日本代表がえぐるべきスペインの弱点。超攻撃的ハイプレスはそれを隠すためでもある
スペイン代表はカタールW杯の優勝候補の一角である。FCバルセロナなど有力クラブの主力選手で構成。2010年南アフリカW杯の世界王者でもある。
しかし、無敵ではない。弱点はある。ウィークポイントにストロングポイントをぶつけて優位を作ることができたら、それは全体に伝播する。森保ジャパンの戦略立案は、「スペインの弱点」をえぐることを土台にすべきだろう。
スペイン代表選手はどれだけ日本代表の情報を知っているか。戦略スカウトからアドバイスを受けているにせよ、彼らが本当の意味で警戒するのは鎌田大地と久保建英のふたりといったところか。スペインのチームを痛い目に遭わせた選手しか、彼らは眼中に入れていない。
「タイも成長しているし、チャナティップも要警戒」
それはたとえば日本人がタイ代表に対して抱く警戒心に近いだろう。つまり、そこに必ず隙が出る。
そしてスペイン人は、日本人の俊敏性と技術を用いたコンビネーションを密かに恐れている。
久保がリーガ・エスパニョーラ上位のレアル・ソシエダで主力選手なのは、ひとつの必然と言える。その機動力と創造性は元スペイン代表のダビド・シルバと融合し、強力な武器になった。日本人が考える以上に、日本人のクイックネスは脅威だ。
そこで、日本はスペインの弱点をつくべきである。スペインのバックラインは、サイドバックもセンターバックも、機動力への脆さを感じさせる。
ドイツ戦の失点シーンはディフェンダー3人が隙をつかれて生まれた
左SBジョルディ・アルバはやや衰えが見られ、もともと守りのスピードに問題を抱える。2試合連続先発で、日本戦の出場は微妙だろう。ドイツ戦でも交代出場した若いアレハンドロ・バルデは攻撃に入った時のスピードが武器だが、老練さに欠ける。バルサ出身選手特有なのだが、うしろ向きに守備をさせられると、途端にばたつく。
そして、右利きのセンターバックの人材不足は深刻だ。
エリック・ガルシアはハイパーレベルのビルドアップ力を誇るが、単純に守備者としてのスピードとパワーが足りない。今大会ではアンカーのロドリをコンバートして起用しているが、付け焼き刃感は否めない。
日本が攻撃的に挑むべき理由日本戦はセルヒオ・ブスケッツの欠場も囁かれており(累積警告による出場停止がリーチ)、その場合、ロドリがアンカーに戻り、本来アンカーのウーゴ・ギジャモンが入る可能性もあるが、E・ガルシアと同じくスピードも高さもない。
有力国のバックラインで、これだけスピードと高さに弱いチームもない。だからこそ、彼らはハイラインを敷く。超攻撃的戦いは、実は弱点を隠すためでもある。
その相手に、日本が守りに入るのは術中にはまるようなものだろう。ドイツもスペイン戦はイルカイ・ギュンドアンがブスケッツを掴むなど、マンマークに近い戦いで挑んだが、手玉に取られていた。1−1の引き分けは僥倖だった。
日本はあえて攻撃的布陣で挑むべきだ。
レアル・ソシエダのような4−4−2で、久保をトップの一角、トップ下に鎌田、右に堂安律、左に三笘薫。そしてトップの一角には、今回のメンバーではボールが収まる南野拓実がベストか。お互いがストレスなくパス交換できるし、相手の予測を上回る。オープンな展開になったら、トップに伊東純也を送り込むのも一興だ。
「守備のリスクが高い」
それは正論だろう。しかし、自分たちがボールを持って運ぶサッカーをするには、相応の選手が必要になる。守備時間が増えるにせよ、このメンバーで守備もするしかない。そうすることで、レアル・ソシエダやフランクフルトはそれでリーグ上位と戦い、欧州カップを勝ち上がっているのだ。
コスタリカはスペイン相手に守備を固めたが、0−7と大敗だった。名手ケイロル・ナバスがいても無力。まざまざと、力の差を見せつけられた。
スペインは日本の守備ブロックも攻め落とす。その戦いに慣れている。また、どれだけ猛烈なプレッシングを受けても回避する技術もある。
かつて日本はロンドン五輪の初戦でスペインを狂乱のプレッシングで惑わせ、退場者を出させると、そのアドバンテージで劇的に打ち破っている。「その再現を」という声もあるが、それはスペインの五輪代表選手が未熟だったからにすぎない。フル代表の面々は経験を積んでいる。
ジョルディ・アルバ対久保建英に「受け身の消耗戦で守りきる。相手が引き分けでもOKになってくれたら......」
そんな幻想を抱くよりも、ストロングポイントで堂々と勝負すべきだ。
守備の柱と言える遠藤航が右膝の痛みで練習を欠席したという。情報戦もあるはずだが、出場可能だとしても状態はよくないだろう。彼なしで守りきるのは難しい。酒井宏樹、冨安健洋も体調の問題を抱えドイツ戦を欠場した。もはや当初のプランは崩れ去った。弱者の兵法を捨てるべきだ。
言うまでもないが、ペドリ、ガビの中盤と、ダニ・オルモ、マルコ・アセンシオ、フェラン・トーレスなどの前線との真っ向勝負は容易ではない。後半途中から、アルバロ・モラタ、ニコ・ウィリアムスなどパワーもスピードもあるアタッカーを投入され、一敗地にまみれることはもちろんあり得る。しかし、日本の選手も同じ舞台に立ち、無用に恐れることはない。コスタリカ戦のように腰が引けた戦いをすれば、立ち上がることができない辱めを受けるだろう。
筆者が提案したような戦術を、森保一監督が採用するとは思えない。しかし、システムは別にしても、久保、三笘、鎌田、堂安、守田英正というボールプレーヤーでぶつかり合うべきだろう。そしてセットプレーでは高さを用い、「負けない」ではなく、勝ちにいく。
あえてひとりキーマンを挙げるなら、久保である。アンス・ファティ、E・ガルシアは少年時代のチームメイトだし、ジェレミ・ピノのような多くの戦友がいる。スペインとの決戦に、気持ちを昂らせていることだろう。アルバであろうとバルデであろうと、彼なら翻弄できる。コスタリカ戦の欠場が「温存」だったと信じたい。
日本サッカーの底力を見せる時だ。