世界王者・宇野昌磨か、「4回転の神」イリア・マリニンか…はたして勝者は? GPファイナル男子の熾烈な戦い
GPファイナル2022 プレビュー 男子シングル編
GPファイナルで優勝候補のひとりとなる宇野昌磨
コロナ禍で3年ぶりに開催されるフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル。2019年大会と同じイタリア・トリノで12月8〜11日に開かれるが、その出場権獲得争いは男女ともに最後までもつれる展開となった。
男子はGPファイナルを過去4連覇した羽生結弦がプロになり、3連覇中だったネイサン・チェン(アメリカ)も学業に専念するために競技から離れた。ふたりに加え、昨季の北京五輪と世界選手権でともに2位になった鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)が右足首のケガの回復が遅れ欠場。主役クラスがごそっと抜けてしまったのだ。
10月のジャパンオープン前日練習では、曲かけ練習で4回転アクセルを含めた6種類7本の4回転ジャンプを入れた構成に取り組み、すべてを着氷するとんでもない滑りで存在感をアピールした。
マリニンは、GPシリーズ第1戦、10月のスケートアメリカではショートプログラム(SP)を4位発進。フリーは4種類5本の4回転の構成で、後半の4回転ルッツからの3連続ジャンプで転倒したものの前半の4回転4本はしっかりと決めて280.37点で逆転優勝。
2戦目は5週間後、11月のフィンランド大会は、SPは再びミスをしてスケートアメリカより少し低い85.57点。フリーは冒頭の4回転アクセルで手をついた以外、4分の1の回転不足はあってもしっかりと着氷し、合計を278.39点にして優勝。底力を見せた。
【勢いに乗る17歳、三浦佳生】 対して日本勢で最初に勢いを見せたのは、今季からシニアに移行した17歳の三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)だ。当初、GPシリーズはスケートカナダだけの出場予定だったが、その前週のスケートアメリカの急遽出場が決まった。
それでも「すごく体が動いていた」と話すSPは、4回転2本を含むジャンプをすべて決め、タイムオーバーの減点はあったが94.96点の1位発進。フリーは、最初の4回転ループは転倒して「最後はスタミナがなくなってスピンが止まりそうだった」という状態だったが、4回転サルコウと4回転トーループを決めてマリニンに次ぐ2位の得点を出し、合計でも自己最高の273.19点で2位に食い込んだ。
三浦はスケートカナダでもその勢いを保ち、SPはミスをした宇野昌磨(トヨタ自動車)を抑えて1位発進。フリーは6分間練習で靴ひもが切れるアクシデントもあって練習で跳べなかった4回転ループを回避し、3本目の4回転サルコウで転倒。宇野に次ぐ171.23点を出し、合計265.29点で2位と、GPファイナル進出を確実にした。
三浦と同じように、11月の第3戦フランス大会のSPで1位発進をし、フリーでも粘って自己最高の257.90点で2位になり、GPファイナルへ前進したのが22歳の山本草太(中京大)だった。
2015年世界ジュニアは3位で宇野とともに表彰台に上がり、ジュニアGPファイナルも2014年大会は宇野に次ぐ2位、2015年は3位になった山本。だが、シニア移行を翌シーズンに控えていた2016年、世界ジュニア直前に右足首を骨折。そのあとも2度の骨折と3度の手術があり、ケガに苦しんできた。
シニア初シーズンに出場する予定だったフランス大会で今季、表彰台に上がり、「ここからがスタート」と話した山本。昨季からはSPでは90点台に乗せるまで力を伸ばし、今季はフリーでも4回転サルコウと4回転トーループが安定してきた。
その成果はGPファイナル進出の可能性がある選手が6人も集結した11月のNHK杯でも発揮された。SPは96.49点の自己最高で1位発進。「順位など余計なことを考えてしまったのがミスにつながった」というフリーは、トリプルアクセルを2本の転倒で崩れて6位にとどまったが、合計ではSPの貯金を生かして257.85点で2位。GPファイナル進出を決めた。
そんな三浦と山本に続くように、2019年ジュニアGPファイナルで優勝した18歳の佐藤駿(明治大)。同い年の鍵山とともに将来を期待されたもののシニア移行後の2年間はケガに苦しんできた佐藤が、やっと結果を出してきた。
