自衛隊は、領空・領海内への接近・侵犯したときに備えて24時間、スクランブル態勢を整えています。ただこの対応以外にも、もう一つの“緊急発進”に備えていることも。どのようなものなのでしょうか。

共用空港の自衛隊側で並ぶ謎の「航空機」

 自衛隊は、国籍不明の航空機や船舶が、領空・領海内への接近・侵犯したときに備えて24時間、スクランブル態勢を整えています。ただ、実はそのほかに、気づかれにくいものの、もう一つの“緊急発進”に備え、待機していることもあります。


航空自衛隊の「U-125A」(画像:航空自衛隊)。

 それは「遭難事故」に備えた待機です。ある土曜日、航空自衛隊と民間が共用で使う某空港で筆者は、空自側の駐機場に、捜索救難機U-125Aと救難ヘリUH-60Jがペアで並べられているのを見かけました。

 自衛隊といえども平時であれば、土日と祝日は、平日と比べてリソースを縮小させているケースもあります。たとえば、平日の日中は駐機場に保有航空機を並べていても、土休日は格納庫にしまわれている、ということも多いです。

 もし、U-125AとUH-60Jのどちらかだけが駐機場に置かれていれば、休日出勤で整備点検をするためとも想像できます。しかしこのとき2機は、救難隊の格納庫からやや離れて、すぐにエンジンを始動できるであろう場所に並んで置かれていました。

 その日は穏やかな陽気でしたが、船舶や山での遭難はいつ起きるのか分かりません。何度か週末にその空港を利用していましたが、同じように、U-125AとUH-60Jが並んで駐機されているのを見かけています。

 山や河川、海での遭難はまず警察や消防、海上保安庁が対応します。ただ、その共用空港は目の前は海、背後は山が連なる場所に位置しているのが特徴です。そういった点で自衛隊も平素より、遭難事故への対応に警戒を怠っていないのだと窺えました。

「遭難事故」への対応どんなもの?自衛隊パイロットに聞く苦労

 空自の航空救難団のモットーは「That others may live〜他を生かすために〜」ということですが、筆者は以前、救難ヘリにKV-107Aが使われていた頃、共用空港であるこの基地で、同機を担当するパイロットから「救助をするまで上空でホバリングをしていると、任務を終えて着陸しても手の指が固まり、操縦かんから離れないこともある」と聞かされたことがあります。高度を保ち気流に流されずホバリング位置を変えずに留っているのは、パイロットも降下する救難員(メディック)も高い技量とともに、強い緊張に耐えねばならないと知りました。


UH-60J救難ヘリコプター(写真:航空自衛隊)。

 また、別の基地ではU-125Aのパイロットから「レーダーは発電量に限度があり、長距離モードでは捜索電波の幅が狭くなる。幅を広げれば近距離しか捜索できない」と、電子機器が発達しても遭難者の発見は苦労が伴うことを教えられました。荒れた天候で、地表や海面に出来る限り近づいて救出するのは一層過酷になると、容易に想像できます。

 駐機場に置かれたU-125AとUH-60Jは、滑走路を挟んで遠くにある旅客ビルからも見ることができました。しかし、平日と違い、ずらりと並ぶ戦闘機もなく、離陸の轟音もしません。空港ビル内にいたほかの旅客が自衛隊の駐機場に目を向ける姿はありませんでしたが、筆者は、「他を生かすために」というモットーの実践を見たと認識しています。