自衛隊は、大雪でトラックなどが動けない場合に備えて、複数の雪上車を保有しています。ただ、これらは普段は表に出ることが少ないため、あまり馴染みがありません。民間とは異なる自衛隊ならではの雪上車を見てみます。

自衛隊発足前から開発が始まっていた国産雪上車

 2022年12月18日からの記録的大雪に見舞われた新潟県は、陸上自衛隊に災害派遣を要請し、これを受け、20日から県内各地で自衛隊による除排雪作業が続いています。

 そもそも日本は、世界有数の“雪大国”といわれます。世界一の積雪記録は高さ11m82cmですが、これは滋賀県の伊吹山で1927(昭和2)年2月14日に観測したものです。また一部メディアが報じたところによると、アメリカの天気予報提供会社アキュウェザーが2016(平成28)年に発表した世界で最も雪深い都市というのは青森市だとか。ちなみに2位が札幌市、3位が富山市で、ベスト3すべてを日本の都市が占めているのだといいます。


3 1/2tトラックの荷台から10式雪上車を降ろす陸上自衛隊員(画像:陸上自衛隊)。

 こうして見てみると、日本にとって冬と雪は切っても切れない関係だといえるでしょう。ゆえに自衛隊にも積雪に対応できる車両として専用の雪上車が用意されています。

 陸上自衛隊の源流は、1950(昭和25)年に発足した警察予備隊ですが、当初よりソ連(当時)の北海道侵攻をにらんで、その防衛のために人員や装備を充実させてきた経緯があります。そのため、冬場も支障なく活動できるよう、1950年代初頭から雪上車の開発を始めていました。

 警察予備隊が発足した当初は、アメリカ軍から供与されたM29汎用装軌車が雪上車として使われていたものの、あまり使い勝手が良くなかったのか、1953(昭和28)年に保安庁技術研究所(現在の防衛装備庁)において雪上車が試作されます。

 開発に際しては小松製作所や後述する大原鉄工所の技術支援を受け、53式(1953年開発)、54式(1954年開発)、55式(1955年開発)と様々な雪上車を製作、各種試験のなかで試行錯誤を重ねつつ、技術を蓄積していきます。その結果、1960(昭和35)年にガソリンエンジン搭載の60式3t雪上車を、翌年にはディーゼルエンジン搭載の61式大型雪上車を相次いで開発・採用するまでに至りました。

サイズ小さい方が使い勝手ヨシ!

 現在、陸上自衛隊でおもに使用されている雪上車は、「78式雪上車」と「10式雪上車」です。両車とも、国内屈指の雪上車メーカーである大原鉄工所(新潟県長岡市)で量産されています。

 78式雪上車は、その名の通り1978(昭和53)年に制式化された車両で、10式雪上車は、その後継として2010(平成22)年に採用されたものです。78式は車重が約6.0t、全長5.2m、全幅2.49mで、乗員数は12名なのに対し、10式は車重が約5.0t、全長4.7m、全幅2.3mで、乗員10名なので、78式よりも10式の方がコンパクトになっているのがわかります。


10式雪上車(向かって左)と78式雪上車(同右)。一見して前者のほうがフロントガラスが大きい(柘植優介撮影)。

 単純に考えると、乗員数が多い方が重宝しそうに思えますが、実はこのサイズの差が使い勝手に大きく影響しています。

 それは雪上車の運搬に関係することで、78式雪上車の場合、載せられるのは「7tトラック」や「特大型トラック」(通称:特大)と呼ばれる車両に限られます。しかもそれらに載せる際、履帯(キャタピラ)幅の関係から、「アオリ」と呼ばれる荷台の側面部分を外す必要があります。

 それに対し、10式雪上車はひと回り小さな「3 1/2tトラック」の荷台に収まるサイズで、しかも車体側面から履帯が出っ張っている部分が少ないため、アオリ部分を外すことなく載せることができます。なお10式が78式よりも車重が約1t軽くなっているのは、3 1/2tトラックの最大積載量を考慮したからです。

 3 1/2tトラックは、全国の部隊に必ず配備されているといっても過言ではないほど、陸上自衛隊ではポピュラーなトラックなのに対し、7tトラックや特大型トラックは配備部隊が限られ、また該当部隊であっても3 1/2tトラックよりも保有数は少ないです。

 また、トラックとしての取り回しも車体がコンパクトな方が運転しやすいため、その点でも運搬に従事する隊員にとって負担が少ないといえるでしょう。

2人しか乗れない「軽雪上車」何に使う?

 10式雪上車は変速装置がオートマチックになっているほか、車体の向きを変える操向装置もハンドル式のため、大幅に運転しやすくなっています。一方、78式雪上車はマニュアルで、なおかつ操向は2本のレバーを巧みに操って操舵する必要があり、運転には相応の技術を要しました。


冬季訓練で用いられる軽雪上車(画像:陸上自衛隊)。

 このほかにも、フロントガラスが大きくなり、視界が圧倒的に広くなったほか、民生品の流用によってコストダウンも図られているといいます。

 これらの理由から、10式雪上車は78式雪上車に比べて大幅に使い勝手が向上しており、現場でも評判は上々のようです。ちなみに10式は78式と比べて乗員数は減っているものの、最大積載量は変わらず1.0tをキープしているため、重量物の積載や牽引などでは78式雪上車と同じように使うことが可能です。

 これとは別に、陸上自衛隊では「軽雪上車」という2人乗りの雪上車も調達・運用しています。要はスノーモービルで、オートバイの代わりとして雪中の連絡や偵察、軽輸送などに用います。

 ちなみに、民間の雪上車やスノーモービルは、吹雪や積雪のなかでも目立つよう、赤やオレンジなど、派手なカラーリングが施されているモノが多いです。対して、陸上自衛隊の雪上車は、敵に見つかりにくくするよう、雪中迷彩として白一色で塗られています。

 そうした雪上車は、普段あまり見かけない車両ではあるものの、積雪地ではなくてはならない装備のため、その配備エリアは広く、北海道を始めとして東北はもちろん、北陸から山陰地方までの駐屯地や部隊に広く配備されています。

 このように、警察予備隊発足当初から連綿と開発・調達されてきた自衛隊の雪上車。あまり知られていないものの、冬季の部隊活動を古くから支えてきた「陰の立役者」といえるでしょう。