「水素をつくる船」商船三井が開発中 完全ゼロエミ 無人航行 ただとんでもない姿に!
次世代燃料として水素が注目されるなか、船内で海水から水素を製造し、自動運航するという船を商船三井が開発中です。船の推進や、水素製造のための電力には風力エネルギーが活用されますが、風をとらえるために奇抜な姿の船になります。
風を全力で味方にする船「ウインドハンター」
商船三井が2022年11月、公式YouTubeチャンネルにて「ウインドハンタープロジェクト 〜 風力と水素を活用したゼロエミッション事業 〜」と題した動画を公開。現在開発している、特異な姿の船について概要を明らかにしました。
ウインドハンターのイメージ(商船三井の動画より)。
同社は10月、船首に「硬翼帆」と呼ばれる風力推進装置を取り付けた石炭輸送船「松風丸」の運航を開始しましたが、ウインドハンターは、最大高さ53mにもなるこの硬翼帆を、甲板に10基も取り付けているのです。
この船は水素生産船、商船三井は「動く水素生産プラント」と称します。船内で海水と風力エネルギーを活用して水素を生み出し、陸上へ供給することを目的としています。推進力にも風力と水素を活用し、環境に影響する廃棄物を排出しない完全ゼロエミッション運航を可能にするといいます。
風の力で航行しながら、水中では発電タービンを用いて発電し、ポンプで組み上げた海水からつくった純水を電気分解することで、水素を作り出します。
さらに、その水素とトルエンを化学反応させ、水素キャリア(水素ガスを扱いやすい物質に変換したもの)のひとつMCH(メチルシクロヘキサン)をつくり、船内のMCHタンクに貯蔵。その貯蔵量が一定値を超えると、陸上への荷揚げ準備が始まります。なお、一連の流れは全て自動で行われます。
船は自動航行モードとなり、現位置から寄港地までの風の状況を踏まえた最適な航路を割り出しながら、風力と推進プロペラとのハイブリッド推進で航行。途中で風が弱まると、硬翼帆を自動で下げ、格納されていた推進プロペラが起動。この動力は、MCHから分離した水素を活用した燃料電池によるエネルギーだそうです。
港に近づくと推進プロペラが作動するとともに、複数のドローンが船内から飛び立ち、ドローンが係船索(ロープ)を岸壁につないで着岸。MCHを荷揚げします。空になった船内のタンクにトルエンを補給したのち、再び風の強いエリアへと、MCHの充填時間を予測しながら出航します。これが、船の一連の運用です。
いつできるの?
商船三井によると、ウインドハンターが運航されるのは「風が強い過酷な環境を航行する事が想定され、そういった環境下では、“無人航行”も選択肢の一つ」と考えているそう。ただし人が乗り込んで操船することも可能だそうです。
運航エリアは、現在開発を進めている“風を知るセンサー”をもとに、風の状況を見ながら探しにいくようになるといいます。
では、実現はいつ頃になるのでしょうか。
商船三井はすでに、ウインドハンタープロジェクトの一環として、2021年には風力活用・水素生産の一連のサイクルをヨットで成功させています。今回の動画のような「無人航行の水素生産船」については時期を明かしてないものの、商用ではない小型の水素生産船は、2025年以降に建造を計画していると話しました。