日本バレーボール協会
川合俊一会長インタビュー 後編

(前編:日本バレーを改革。人気復興のため協会・選手は何をすべきか?「目立つことをやる選手が現れれば...」>>)

 日本バレーボール協会の川合俊一会長は、就任前、国際大会が日本で開催されなくなることへの危機感を抱いていたという。その思いもあったからか、国際バレーボール連盟の関係者との対話を積極的に行ない、すでに「日本開催」が決定した大会も多い。インタビュー後編では、これまでに進めてきた交渉、現在の男女の日本代表チームについても併せて聞いた。


現在の日本代表について語った日本バレーボール協会会長の川合俊一氏

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――以前は毎回日本で開催され、地上波で中継されていたワールドグランドチャンピオンズカップが現在は行なわれていません。バレー人気を保つために重要な大会だったと思いますが、今後、その部分をどう埋めていこうと考えていますか?

「こればかりは、国際バレーボール連盟(FIVB)が『やらない』というのであれば仕方のないことです。ただ、今は毎年ネーションズリーグ(VNL)がありますよね。今年は男子しか日本で大会をやってなかったんですが、先日FIVBの総会に行ってきて、会長とゼネラルディレクターには『毎年日本でやりたい』と伝えました。それで現段階では『ぜひ』ということになっています」

――他に、日本に招致している大会はありますか?

「世界バレー(世界選手権)もそうですが、難しいんですよ......。世界バレーは会場を2つ用意しないといけなくて、そうなると日本でやる際に日本が出ている会場だけしか集客できず、赤字を抱えてしまうリスクが高くなりますから。だから、もうひとつの会場は違う国に設けてもいいんじゃないかと。例えば、フィリピンなどバレー人気が高い国もいいですよね。自分の国が出ていなくてもVNLをやるくらいですし、一考の余地はあると思います。

 あとはオリンピック予選も、『ぜひ日本でやりたい』と話をしています(この取材後、FIVBは日本がオリンピック予選の開催国のひとつになったことを発表した)。僕は会長になる前に、『日本でオリンピック予選も、世界バレーも、VNLもやらないとなったら、日本バレーはどうなるんだ?』とずっと危機感を抱いていました。

 会長になったからには、もう他人事じゃない。FIVBの総会では、アリ・グラッサ会長のほうから『ぜひ会いたい』と言ってくれてさまざまな話ができています。日本で大会をやるからには中継するテレビ局も必要なので、その調整もしないといけないですね」

――日本代表の人気と、Vリーグの人気に差があることも課題とされてきましたが、そこはどう考えていますか?

「すごく人気がある選手が海外に行ってしまうこともあるし、まだ大学生でVリーグに出ている選手が少ないことも影響しているでしょうね。あとは、野球などのようにそれぞれのチームがどれだけ地域に根ざせるか。Vリーグは基本、企業のチームなので、時間はかかるでしょうね。

 ひとつの解決策として、人気選手が海外に行かなくてもいいようなリーグにしたらいいんじゃないか、と個人的には思います。方法はVリーグ機構の方とも話しながら探っていく必要がありますが、イタリアのセリエAと同等ぐらいのレベルになれば、当然『日本にいたほうがいい』となりますよね。

 野球やサッカーはすでに各地域でファンがついていて、どんな選手がいても応援する体制ができています。だから、そこにすごい選手がきた時にはもっと盛り上がる。だけどバレーは選手個人の人気によるところが大きくて、そういう選手がいるチームの試合には観客が集まります。それなら、人気があるトップ選手がプレーしたくなるようなリーグにすればいいんじゃないかと。僕はVリーグ機構の人間ではないので、あくまで個人的に考えていることですけどね」

――男女の日本代表について、今年度の戦いで見えた成長と課題を教えてください

「男子に関しては、昨年の東京五輪でもすごくいい試合をしていましたし、それは継続されていますね。今年はより自信をつけたのか、安定感がある。負けてしまった試合もワンサイドゲームで圧倒されることがないですし、見ていて気持ちがいいです。

 選手個人のことでは、ずっと西田有志が試合に出ていることが気になります。彼は自分より20cmくらい高さがある相手と戦っている。ジャンプも毎回高く跳ばないといけないですし、本来であれば3連戦とかは絶対無理。そんな西田、キャプテンの石川祐希もそうですが、代わりを任せられる選手が必要ですね。

 楽しみなこともあって、今は学生でも2mクラスの選手が何人かいるんです。彼らをしっかりと強化して、2年後のパリ五輪で活躍できるようになったらいいですね。チームが強くなる時は決まって、若い選手が大活躍するもの。2人ぐらいそういう選手が出てきたらものすごく面白いチームになると思います」


世界選手権で奮闘した男女の日本代表 photo by FIVB

―― 一方の女子はいかがですか?

