GPファイナル2022 プレビュー 女子シングル編


GPファイナルの優勝候補、坂本花織

 昨シーズンの世界選手権に続き、出場停止でロシア勢がいない今季のグランプリ(GP)シリーズ女子。これまでの実績を見れば、日本勢と実力を伸ばしてきた選手が多い韓国勢の争いかと思えたが、韓国勢は意外にも不振。GPシリーズ6大会中4大会を、日本勢が制する結果になった。

【2連勝でトップ通過、三原舞依】

 そのなかで、飛躍したのは三原舞依(シスメックス)だった。同門の坂本花織(シスメックス)の北京五輪3位、世界選手権優勝という成果も刺激になったはずだ。

 世界選手権代表を最大目標にする三原は今年、3月にプログラム作りを始め、5月にはトロントへ渡り、振付師のデヴィッド・ウィルソン氏のもとでブラッシュアップ。シーズンへの取り組みは早かった。

 実戦は8月のげんさんサマーカップ、10月の近畿選手権と西日本選手権に出場し、すべて200点台の得点を出していた。

 GPシリーズは第4戦イギリス大会が初戦。ショートプログラム(SP)は2本目の3回転フリップで少し着氷を乱して減点となったが、演技後半の3回転ルッツ+3回転トーループはしっかりと決め、スピンとステップもすべてレベル4でまとめた。昨季の世界ジュニア優勝者で、10月のスケートアメリカ2位のイザボー・レヴィト(アメリカ)を0.17点抑える72.23点で首位発進した。

 そしてフリーは、2本のジャンプで4分の1回転不足をとられてわずかに減点されたが、スピンとステップは取りこぼしなく、昨季の四大陸選手権優勝時に出した自己最高に0.21点まで迫る145.20点を獲得。合計は217.43点で、GPシリーズ出場10戦目にして初勝利を手にした。

「今回(イギリス大会)の金メダルは、今までで一番うれしいです。こうやっていろんな経験ができることは、本当に幸せ。元気に過ごせてイギリスまで来られて、観客席からも応援をしていただいて。これまでGPシリーズだけではなく、全日本選手権でも表彰台に乗れないことが多く、特に4位が多かった。

 自分の演技に対する悔しさもあれば、結果に対する悔しさもありました。本当にまだまだ足りてないと思うし、今回の演技にも悔しいところも見つかったので、次へ向けて練習を頑張りたいです」

 こう話した三原は、2週間後のGPシリーズ・フィンランド大会で、フランス大会優勝で昨季世界選手権2位のルナ・ヘンドリックス(ベルギー)との戦いになった。

 SPは、振付師のウィルソン氏から「(三原)舞衣の人生を込めて滑ってくれ」と言われたように感情たっぷりに『戦場のメリークリスマス』を滑り、後半の連続ジャンプで4分の1回転不足はあったが、自己最高の73.58点を獲得。ヘンドリックスとは1.30点差の2位で発進した。

 翌日のフリーは、「体の状態がベストではなかった」とジャンプの構成を少し変えたが、苦戦した。前半の3回転フリップがダウングレードで2回転と判定され、後半には4分の1回転不足が2本。得点は130.56点にとどまり、合計204.14点に終わった。

 しかし、ヘンドリックスもミスをして合計は203.91点。三原はこの戦いを制し、初のGPファイナル進出を1位で果たした。

【世界女王の意地を見せたい、坂本花織】

 一方、世界女王として新シーズンに臨んだ坂本は、例年よりシーズンインが遅れて9月のロンバルディアトロフィーが初戦。205.33点で2位というスタートだった。

 それでもGPシリーズ・スケートアメリカでは安定感を見せた。SPは後半の3回転フリップ+3回転トーループが3回転+2回転になったが、71.72点を獲得して1位発進。フリーも後半の連続ジャンプの回転不足以外は確実にこなし、演技構成点も3項目すべてを9点台に乗せ、145.89点を獲得。2位のレヴィトに11点弱の差をつけ217.61点で優勝した。

