「ザ・ノンフィクション」で「ミナミさん」のお見合い相手として話題になった長谷川さんの婚活は続いていました(写真:yamasan/PIXTA)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、2022年1月に放送された『ザ・ノンフィクション』で注目された資産家男性「長谷川さん」のその後の婚活がどうなったのかをご紹介します。

5年間の婚活で成果がなかった

2022年1月16日・23日に放送されたドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で、弊社会員の女性「ミナミさん(仮名)」が密着されました。彼女の真剣交際のお相手として、4℃のネックレスをプレゼントした男性「長谷川さん(仮名)」を覚えていますか? ミナミさんと破談になった後も、長谷川さんは婚活を続けていました。

40代半ばの長谷川さんは、2020年2月に入会。長谷川さんは都心から通勤圏内にある駅前の一等地に、マンション数棟、店舗数棟、ホテル、駐車場など広大な土地を所有する大地主の跡取り息子です。ふだんは父親が所有するマンション1階の店舗オーナーとして仕入れ業務を行うほか、マンション管理を行っています。

入会する前は他の相談所2社で5年ほど婚活していたそうです。婚活を始めた理由は「子どもがほしい」。女性とお付き合いした経験はまったくありません。婚活も苦戦に次ぐ苦戦。前の相談所ではなんのアドバイスもなかったらしく、お金と年月を無駄にしてしまいました。

私はまず苦戦の原因を探りました。長谷川さんのプロフィールを見ると、年収が「450万円」と書かれていました。40代で450万円
の場合、収入は大きなアピールポイントにはなりません。実態とあまりにも離れているので、まずそこに違和感を感じました。

「お父さんが経営している管理会社に勤めているわけでしょう。お父さんの年収はどれくらいですか」と聞いたところ「『教えられない』と言われたのでわかりません」。父親は長谷川さんを経営には関わらせていない様子。

実家暮らしということもあり、生活費はかかりません。だからお給料は300万円程度で、その他株などの収入を合わせても450万円前後の収入だったようです。

長谷川さんは大学卒業後、2年間企業に勤めていましたが、その後、家業を手伝うことにし今に至ります。生活も仕事も親の庇護下にあります。

「お父様とご相談して、お給料をあげていただくことはできませんか。その方が婚活もうまくいきますよ」とアドバイスしましたが、長谷川さんは年収欄の数字を上げることが婚活に必要だということにピンとこないようです。仕方がないので、プロフィールのPR文に、マンション、貸店舗などがある一家だと書きました。

優先順位がわからない「遅刻癖」

そこから何人かの女性とお見合いをしましたが、それでもやはりことごとくフラれてしまう。さらに原因を探っていくと、お見合いもデートも毎回10分、20分と遅刻していることがわかりました。

遅刻の理由を聞いてみると、乗り換え案内をギリギリに設定している。だから途中でトイレに寄ったり何かを買ったりすると、乗り継ぎができず遅れてしまっていたのです。余裕を持って約束の30分前に到着するよう設定してもらうことにしました。

ようやく遅刻癖が直ったかなと思ったら、また遅刻するように。理由を聞くと、「出かけようとしたら雨が降ってきたから洗濯物を取り込んだら遅れた」。何を優先すべきかを考えないんですね。

ある時は、真冬の雨が降る中、女性を外の改札口で20分以上待たせて、女性の体調が悪くなり破談になってしまいました。「遅れます」と連絡は入れていたものの、「近くのお店に入って待っていて」と言う気遣いができないのです。

よく着ている洋服も15年以上昔のもので、サイズも全然合っていないのです。そこで買い物に同行し、お見合い用のスーツとデート用の洋服を選びました。

そんな長谷川さんですが、いいところもあります。まず、まじめ。週4回、深夜1時から2時の間に、マンションのゴミ置き場に行ってゴミ袋をすべて開けてビンと缶と分別するそうです。ゴミを開けるところを他人に見られたら怪しまれるので、寝静まっている深夜にしているそう。

