●価格をグッと抑えてきた期待のAda Lovelace

2023年1月4日の23時にNVIDIAの最新GPU「GeForce RTX 40」シリーズの新モデル「GeForce RTX 4070 Ti」の情報が解禁となった。発売は2023年1月5日23時よりスタートする。今回は、そのRTX 4070 Tiを搭載するZOTACの「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti Trinity OC」を試用する機会を得たので、さっそくレビューをお届けしたい。RTX 4080や前世代のRTX 3080 Ti/3080と比べてパフォーマンスや消費電力はどうなのか注目してほしい。

ZOTACの「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti Trinity OC」。価格は日本円で15万円前後。NVIDIAから発表されたRTX 4070 Tiの価格の目安は799ドル(149,800円)より、となっている

GeForce RTX 4070 Tiは、RTX 4090/4080の下位モデルとして登場。NVIDIAでは、“WQHD解像度で120fps以上を出せるGPU”と位置付けている。ゲーミング液晶では、WQHD解像度で高リフレッシュレートというモデルも多く、レイトレーシングをゴリゴリに効かせてもWQHDでヌルヌル描画でゲームを楽しめるGPUを投入した、という見方でよいだろう。まずは、スペックを紹介しておこう。

スペックを見て気付く人も多いと思うが、RTX 4070 Tiは当初RTX 4080の12GB版として発表されていたものだ。そこからスペックに変更は行われていない。ただ、大きな違いはRTX 4080の12GB版は価格の目安が899ドル(164,800円)だったが、RTX 4070 Tiは799ドル(149,800円)に下がったこと。ライバルのRadeonを意識してのことか、性能面からの判断かは分からないが、ユーザーとしてはうれしいことだろう。ちなみに、上位のRTX 4080 16GB版の価格目安は1,199ドル(219,800円)なので、差は大きい。

RTX 4070 Tiは、RTX 4080に比べてスペックはかなりダウンする。CUDAコアは1,000基以上減っており、ビデオメモリは12GB、そしてメモリバス幅は192bitと上位GPUとしては狭めなのが気になる人も多いハズ。メモリバス幅がゲームのフレームレートに与える影響が大きいことは周知の事実だからだ。RTX 3080でもメモリバス幅は320bitあるため、実際の性能が気になるところだ。

その一方で、カード電力は285Wとかなり小さい。RTX 3070 Ti(290W)以下だ。電源の要件は700Wとなっており、RTX 4080(320W)以上に導入しやすいGPUになっている。コンパクトなカードの登場も期待したいところだ。

そのほか、Ada Lovelaceアーキテクチャの採用など基本的な特徴はRTX 4090/4080と同じだ。詳しく知りたい方はRTX 4090のレビュー「「GeForce RTX 4090」の恐るべき性能をテストする - 4K+レイトレで高fpsも余裕のモンスターGPU」で確認してほしい。

性能テスト前にZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti Trinity OCを紹介しておこう。カード電力は定格通りの285Wだが、ブーストクロックは定格の2,610MHzから2,625MHzまでアップさせたファクトリーOCモデルだ。

ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti Trinity OCのカード長は306.8mm。ZOTAC GAMING GeForce RTX 4080 16GB Trinity OCはカード長356.1mmだったので、かなりコンパクトになった

重量は実測で1,118gだった。RTX 4080は2kg近いカードが多かっただけに、持った瞬間軽いなと感じた

ファンは3基搭載されている

補助電源は12VHPWR×1だ

従来の8ピン×3に変換するケーブルも付属。RTX 4070 Tiの要件なら8ピン×2でもよいはずだがOCモデルなので余裕を持たせているのかもしれない

出力はDisplayPort×3、HDMI×1とオーソドックスな仕様だ

バックプレートを見るとヒートシンクに対して、基板の大きさは3分の2程度なのが分かる

動作させたところ。上部にLEDが内蔵されている

GPU-Zによる情報。ブーストクロックが2,625MHzと定格よりも高いのが分かる

カード電力は定格通りの285Wに設定されていた

○WQHDなら高フレームレート、4Kも十分イケる性能

さて、性能チェックに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。Resizable BARは有効にした状態でテストしている。比較対象としてGeForce RTX 4080 Founders EditionとGeForce RTX 3080 Ti、GeForce RTX 3080を用意した。いずれもブーストロックは定格のモデルだ。CPUのパワーリミットは無制限に設定。ドライバに関しては、レビュワー向けに配布された「Game Ready 527.62」を使用している。

