を食べるんですけど、そのときに、メモを取りながら前日の記録映像を見ています。

坂 すごい。でも、まだ時間はたっぷりありますよね?

L そこから、メンバーと打ち合わせをして、リハに向けて発声練習とキックボクシングをして、それからリハです。

坂 それはすごい。1回のコンサートに、どれだけのエネルギーを使っているんだろうと考えると、本当にすごいという言葉しか出てこない。でも、それだけやっているから、あのハイトーンボイスをキープできているんでしょうね。わたしにLiSAさんの曲を歌ってと言われても、絶対に歌えないから。

L いや、でも……私は中域がすごく苦手なんです。

坂 え〜〜っ!? 嘘でしょう?

L 高い音はバーンと張ってしまえば上に飛んで、強いアタックが出るんですけど、中域をやわらかくしたり、少しセクシーに出すというのがちょっと苦手で。私の楽曲に『炎』というのがあるんですが。

坂 はい、もちろん、知ってますよ(笑)。

L その『炎』は、中域がすごくふくよかな曲で。そのうえ、バラードにも苦手意識があったので、最初すごく不安だったんです。あの曲のよさを生かすには、私じゃないほうがいいんじゃないかと。

坂 いや、いや、それはない。LiSAさん以外の声で聴く『炎』はちょっと想像できない。今でも苦手意識はあるの?

L LiSAの名前で歌わせていただいたことで、自分自身の幅がすごく広がったように感じていますし、ちょっとだけ自信もつきました(苦笑)。

坂 わたしにとって『夜桜お七』や、桑田佳祐さんからいただいた『ブッダのように私は死んだ』がそうであるように、『炎』は間違いなくLiSAさんの元に舞い降りた楽曲ですよ。それがレコード大賞に繋がり、今に繋がってるんだから。

L 冬美さんのように、幅の広い声を出せる方が歌ったらどうなるんだろうというのもあるんですけどね。

坂 だ・か・ら、それは無理ですって(笑)。LiSAさんの歌は、誰もが歌える歌じゃないんですから。それくらい素敵だし、それくらい難しい。わたしは逆に、LiSAさんが『夜桜お七』を歌ったら、どうなるんだろうと思いますよ。絶対にカッコいいはずだから。

L え〜〜〜〜っ!? 本当ですか? 歌わせていただいていいんですか?

坂 もちろんですよ。ぜひ、カバーしてほしい。絶対に、情熱的な『夜桜お七』になるはずだから。

L 皆さん聞いてましたよね? 証人になってくださいね。

坂 LiSAさんの歌は、LiSAさんにしか歌えない世界観があるし、LiSAさんが歌ってくれることで『夜桜お七』がどう変化するのか。想像しただけで、ワクワクしちゃう!

L じつはもう一曲、歌わせていただきたい歌が……。

坂 どの曲だろう?

L 私は、冬美さんの『祝い酒』が大好きで。

坂 え〜〜〜〜っ!? ちょっと、いや、ものすごく驚いた。LiSAさんの口から、まさか『祝い酒』が出てくるなんて。

L ははは、そんな(笑)。でも、大好きなんです。

坂 『祝い酒』も喜んでいると思いますよ(笑)。じゃあ最後に、今後の目標は?

L 近い未来では15周年。そこでドーム公演ができたら最高だろうなって思ってます。

坂 道はみえている?

L ずっと5年先のことを考えて、スケジュールまで描きながら活動してきたので、道ははっきりとみえています。その未来予想図をかなえられるように、ひとつひとつと向き合いながら、進んでいきたいと思います。冬美さんは?

坂 えっ!? わたし? 具体的な目標はないんですけど、漠然と一日でも長く元気に歌っていられたらいいなぁというのが、目標といえば目標かな(笑)。

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、『酔中花』発売中

りさ
1987年6月24日生まれ 岐阜県出身 数々の人気アニメ主題歌を担当し、2020年秋にリリースした『炎』は『第62回輝く!日本レコード大賞』(TBS系)にて大賞を受賞。現在、自身6枚めとなるオリジナルフルアルバム『LANDER』を発売中

写真・中村 功
スタイリスト(坂本)・小泉美智子
ヘアメイク(坂本)・上田佐紀
スタイリスト(LiSA)・久芳俊夫
ヘアメイク(LiSA)・氏家恵子
取材&文・工藤 晋