しかし、この話をするとまたフラれてしまうんです。「汚い」「なぜオーナーなのにそんなことするの」「管理会社に頼めば済むことなのに」と。これを「偉いですね」と言ってくれる人と結婚したほうがいいと、私はアドバイスしました。

アドバイスを素直に聞いてくれる

また、とにかく素直! 家族という小さな組織の中だけで生き、社会に揉まれた経験がないせいか、まるで少年のよう。穏やかで優しいお父さんの性質を受け継いでいて、大きな声を上げることもなく、優しく正直です。

私のアドバイスも素直に聞いてくれます。文句も言わず毎月美容院でカットするようになり、ジーンズとパーカーばかりだった服は新調したジャケットに変わりました。

私のオフィスでお寿司屋さんデートの練習もしました。「デートでは回る所ではないお寿司屋さんにお誘いするんですよ」ということから始まって、私が「いらっしゃい!」「お客さんどこ座ります?」なんてお寿司屋さん役を演じ、「どうぞ」と女性に席を指し示す。その「どうぞ」を何度も繰り返し練習しました。そういうところから教えないと、デートでただ突っ立っているだけになってしまうのです。

他社ではこうして長谷川さんの悪いところを指摘することもなく、いいところも探してくれなかったようです。私が懇切丁寧に教えたので、デートでは「植草先生がね、植草先生がね」とばかり言っているらしく、「まるでマザコンみたいですよ。自分は何もできないと言っているようなものですよ」と注意しました。婚活を通して、世間のいろいろなことを学んだように思います。

そんな長谷川さんの前に現れた女性が、30代前半のさやかさん(仮名)。遠方にお住まいですが、弊社に入会したいといらっしゃいました。以前は地元の相談所に入っていたそうですが、いいお相手がみつからなかったそうです。

お母さんが「ザ・ノンフィクション」で弊社を知り、「田舎で婚活を続けていても、いい人にめぐり会えない。東京の“本物の”相談所に行って活動してほしい」と背中を押してくれたそうです。

さやかさんは大学卒業後、関西の大手企業に就職が決まっていましたが、会社を経営していたお父さんが脳梗塞で倒れて廃業の危機に。従業員もいるし、年の離れた弟もいたため、会社存続のためと生活費を稼ぐため、さやかさんは一時引き継ぐことを決意しました。数年後、お父さんが回復。今は、さやかさんは地元の別の会社に勤めています。

こんなに苦労している女性なら、長谷川さんのいいところをわかってくれるはず。そう思い、さやかさんが入会したその日に長谷川さんに電話をし、次の日、彼女が地元に帰る前の早朝にお見合いをセッティングしました。

さやかさんのお母さんは、「ザ・ノンフィクション」を通じて長谷川さんのことをご存じでした。さやかさんが「明日お見合いするよ。相手は長谷川さんだよ」と電話で報告すると、とても喜んでいたそうです。

さやかさんは純朴。田舎でのんびり暮らしてきたということもありますし、年齢も30代前半と若いこともあって、世の中をあまり知らず擦れていない。優しくマイペースな長谷川さんに合うと思いました。東京への憧れもあり、地元を離れることにも躊躇がありません。

お見合いは弊社で行ったため、私の目が届いていたこともありうまくいきました。そして次の週、さっそく1回目のデートが決定したのです。

うまくいったのに「ちょっと不安」と言われ

1回目のデートで、長谷川さんはこれまでの努力を実らせうまくエスコートできたのか⋯⋯。夕方、私がさやかさんに電話すると、ちょうどデートを終え、地元に帰るため空港にいました。「デートはどうでしたか」と聞くと、さやかさんは曇った声でこう言いました。

「実はちょっと不安です」

デート中の長谷川さんの言葉に、さやかさんは「この先お付き合いを続けていけるか不安を感じた」と言います。うまく進みそうに見えた矢先の暗雲。いったい何があったのでしょうか。


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(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)