なぜムダな会議はなくならないのか。ビジネスパーソン17万人を調査し、AI分析をしたクロスリバー代表の越川慎司さんは「会議の時間、参加者と役割は事前に決まっても、6割の会議でアジェンダが共有されていなかった。議題がないなら集まる意味はない」という――。

※本稿は、越川慎司『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』(アスコム)の一部を再編集したものです。

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■仕事時間の半分は会議の時間だった

17万人のビジネスパーソンについて調べた結果、仕事時間のなんと45%が会議の時間で占められていました。ざっくり言えば、「仕事時間の半分は会議の時間」だということ。

しかも、「会議がうまくいっている」と考えている人はわずか18%しかいなかったのです。

これでは、生産性が高くなるはずがありません。当然のごとく、7割を超える方が「会議改革をしたい」と考えているという結果が出ています。

会議の参加者の実に88%の人が不満に感じていること。それは、「会議時間が長い」ということです。

そもそも、もともとの設定時間が長いだけでなく、分析の結果、日本の会議のおよそ8割は時間どおりに終了せず、だらだらと続くことがわかりました。参加者が、会議時間に不満を抱くのも当然でしょう。

仕事の時間の約半分の時間を費やしている。
参加者の多くがうまくいっていないと感じている。
階層が多いと回数が増える。
しかも時間どおりに終わらない。

このように、日本の会議は問題だらけ。私は、対面会議9000時間、リモート会議1万7000時間を録画・録音し、AIによって分析、解析しました。そして、この「ムダに時間がかかって何も決まらない会議」をなくすために、さまざまな提案をさせていただいてきたのです。

出典=『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』

■上司の「マウンティング会議」が多すぎる

たとえば、「毎週、月曜日の10時は定例会議」ということが、決まっているとします。あなたは、アウトルックとかGoogleカレンダーに入っている会議の予定を見て、こう感じているのではないでしょうか。

「あ〜あ、月曜は朝から会議か、面倒だなぁ。まあ、座っていれば勝手に終わるから我慢、我慢」

こんな会議は、まさに、「開かれること自体が目的になってしまっている会議」です。もちろん、活発な議論が交わされ、内容が充実していて、必要なことが決定する会議ならば、やる価値はあるし、あなたの参加意欲も変わってくるでしょう。

しかし、悲しいかな、私がこれまでに相談に乗ってきた企業での会議の実態を見ると、一般社員が、「イスに座ること」、つまり、「参加すること」だけが目的になってしまっている会議が毎週、場合によっては毎日開かれている。まさしくムダな時間そのものです。

そんな「開催することが目的化しているミーティング」の中身は、メールで共有すれば済むような連絡事項だけで、あとはどうでもいい雑談になっていることもあるのではないでしょうか。

しかし、なぜ、そのような会議はなくならないで残り続けるのでしょうか。今までの慣習を踏襲しているだけなのでしょうか。しかし、会議の決定権を持つ役職の人ならやめることも可能なはず。長年、誰もやめようとしないのには隠れた理由があるのかもしれません。

実は、こうした会議は上司にとって、自己満足に浸る絶好の機会です。上司がメンバーの顔を見て、ハッパをかけることでマウンティングし、自分の権力を誇示する場になっているケースが多く見受けられます。

あえて、名前をつけるなら「マウンティング会議」です。

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■6割の会議でアジェンダが共有されない

上司の虚栄心を満たすためだけの会議であれば、ムダでしかありません。

極論で言えば、ムダな会議はなくしてしまうのが一番です。しかし、それはあなたが部門長でもないかぎり、現実的には難しい話。なくせないなら、せめて、「意味のない会議」を「意味のある会議」に変えていきたいところですよね。

実は、会議は、準備が9割です! 会議を意味のあるものにするのであれば、次の3つについては事前に決定され、参加者に告知されていなければなりません。

●会議の時間
●会議の参加者と役割
●会議のアジェンダ

このうち、会議の「時間」と「参加者と役割」は事前に決定していることも多いかと思います。見落としがちな曲者は、3つ目の「アジェンダ」。アジェンダとはつまり、会議の議題や目的のこと。

具体的には、たとえば、「この会議では、これとこれとこれを決定します」という、言わば「その会議が目指すべきゴール」のことです。これがない会議は、山頂がわからない登山のようなもの。参加者は、どこを目指しているのかわからないまま、登山を始めなくてはなりません。

逆に言えば、アジェンダが存在しないのであれば、わざわざ会議を開く必要はないと言えます。にもかかわらず、私の調査では、6割の会議でアジェンダが共有されないまま開催されているのが現状なのです。

■曖昧なアジェンダでは意味がない

会議のアジェンダは、遅くとも会議の24時間前には参加メンバーへ周知することが必要です。そうすれば、参加者は準備をして参加してくれますから、会議時間の短縮にもつながります。

あなたが一参加者でしかないなら、会議の主宰者(多くの場合は上司でしょう)に、「今度の定期会議では、こんなことを決めてはどうでしょうか?」と、アジェンダをこっそりメールしてみるのはいかがでしょうか?