「東京五輪では本当に悔しい思いをしたでしょうが、よく立て直しました。眞鍋監督はデータに基づいた独自の練習のシステムがある。システマチックにチームを強くしていくタイプの指揮官なので、選手が交代してもあまり影響が出ないですよね。

コーチやアナリストが多いですから、お金はちょっとかかりますよ(笑)。それでも結果を出すために必要な資金だと思っています。『これで結果が出なかったらどうしよう』と思うこともありましたが、世界バレーでベスト8。しかも準々決勝は強豪ブラジル相手に負けたとはいえ、あと一歩まで迫りました。もう眞鍋監督に任せてしまって大丈夫でしょう」

――石川選手、古賀紗理那選手、両キャプテンの印象は?

「2人は真面目。現役時代の僕のように、門限を過ぎたあとに寮を抜け出したりもしないでしょうね(笑)。僕が一時期キャプテンをやった時は、いろいろな人に気を遣うようになって"自分"が出せなくなってしまった。2人にはそうならないように頑張ってもらいたいです。自分のプレーが優先で、『ついでにキャプテンをやる』くらいの気持ちでいいかもしれません。選手としてのよさが出なくなると、チームが困っちゃいますから」

――活躍が気になった新戦力、若手について教えてください。

「女子は林琴奈。『こんないい選手、昨年のチームにいたかな?』となりましたよ」

――東京五輪のメンバーには選出されていましたが、ほとんど出場機会はありませんでした。

「そうですよね。これからも攻守での活躍に期待します。他には、本来はアウトサイドヒッターだけど、ミドルブロッカーとして起用された宮部藍梨もブロックがいい。急造でしたから、クイックが遅いのが課題ですけどね。もともとサイドの選手をミドルで使うというのも眞鍋監督の面白いところです。

もうひとり、レフトの井上愛里沙にもびっくりしました。彼女は昨年の五輪メンバーにはいませんでしたよね?」

――はい、選出されていないですね。

「あんなにすごいプレーをする選手が入っていなかったんだ......不思議ですね。そこは監督の好みもありますけどね。東京五輪ではエースの古賀がケガをして何試合か外れましたが、タラレバにはなりますが井上がいたら違っていたかもしれない。隠れた存在がいきなり出てきたという感じです」

――男子はどうですか?

「男子に関しては、ミドルが少しよくなってきた印象です。日本代表はサイドが頑張っているイメージがありますが、世界バレーではミドル勢にブロックが出ていた。山内晶大がクイックを難なく決めたり、いい感じですね」

――ミドルは川合さんが現役時代にプレーしていたポジションでもありますが、やはり気になりますか?

「そういう部分もありますね(笑)。攻撃に関してはサイドがよければなんとかなることもありますが、守りに関してはミドルブロッカーがカギ。なんなら、ミドルブロッカーが全部指示をしてもいいと思います。

 そこも、山内と小野寺太志は守りで指示を出していました。ブロックをしめるだけじゃなく、『ストレートに打たせるからレシーブして』といったように。ミドルが他の選手に指示を出すには、自分でも得点を決めないといけない感じもあるんですけど、彼らの決定率は高かった。ミドルは昨年に比べて成長したと思います」

――Vリーグとしては、西田選手がセリエAから戻ってきたことが大きいですね。

「そうですね。実力はもちろん、人気もある選手なので。先ほども言いましたけど、そういう選手を見に行った人たちは、その他の選手のファンにもなってくれることがある。西田にはそのきっかけになってほしいです」

――西田選手のほか、ジェイテクトSTINGSには日本代表のセッターの関田誠大選手、柳田将洋選手など、オールスターのようなメンバーが集まっています。

「昔の富士フイルムみたいですね。そういうチームもあっていいと思います。逆にそのチームに『何とか勝とう!』という盛り上がりもできるかもしれない。代表もVリーグもどんどん人気を上げていきたいですね」

【プロフィール】
川合俊一(かわい・しゅんいち)

1963年2月3日、新潟県生まれ。身長195cm。中学からバレーボールを始め、ジュニア時代から日本代表チームの一員として国際試合に出場。日本体育大学在学中に、学生として初めて日本代表のレギュラーに選ばれ、ロサンゼルス五輪、ソウル五輪に出場した。富士フイルムでもチームを牽引。現役引退後はビーチバレーボールのプロ選手を経て、スポーツキャスターや解説者、後進の指導のほか、バラエティ番組や会社経営など幅広く活躍。2022年3月、日本バレーボール協会の会長に就任したことが発表された。