今回はNVIDIAからビデオカードの消費電力を実測できる専用キット「PCAT」をお借りすることができたので、ゲーム系のベンチマークではカード単体の消費電力も合わせて掲載する。PCATは、12VHPWRでの接続にも対応した最新モデルだ。

ビデオカード単体の消費電力を正確に測定できるNVIDIA「PCAT」。この基板のほか、PCI Express x16スロットに装着するライザーカードと組み合わせて使用する

まずは、3D性能を測定する定番ベンチマークの「3DMark」から見ていこう。

3DMark

上位モデルのRTX 4080と比べると概ね2〜3割減というスコアだ。スペックから考えると妥当なところだろう。その一方で、RTX 3080 Tiと比べるとすべてのテストでスコアを上回っている。前世代の上位グレードよりも性能は上という点は大いに評価したいところだ。

次は、実際のゲームを試そう。まずは、レイトレーシングやDLSSに対応しないゲームとして「レインボーシックス シージ」と「Apex Legends」、「オーバーウォッチ 2」を試す。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、Apex Legendsはトレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレート、オーバーウォッチ 2はBotマッチを実行した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。

レインボーシックス シージ

レインボーシックス シージの消費電力(カード単体)

ここでもRTX 3080 Tiはすべての解像度で上回った。レインボーシックス シージはアップスケーラーも利用していないので、「素」の性能でRTX 3080 Tiよりも確実に上と言ってよいだろう。フルHDでRTX 4080と差がないのは、フレームレートが頭打ちになっているため。注目したいのは、カード単体の消費電力だろう。4Kで見るとRTX 3080 Tiよりも高いフレームレートを出しながら、45Wも消費電力が小さい。RTX 40シリーズはワットパフォーマンスの高さもウリだが、それが証明されている。ちなみに、RTX 4080のフルHD解像度の消費電力が低いのは、GPUに負荷がかかりきらないため。RTX 4080ではレインボーシックス シージのフルHD解像度は負荷が軽すぎるということだ。

Apex Legends

Apex Legendsの消費電力(カード単体)

Apex Legendはフレームレート制限を解除するコマンドを使っても最大300fpsまでしか出ないゲームだ。そのため、RTX 4070 TiとRTX 4080はフルHD、WQHDではほぼ上限に到達。RTX 4070 Tiは4Kでも平均194fpsと、このゲームに関しては4K/144Hzのゲーミング液晶を活かし切れるフレームレートを出せるパワーがある。消費電力に関しては、レインボーシックス シージと同じ傾向だ。RTX 40シリーズは、解像度が下がるごとに消費電力が大きく下がる。RTX 4080はゲームの負荷が軽すぎて、RTX 4070 Tiよりも消費電力が小さくなっている。Apex Legendsの最高画質設定はそれなりに描画負荷が高いので、RTX 40シリーズのバケモノぶりが改めて分かる結果だ。

オーバーウォッチ 2

オーバーウォッチ 2の消費電力(カード単体)

RTX 4080に対して、フルHDは約1.4割減のフレームレートが4Kでは約3.2割減とメモリバス幅が192bitと狭い影響を感じる部分だ。それでもRTX 3080 Tiにはすべての解像度でフレームレートが上回った。カード単体の消費電力も、GPUにキッチリと負荷がかかる状況ならRTX 4080を下回ることが分かる。RTX 3080 Tiよりも100W近くも小さいと、RTX 4070 Tiのワットパフォーマンスはここでも良好だ。