ほかのメンバーの前で進言すると、周りからスタンドプレーのように誤解されるかもしれませんし、上司によってはメンツをつぶされたと思ってしまうかもしれません。

その際に、提案を受け入れてもらいやすくするポイントがあります。それは、上司の立場に立って、より具体的かつ明確なアジェンダにすることです。

たとえば、上司が課長であるなら、その上司である部長や役員などから、どんなことを言われているかこっそり観察して、その内容を入れたアジェンダにするのです。

4割の「アジェンダがある」会議であっても、その中身は「進捗報告」とか「提案事項」といった曖昧な内容になっていることが多いもの。もし、あなたの上司が営業獲得件数で悩んでいるのであれば、「○月の獲得件数を10件増やすための方法を検討」とか、「A社への提案内容検討」などというタイトルが入っているだけでも、集まる目的がハッキリします。

■目的が明確なら脱線は防げる

上司としても、「部下が面倒なことを言ってきた」と切り捨てたりはせずに、提案を真剣に考えるモードに入ってくれるものです。

曖昧なアジェンダだと何が起きるかといえば、通り一遍の共有事項の話が終わったあとは、上司が自分の話したいことだけをダラダラと話す「マウンティングトーク」が始まってしまうのです。そこからさらに話が脱線して、過去の栄光トークに変わってしまったら最悪です。

目的が明確なアジェンダには「脱線を防ぐ」役割もあるのです。

「チームのためになること」「上司がチームの目標達成のために望んでいること」などを考えて、テーマとして提案することで、会議時間が「イスに座ることが目的のムダな時間」にならなくて済みます。

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■「会議のための会議のための会議」はなぜ起きるのか

たとえば、あなたがある提案を社内で通したいと考えたとします。その提案を通すには、役員が参加する会議での決裁が必要です。その場合、提案資料が必要です。

しかし、直属の上司のオッケーをもらえば、そのまま役員にプレゼンできる……というケースはまれなものです。

たとえば、次のようなケースがあり得ます。

●まず、上司の上司にあたる部長に提案する前にメンバー同士で作戦会議を行う。
●他部署へ伝えておいたほうがいいだろうと思い、営業部と共有会議を行う。
●いちおう上司の課長にも共有する会議を行う。
●今度は、どのような資料を作成すべきか関係者で打ち合わせをする。
●資料に入れるデータが欲しいと、経理部との会議を行う。
●資料が完成したら、上司との1回目の打ち合わせを行う。
●部長から「資料をもっとコンパクトにしてほしい」と言われ、作り直す。
●指示どおりに資料を作り直し、部長から最終承諾を得るための会議を行う。

いかがですか? 会社によって多少の違いはあるでしょうが、「会議のための会議のための会議」が重なって、本来の目的は何なのか、わからなくなってしまうこと、ありますよね。大事なのは提案の中身なのに、それ以外に費やす手間と時間が多すぎます。方向性違いの気づかいが生む「忖度(そんたく)ミルフィーユ」現象です。

あるいは、自分の発案でなくても、上司から「こういう稟議(りんぎ)をあげなさい」と指示される場合もあると思います。いや、そっちのほうが多いでしょう。

そんなときは、余計に、「どうして、自分の意見でもないのに、こんなに苦労して、いくつもの関門を突破しなくちゃいけないんだろう」って、思うことでしょう。社員数2000人を超えるとムダな会議が増える傾向がありますが、もっと規模の小さい会社でも、同様の事例は珍しくはありません。いったい、どうすればよいのでしょう?

■忖度によって謎の会議が増えていく

この「会議のための会議のための会議」問題は、なぜ起きるのでしょうか。

「そういうものだから」と上司や先輩から言われても納得いかないでしょう。では、間を飛ばすと何が起きるのか、それは、「上司から、『ぜんぜんだめだ、何やっていたんだ!』と激怒される」かもしれないということです。

過剰な気づかいによって、折り重なって増えていくので「忖度ミルフィーユ会議」とでも言いましょうか……。「他部署の了解を取っておかなくては」「きれいな資料を作ったほうがいいのでは」と、忖度によって会議が増えてしまう。過剰な気づかいは生産性を落とす大きな原因なのです。

少しでも1つひとつの会議の手間を減らしたいですよね。

もしも、会議の設定自体を減らせないのであれば、資料を減らすという作戦はいかがでしょうか。著書『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』でもお話ししましたが、1時間の経営会議のために、現場の社員は平均73時間かけて準備し、うち65時間が資料作成に費やされていました。

■会議資料の4割は読まれない

ミルフィーユみたいに重なった会議それぞれに、分厚い資料を用意し、会議ごとに修正をいちいち入れるのはいかにもムダの多い作業です。経営会議本番に用意する資料の4割は、実際には見られることがないことも調査でわかっています。

そうした事情は、現場の社員だけでなく、管理職も気づいていながら、解決に手をつけられていないことが多いのです。であれば、ここは上司を巻き込んでしまうのが上策です。

越川慎司『仕事ができる人のパワポはなぜ2色なのか?』(アスコム)

課長であれば、部長からの評価を得たいものです。そこで、「部長は、細かな資料までは目を通さないので、わかりやすく簡潔な資料で提案しましょう」などという提案もできます。

現場の社員のみなさんの、ありがちな間違いとして「資料は立派なほうが評価される」という思い込みがあります。私は職業柄、数多くの経営者や役員の方々とお話をさせていただきましたが、資料が立派だから評価するという方は、ほぼゼロです。

むしろ、簡潔で要点を押さえたペラ1の資料のほうを評価するという方までいます。もし、可能であれば「資料はA3の1枚で文字サイズは14ポイント以上」とルールを提案してみてはいかがでしょうか。余計な手間も省けるはずです。

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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)