ワールドカップ決勝トーナメント1回戦。日本はクロアチアに1−1からのPK戦(1−3)の末に敗れ、準々決勝進出を逃した。

 日本は過去ワールドカップ3大会でグループリーグ突破を果たしているが、いずれも決勝トーナメント1回戦敗退。4度目の挑戦となった今回も敗れ、またしてもベスト8入りはならなかったわけだ。


クロアチア相手にも互角以上の戦いを見せた日本だったが...

 しかし、今回のベスト16敗退は、過去の3回より価値あるもの。そう言い切って間違いあるまい。

 なぜなら、ワールドカップ優勝経験を持つ一流国(ドイツ、スペイン)に勝利できたこと。そのいずれもが0−1からの逆転勝ちだったこと。4試合のうち、無得点に終わったのは1試合だけだったこと。そして、勝負の決勝トーナメント1回戦でもクロアチア相手に、極端な戦術を採ることなく、普通に戦い、互角の勝負ができたこと。

 結果はもちろん残念なものだったが、そこに至る過程については、こうした評価すべき点がいくつもあったからだ。

「(クロアチア戦は)自分たちがゲームを支配する時間も長く持てて、ただドン引きして、蹴って守り切るようなサッカーをしたわけじゃない。こういう戦いを強豪相手に出していけるのは、今後への明るい材料じゃないかと思う」(DF吉田麻也)

 その大きな要因となっていたのは、選手個々の強化だろう。

 ここ数年、日本人選手のヨーロッパ移籍は加速度的に増えているが、高いプレー強度が求められる海外の舞台は、彼らを確実に、しかも急速に成長させた。

 顕著なのが、センターバックの面々だ。

 ひと昔前までは、長身でヘディングが強く、外国人選手に当たり負けせず、それでいて足元の技術にも優れる。そんな選手をふたりそろえるだけでも至難の業だった。

 ところが、現在はキャプテンの吉田をはじめ、DF板倉滉、DF冨安健洋、DF伊藤洋輝という海外組に加え、Jリーグで力をつけたDF谷口彰悟と多士済々。森保一監督がワールドカップ本番に入り、従来の4バックから3バックへと主戦システムを移行することができたのも、彼らの存在があってこそだったに違いない。

 最近の日本代表にはスターがいなくなったと言われることがあるが、かつての中田英寿、中村俊輔、本田圭佑らのような際立つ看板選手が見当たらないのも、ちょっとやそっとでは際立たないくらいに、選手全体の平均値が上がったからだとも言える。

 とはいえ、選手個々の能力がアップしたからといって、持てる戦力を試合に応じてうまく組み合わせ、効果的に配置することができなければ、チームの力を最大化することはできない。

 そして今回の日本代表を見ていると、残念ながら、それが必ずしもうまくいっていたようには見えない。そのことは、図らずも決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦で、証明されてしまったのではないだろうか。

 グループリーグだけを見れば、確かに森保一監督の打つ手は次々に当たった印象がある。ドイツ戦では4バックでスタートしながら、1点ビハインドの後半開始から3バックへ移行。その後、攻撃的な選手を投入するや、その選手が次々に活躍した。

 だが、日本は続くコスタリカ戦で、前半途中にして4バックから3バックへと変更すると、以降はすべての試合の、すべての時間で3バックを採用。システムの固定化と同時に選手交代も、攻撃的な選手については対戦相手や試合状況に関わらずパターン化され、FW浅野拓磨とMF三笘薫にプラスして、MF南野拓実とMF堂安律、あるいはそのどちらかが送り出された。

 結局、最後に敗れたクロアチア戦でも、前半に1点を先制しながら後半55分に追いつかれて以降は、いつもの交代がいつもどおりに行なわれただけ。試合がこう着状態に陥り、なかなか敵陣に進入することが難しい展開になっても、次に打つ手はもう用意されてはいなかった。

 例えば、三笘が低いポジションで守備に追われ、相手の脅威となり得ていなかったのならば、最初のドイツ戦とは逆に、試合途中で3バックから4バックに変更し、三笘を高い位置に置く策はなかったのか。

 あるいは、交代枠を余してしまうくらいなら、FW町野修斗やFW上田綺世の投入はなかったのか。

 仮に彼らを入れても得点は期待できないというのなら、そもそも登録メンバー26人を選考する段階で問題があったのではないか。

 いずれにせよ、そんな疑問の数々が、この試合の印象を「もったいない敗戦」にしてしまっている。

 4年前のベルギー戦は、2−0とリードしてもなお、どこかでやられるのではないかとハラハラしながら見ていなければならなかった。

 だが、今回は違う。

 選手がボールを動かす様子には余裕があった。1失点こそしたが、クロスボールにも簡単に競り負けていなかった。ルカ・モドリッチからも果敢にボールを奪うことができていた。

 もったいない試合だった。