「スケートアメリカは今回で5回目ですが、初めて金メダルを獲れてうれしい気持ちでいっぱいです。ショートでミスをした3回転+3回転をフリーで決められてよかった」

 坂本はそう話し、喜びの表情を見せた。

 だが、次のNHK杯は苦しんだ。帰国後に風邪を引いて1週間練習ができなかったことが響いた。SPは3回転ルッツと3回転フリップの軸が斜めになり、連続ジャンプは回転不足もとられて、過去2シーズンではなかった70点切りの68.07点。キム・イェリム(韓国)に次ぐ2位発進。

 フリーも後半の連続ジャンプは4分の1回転不足で、得意とする最後の3回転ループが1回転になるまさかのミスも。合計は201.87点と落ち込み2位。GPファイナル進出は決めたが、キムを追い上げられなかった。

【波に乗るダークホース、渡辺倫果】

 日本勢の3人目は、ダークホースの渡辺倫果(法政大)。これまでの実績は昨季の世界ジュニア初出場の10位のみで、もともとGPシリーズ出場は予定していなかったが、ロンバルディアトロフィーで坂本を抑えて優勝したことが評価され、NHK杯出場が決まった。そのあとでスケートカナダ出場も追加された。

 1週間前に派遣が決まり調整が難しかったスケートカナダは、SPでは最初のトリプルアクセルと次の連続ジャンプでミスをして6位スタート。フリーは、前半の3回転ループ+3回転トーループはともに回転不足で、最後の3回転ルッツもダウングレードだった。しかし冒頭のトリプルアクセルや後半の連続ジャンプなどはしっかりと決めてSPとの合計を197.59点とした。他の選手のミスも出て、そのまま初出場初優勝という結果になったのだ。

 NHK杯は4位以内でGPファイナル進出が確定する状況だったが、SPはミスが重なって58.36点の9位発進。フリーも3回転フリップは回転不足、最後のルッツにもミスがあり、合計は188・07点にとどまった。

「日本を背負うことや、GPファイナルがかかっているなかで演技することのしんどさを痛感した」と渡辺。演技後は、「NHK杯の経験を生かせたと、次に言える時が来ればいいと思います」とさっぱりした表情で語った。

 得点は伸びずNHK杯の結果は5位。だが、フィンランド大会の結果を受けてGPファイナル進出が決まった。

【試される大舞台での精神力】

 GPファイナルで、坂本と優勝を争うのは昨季世界選手権2位のヘンドリックスになりそうだが、今季のベスト得点では217点台で坂本と三原が並び、ヘンドリックスは216点台、レヴィトは215点台と僅差。

 ただ、NHK杯の敗戦で気持ちを切り替えた坂本は、220点台後半まで上げてくる実力はあるだけに優勝候補の筆頭となるだろう。

 三原は出場選手中唯一、長距離移動をしながらの中1週での3試合目と疲労の蓄積が気になるところ。だが、220点台は視野に入れている。

 またヘンドリックスは、219.05点が自己ベストだが大舞台の安定感があり侮れない選手だ。初の大舞台でまだ力を発揮しきれていない渡辺も、武器のトリプルアクセルをSP、フリーとも成功させれば、迫ってくる可能性もある。

 今回のGPファイナル女子の戦いはまさに精神力の強さを見せられるかどうかの戦いになりそうだ。

 一方、日本と韓国の対決になったジュニアGPファイナル女子も見ごたえがありそうだ。日本3人と韓国2人のシーズンベストが205点以上。そのなかで抜けているのが、後半に4回転トーループとトリプルアクセルを入れる島田麻央(木下アカデミー)で、優勝候補の筆頭。

 2番手につけるのは最終のイタリア大会で208.31点の自己最高を出した吉田陽菜(木下アカデミー)。吉田もトリプルアクセルを武器にするだけに、同門の先輩の意地を見せてくれるか期待したい。

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