海上保安庁の新型巡視船「きりしま」が造船所から引き渡されました。同船は巡視船艇として初めて感染症患者の隔離区画を設けているのが特徴とのこと。海域警備に加え、各種救難任務にもあたる最新鋭船を隅々まで取材してきました。

女性海上保安官も乗り組む期待の新鋭船

 海上保安庁は2022年12月22日、巡視船「きりしま」の引き渡し式をジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所 鶴見工場で実施しました。同船は20mm機関砲や高圧砲水銃といった装備に加え、新型コロナウイルスの感染拡大などを踏まえて、感染症患者の搬送を想定した隔離区画を設けているのが特徴です。


海上保安庁の新型巡視船「きりしま」(深水千翔撮影)。

「きりしま」は、1994年1月に1番船が竣工した「らいざん」型巡視船(180トン型PS)の18番船です。老朽化が進んでいた、みはし型巡視船「きりしま」の代替として建造されました。船体サイズは長さ46m、幅7.5m、総トン数195トン。ニュージーランドに本拠を置くハミルトンジェット製のウォータージェット推進器2基を搭載し、速力は35ノット(約64.8km/h)以上を発揮できると見られます。定員は15人で、航海長を含め3人の女性海上保安官が乗り組んでいます。

 海上保安庁は沿岸部における海難救助のほか、テロ対応や密輸、密航事案の監視・取締りなどの警備救難体制を確保するため、追跡・捕捉能力や規制能力などの向上と高性能化を図った巡視船の計画的な代替整備を進めており、「きりしま」の新造もその一環です。今年10月に竣工した根室海上保安部の巡視船「さろま」と共に、2020年度補正予算で計19億円が計上されていました。

配備先は日向灘に面する宮崎県

「きりしま」の船内に設けられた隔離区画は、正式名称「感染症患者搬送区画」といい、日本周辺を航行する各種船舶で新型コロナなどの感染者が発生した際に、陸上の医療機関への搬送が必要になることを想定したものだそう。

 救助に当たる巡視船と海上保安官への影響を最小限に抑えるため、患者を運び入れる区画向けに専用の空調と水密扉を整備。室内の気圧を外より低くした陰圧室としての機能を持たせ、船内におけるウイルス拡散を防ぎます。


巡視船「きりしま」とともに記念写真を撮る乗組員や関係者(深水千翔撮影)。

 隔離区画は船内を経由せずに外から直接、感染症患者を運び込める構造となっており、担架に乗せたまま寝かせられるスペースが確保されていました。さらに専用のトイレやインターホンが設けられ、患者が船内の他の区画に移動しなくても良いようになっています。

 巡視船として必須装備の目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備える20mm機関砲や赤外線採証装置、暗視装置、高速警備救難艇などは、最新型のものを搭載。停船命令等表示装置はフルカラーのものが両舷に設置されています。調理室にはIHクッキングヒーターが置かれており、揺れる船内でも火を使わず安全に調理ができます。

 式典において海上保安庁長官の訓示を代読した第三管区海上保安本部の天辰弘二次長は、「宮崎県は、南海トラフ地震やそれに伴う津波の発生が懸念されており、巡視船の新造は地元の期待が高いと聞いている」と話したうえで、「自然災害に対し高度な捜索監視能力や情報伝達能力などを備えた本船は地域の方々への安心、安全に大きく寄与できるものと確信している」と述べています。

「きりしま」は、九州南方海域を主に担当する第十管区海上保安本部の宮崎海上保安部(宮崎県日南市)に配備される予定です。