昨季は2度にわたって左肩を痛めた。世界ジュニアに出場予定だったが、医師から「手術をすると半年は十分な練習ができない」と言われた。大会を辞退して今年2月に手術。その影響もあって今季の序盤は調子が上がってこなかったが、第4戦イギリス大会では249.03点ながら3位に入り運にも恵まれた。
さらにフランス大会1位のアダム・シャオイムファ(フランス)がNHK杯で5位にとどまったことで、GPファイナル進出の可能性が高まった。シャオイムファがもし4位だった場合、佐藤はフィンランド大会でマリニンに勝って優勝しなければ進出できなかったが、2位でもクリアできる状況になったのだ。
進出への緊張感があったフィンランド大会の佐藤は、SPで4回転ルッツを転倒するミスもあって3位発進。しかしフリーでは「いつもどおりにやればいい」という日下匡力コーチの言葉で落ち着いた。
最初の4回転ルッツや4回転トーループ+3回転トーループをしっかり決める丁寧な滑り。終盤の3回転フリップからの3連続ジャンプが「ノット・クリア・エッジ」と判定されてわずかに減点されただけのほぼノーミスの演技で、ジュニア時代の自己最高を更新する180.62点を獲得。
マリニンには突き放されたが、合計262.21点を獲得して2位。巡ってきた運を捕まえてGPファイナル進出の6枠目に滑り込んだ。
そんな新勢力躍進のなかで、唯一実績を持つ存在の宇野昌磨(トヨタ自動車)は、安定した成績を残した。
自身初戦のスケートカナダと2戦目のNHK杯はともにSPで課題の4回転トーループ+3回転トーループが跳べずに2位発進。
スケートカナダのフリーでは、4回転ジャンプやトリプルアクセルの回転不足が多かったが、後半の4回転トーループ+3回転トーループは2.44点加点のジャンプにして逆転し273.15点で優勝。宇野は「SPで失敗した4回転+3回転を、一日の短い期間で『これかな』というのを見つけられたのは次につながる」と納得の表情を見せた。
NHK杯は靴の調整がうまくいかず、納得できない練習が続いたなかの戦いだったが、6分間練習後にエッジを調節して4回転トーループとトリプルアクセルをしっかり跳ぶことを目標にした。
4回転ループと4回転サルコウは「練習でも跳べていて自信があった」と話すとおりに確実に決め、課題のトーループとアクセルも成功。合計279.76点で優勝し、GPファイナル進出を危なげなく決めた。
日本勢4人と、マリニン、そしてスケートアメリカ4位、イギリス大会優勝のダニエル・グラスル(イタリア)が出場するGPファイナル男子。
今季の得点を見れば、唯一280点台に乗せているマリニンがリードという状況だが、宇野もNHK杯でSP、フリーともミスがありながら279.76点を獲得していて僅差の戦い。
マリニンもSPでミスをしなければ290点台に乗せる実力を持っているが、宇野は昨季の世界選手権も重圧のなか、312.48点を出して優勝とビッグゲームでの実績はある。競り合いにはなるだろうが、実績を考えれば宇野が優勝候補の一番手にいると言っていいだろう。
だが、ふたりに続く表彰台争いとなると、熾烈なバトルだ。これまでの得点でリードしているのは273.19点を出している三浦で、4回転ループを成功させれば上積みもできる状況。
また、佐藤は苦手意識を持っているSPをノーミスにできれば10点ほど上乗せできて90点台に乗せられる。フリーもフィンランド大会のほぼノーミスの演技のあと、「まだフリップを入れてないので完璧なノーミスとは言えない」と構成の難度を上げる意欲も口にしていた。
グラスルはイギリス大会で264.35点だったが、北京五輪は278.07点を出している選手。山本は、自己最高こそ250点台にとどまっているが、シーズン初戦の中部選手権フリーで冒頭に4回転フリップを入れていたように、少しの苦手意識を持っているトリプルアクセルの克服とともに、難度を上げる構成も視野に入れているはずだ。
GPファイナルに日本勢4人が出場するのは、郄橋大輔が優勝、羽生が2位、小塚崇彦と町田樹が出場した2012年大会以来となる。対マリニンの結果とともに、新王者の宇野に、新勢力の3人がどこまで迫るかも興味深い。
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