イングランド対ウェールズ。W杯本大会で対戦するのはこれが初めてだが、ユーロでは2016年フランス大会のグループリーグで1度対戦した過去がある。舞台となったランスは、イギリスから電車で楽に行ける土地なので、スタジアムは両軍サポーターで満杯に埋まった。

 ウェールズはユーロでもこの時が初舞台で、打倒イングランドを合言葉にサポーターは熱気を漲らせていた。イングランドはウェールズの初々しさに自ずと受けて立つことになった。前半42分、ガレス・ベイルの先制弾が決まると、ウェールズサポーターは狂喜乱舞。後半11分、ジェイミー・ヴァーディのゴールでイングランドに追いつかれ、さらには延長のロスタイムでダニエル・スタリッジに逆転弾を叩き込まれる展開にも、まさに美しい敗者として陶酔した。

 当時のウェールズは、文字通りベイルのワンマンチームだった。彼にボールが渡ると"3人力"といった感じで、不可能を可能にする圧倒的な力を備えていた。ところが、そこから5年半が経過。33歳で迎えた今回のイングランド戦は、見るに忍びない姿をさらけ出すことになった。4−2−3−1の3の左で先発を飾ったものの、プレーに絡むシーンは、びっくりするほど少なかった。そして前半45分でピッチをあとにしたのだ。

 ウェールズの中心選手をもうひとり挙げるならば、1トップ下で先発したアーロン・ラムジーになる。この選手も5年半前は、大会のベスト11に挙げたくなる顕著な活躍をした。ラムジーとベイルはまさにホットラインだった。ところが今回は、全くの不発に終わった。採点をするなら10点満点で5点が精一杯だった。ウェールズはベイル、ラムジーに代わる選手が育っていなかった。ユーロ2016でピークを迎えたチームとの印象になる。

 対するイングランドは、この5年半の間に使える選手の数を増やした。特に第2列に良質なコマを多く抱えている。


ウェールズを3−0で一蹴、決勝トーナメント進出を決めたイングランド

 グループリーグ3試合、ガレス・サウスゲイト監督はアタッカー(トップのハリー・ケインを除く4−3−3の両ウイングとインサイドハーフ計4人)を以下のように使い回してきた。

誰が出ても戦力が保たれるサウスゲイト采配

 第1戦、イラン戦=ラヒーム・スターリング、メイソン・マウント、ブカヨ・サカ、ジュード・ベリンガム(交代選手=フィル・フォーデン、マーカス・ラッシュフォード)
 第2戦、アメリカ戦=スターリング、マウント、サカ、ベリンガム(ラッシュフォード、ジャック・グリーリッシュ、ジョーダン・ヘンダーソン)
 第3戦、ウェールズ戦=フォーデン、ラッシュフォード、ベリンガム、ヘンダーソン(グリーリッシュ)

 出場時間に換算すると以下のような順になる(アディショナルタイムは含まず)。

 1・ベリンガム=249分、2・マウント161分、3・サカ149分、4・スターリング139分、5・ヘンダーソン111分、6・フォーデン109分、7・ラッシュフォード107分、8・グリーリッシュ55分。

 有能なアタッカーをきれいに使い回しているという印象だ。1戦目(イラン戦)、2戦目(アメリカ戦)は同じスタメンで臨み、3戦目(ウェールズ戦)で、大きくいじってきた。第1戦と第2戦に先発したベリンガム、マウント、サカ、スターリングがスタメンで、3戦目に先発したフォーデン、ラッシュフォード、ヘンダーソン、さらにはいずれの試合も交代出場だったグリーリッシュがサブに見える。

 だがそのわりに、それぞれの出場時間には大きな差がない。3戦目で先発した選手は1、2戦でもしっかり交代出場を果たしている。出場時間で見るとサブ色は薄くなる。先を見据えた戦い方ができていると言うべきだろう。ベスト8以上を狙うチームの方法論を、イングランド代表監督サウスゲイトの采配に見る気がする。

 スーパースターはいない。だが好選手はたくさんいる。粒ぞろいなのだ。誰が出ても戦力は保たれる。1、2戦でスタメンを外れた選手たちで臨んだウェールズ戦が、プレーのレベルは一番高いように見えたほどだ。

 イングランド代表を見ていると、日本代表を想起したくなる。若干レベルに差はあるが、誰が出ても遜色なく、粒ぞろいという点で一致する。森保一監督は1戦目と2戦目で先発を大きく変えた。「久保建英、前田大然、伊東純也」を、「相馬勇紀、上田綺世、堂安律」に変えた。

 俗に言うターンオーバー制を採用したわけだが、2戦目でターンオーバー制を敷かなくても出場時間をシェアできることを、サウスゲイト采配は雄弁に語っているように見える。森保采配は交代枠3人制の時代の采配に見える。

 グループBで首位通過を決めたイングランドは、決勝トーナメント1回戦でグループAを2位抜けしたセネガルと対戦する。まさに余力を残しながらの一戦となる。

 一方、前戦でイングランドと好勝負を演じた(結果は0−0)アメリカは、イランを下し、グループBの2位抜けを決めた。決勝トーナメント1回戦の相手はオランダ。名前はイングランドと双璧をなすが、筆者には穴があるサッカーに見えて仕方がない。アメリカに勝利の可能性はあると見る。