●レイトレーシングとDLSS 3性能、エンコード性能をテスト

○DLSS 3はフレームレート向上&消費電力軽減

次は、レイトレーシングとDLSS 3の性能を含めたテストを行おう。DLSSはGeForce RTXシリーズで利用できる高い画質を保ったまま描画負荷を軽減できるアップスケーラーとして知られているが、そこにTensorコアを利用したフレーム生成技術を追加して、さらにフレームレートを向上できるようにしたのがDLSS 3だ。フレーム生成はGPU側で行うため、CPUパワーが不足しているような状況でもフレームレートを向上できるのも強み。

なお、第4世代のTensorコアが必要になるため、DLSS 3は現在のところRTX 40シリーズだけで利用できる。それ以外のRTXシリーズはDLSS 2までの対応だ。

従来のアップスケーラーにフレーム生成技術を加えたのがDLSS 3。すでに35以上のゲームやアプリで対応を発表している

まずは、DLSS 3に対応するベータ版のサイバーパンク2077から試していこう。テストは最高画質設定の「レイトレーシング:ウルトラ」をベースに、レイトレーシングライティング設定をもっとも高い「サイコ」にし、ゲーム内のベンチマーク機能を実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。

ベータ版サイバーパンク2077には、DLSS 3の特徴であるフレーム生成を有効にする「DLSS Flame Generation」という項目が追加される。RTX 40シリーズ以外では設定を有効にできない

サイバーパンク2077

サイバーパンク2077の消費電力(カード単体)

サイバーパンク2077は、2年以上前に登場したゲームだが、現在でも最重量と言える描画負荷の高さ。しかし、DLSS 3(アップスケール+フレーム生成)を利用すれば、RTX 4070 Tiでも4K解像度で平均87fpsに到達と、レイトレーシングを最大限効かせても十分快適にプレイできるフレームレートを出せる。RTX 3080 Tiはフレーム生成を利用できないため、DLSS 3非対応ゲームに比べてRTX 4070 Tiとのフレームレート差は大きくなるのがポイントだ。

また、カード単体の消費電力にも注目したい。DLSSのパフォーマンス設定は内部のレンダリング解像度は4分の1(4KならフルHD)になるため描画負荷は軽減する。そのため消費電力はDLSSを使っていない状況よりも少なくなる。フレームレートは向上する、消費電力は下がるとDLSS 3は非常に優秀な技術だ。ちなみにRTX 30シリーズはDLSSを有効にしても消費電力が下がらないのは、内部のレンダリング解像度が下がってもサイバーパンク2077の描画負荷が重すぎて、消費電力が下がらないと見られる。なお、RTX 3080の4K解像度の消費電力が低いのは、性能不足で描画処理しきれていないのが影響していると思われる。

次はアップデートにてDLSS 3に正式対応したF1 22だ。画質、レイトレーシングとも最高の「超高」に設定、ゲーム内のベンチマーク機能(バーレーン&晴天に設定)を実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。

DLSS 3対応によってビデオモードの設定に「DLSS Flame Generation」が加わった

F1 22

F1 22の消費電力(カード単体)

DLSSをパフォーマンス設定にすることで、4Kで約2.6倍、WQHDで約2.3倍、フルHDで約2.1倍のフレームレート向上を確認とDLSS 3の威力がよく分かる結果だ。4Kは平均143fps出ており、4K/144Hzのゲーミング液晶を十分活かせるフレームレート。DLSS 3に対応しているゲームなら、RTX 4070 Tiは4Kゲーミングを余裕で楽しめると言ってよさそうだ。消費電力はサイバーパンク2077と同じ傾向。解像度が下がるごとに消費電力も下がっていく。RTX 30シリーズもサイバーパンク2077ほど描画負荷が高くないせいか、DLSSを有効すると若干だが消費電力が下がるのを確認できた。

最後に、11月12日の大型アップデートでDLSS 3に正式対応した「Microsoft Flight Simulator」を試して見よう。アクティビティの着陸チャレンジから「シドニー」を選び、60秒フライトしたときのフレームレートを「FrameView」で測定している。

大型アップデートでDLSS 3の「NVIDIA DLSS フレーム生成」が追加された

Microsoft Flight Simulator

Microsoft Flight Simulatorの消費電力(カード単体)

Microsoft Flight SimulatorはCPU負荷の非常に大きい。そのため、CPUパワーが不足している状況でもGPU側でフレーム生成するのでフレームレートが向上できる、というDLSS 3の強みが出るタイトルだ。RTX 30シリーズはフレーム生成に対応できないので、フルHD、WQHDではCPUパワー不足でDLSSを有効にしてもフレームレートがほとんど伸びない。その一方でRTX 40シリーズなら、DLSSを有効することで大きくフレームレートを向上できる。

消費電力に関しては、CPUがボトルネックになってGPUに負荷がかかりきらないため、DLSSを使っていない状況でも少なめ。それでもDLSSを使えば、きっちり消費電力は下がる。RTX 30シリーズとの消費電力差はここでも大きく、RTX 40シリーズのワットパフォーマンスのよさがここでもよく分かる。

○デュアルエンコードはRTX 4070 Tiでも健在

ここからはクリエイティブ系の処理をテストしていこう。まずは、3DCGアプリの「Blender」を使ってGPUによるレンダリング性能を測定する「Blender Open Data Benchmark」を試す。

Blender Open Data Benchmark

一定時間内にどれほどレンダリングできるのかをスコアとして出すベンチマークだ。RTX 3080に対して最大1.4倍、RTX 3080 Tiに対して最大1.25倍のスコアを出した。RTX 4080に対しては2〜3割減とゲームと同じ傾向だ。

続いて、デュアルエンコードに対応する動画編集アプリの「DaVinci Resolve 18」(テスト版)を使って、Apple ProResの4Kと8K素材を使ったプロジェクト(約2分)をそれぞれH.265とAV1に変換する速度を測定してみた。品質:80Mbps/Rate Control:固定ビットレート/Preset:速度優先の設定でエンコードを実行している。

DaVinci Resolve 18 - 4K

DaVinci Resolve 18 - 8K

RTX 4090/4080と同じく、ハードウェアエンコーダーのNVENCを2基備えており、それを同時に使うデュアルエンコードにも対応。RTX 30シリーズに比べて圧倒的な速さでエンコードを完了できる。また、高圧縮&高画質のコーデックであるAV1のハードウェアエンコードにも対応しているのも大きな強み。YouTubeなどの動画配信サービスが今後AV1への対応を予定しているだけに、ゲーム実況などの動画投稿を考えている人にとってもRTX 4070 Tiは魅力的に映るハズだ。

●動作中のGPU温度とクロックの推移を見てみる

○高性能&低消費電力でオススメしやすい完成度

最後にGPU温度と動作クロックの推移をチェックしよう。サイバーパンク2077を10分間プレイした際の温度とクロックの推移を「HWiNFO Pro」で測定している。温度は「GPU Temperature」、クロックは「GPU Clock」の値だ。室温は22度。バラック状態で動作させている。

温度とクロック

ブーストクロックは2,750MHz前後で推移。仕様上のブーストクロック2,625MHzzなので、ゲーム中はそれよりも高クロックで動作するのが分かる。温度は最大69度と強烈に冷えているわけではないが、長時間のプレイも問題の無いレベルだ。

と、ここまでがGeForce RTX 4070 Tiのテスト結果だ。NVIDIAはWQHDで高フレームレートを狙ったGPUとしているが、ゲームの快適なプレイの目安を60fpsとすれば、4Kでのプレイも十分可能なパワーを持つ。ただ、WQHD/165Hzのゲーミング液晶でレイトレーシングを効かせながら、滑らかな描画を楽しみたい、という人にはドンピシャのGPUであることは間違いない。WQHDでゲームをプレイするにはRTX 4090/4080はちょっとオーバースペックだからだ。メモリバス幅が狭いなどスペック的な不安を払拭する性能とワットパフォーマンスを持っており、RTX 4070 Tiは幅広いゲーマーにオススメと言えるが、問題は価格だ。15万円を切ればRTX 3080 Tiより安いのでお得と言えなくもないが、「RTX xx70」はこれまでアッパーミドル扱いだったグレード。それに10万円以上の価格が付くのには抵抗を感じる人は多いハズ。価格がこなれればブレイクしそうだが、市場の動向に注目したい。