この11月、ヤクルトは3年ぶりに松山(愛媛)での秋季キャンプを行なった。日本シリーズを終えたばかりの若手たちもメンバー入りし、坊ちゃんスタジアムで汗を流した。大舞台を経験した選手たちに、日本シリーズで持ち帰ったもの、来シーズンへ向けての思いを語ってもらった。


松山キャンプでバットを振り込むヤクルト・宮本丈

日本シリーズで得たこと

 内山壮真の代打が告げられたのは、日本シリーズ第2戦(神宮球場)の9回裏、3点を追いかける無死一、二塁の場面だった。ここで内山は起死回生の同点アーチを放ち、全国の野球ファンにその名前を知らしめた。

「あの3ランは今までにない興奮でしたし、これまでの野球人生で一番大事なところで打てたと思います。歓声もこれまでで一番大きかったですし、自分のなかではいい活躍ができたのかなと思っています」

 高卒2年目の内山は静かに振り返った。そしてチームとして印象に残ったことを質問すると「オリックスに優勝を決められた第7戦ですね」と言った。

「5点をリードされていて8回に4点を返したのですが、ひっくり返しきれなかったというところで、まだまだ足りないところがあるんじゃないかと。いろいろ考えさせられる試合だったと思います。個人的には、今回は代打だけでしたけど、打席に立たせていただいたことは大きな経験になりました」

 捕手としてもプレーしたかったのではと聞くと、内山はこう答えた。

「そういう気持ちよりは、首脳陣から試合を任せられるような選手になりたかったという思いのほうが強いです。シーズンと違った短期決戦で、中村(悠平)さんや相手チームがどういう配球をしているのかはしっかり見ましたし、勉強になることや感じるものはたくさんありました」

 新人の丸山和郁は7戦すべてに出場。先発した外野手のバックアップ選手としての役割を果たした。

「とにかく日本一になりたいという気持ちでやっていました。結果として8打数4安打だったのですが、初戦ではバントミスもありましたし、第5戦では太田(椋)選手の打球をうしろに逸らして二塁打にしてしまった。あれをシングルにしておけば、最終回に(サヨナラ負けとなった)あの打順のめぐり合わせにはならなかったかもしれないですし......。反省の多い日本シリーズでした」

 そう反省の弁を述べる丸山だが、スピードを生かしたバントヒットや盗塁も2つ決めた。

「完璧は難しいのですが、そこを求めていきたいですし、それができなければ一軍で生き残れません。これからはそういうところを、よりしっかりとやっていきたいですね」

 2年目の並木秀尊は「去年の日本シリーズはチームに帯同しただけで終わったのですが、今年はベンチに入れたことで、大事な1点をとるためにより頑張ろうという意気込みがありました」と振り返った。

 高津臣吾監督が「代走・並木」をコールしたのは第2戦の11回裏で、同点の二死から盗塁を成功させてサヨナラのチャンスをつくった。

「しびれる場面での代走しかないと思っていたので、練習や試合だけでなく、生活するなかでもこのピッチャーだったらこうしようとか、頭の整理と心の準備は常にしていました。あの場面は緊張していましたが、いつもとちょっと違うところも頭に入れながら盗塁できました。勇気を持って走れたという点では成長を実感できたのですが、深く突き詰めると、二死になってからもっと早いカウントで走れたらよかったという反省点もありました」

圧倒的だったオリックスの投手力

 奥村展征は、昨年の日本シリーズはフェニックスリーグ(宮崎)の宿舎からテレビで見守ったが、今年は「最後までチームと一緒に」という気持ちで初出場を果たした。

 ベンチでは"10番目の野手"としてチームを鼓舞。選手としては第2戦の11回裏に代打で出場。初球をレフト前に運び、一塁に到達すると代走・並木と交代した。わずか1球の勝負だったが、あの打席で得たのは代打の準備の仕方だったという。

「9回までに(川端)慎吾さんや(宮本)丈を代打でつぎ込んでいくしかない展開で、その結果、(同点に)追いついての延長でした。まさに総力戦で、なんとしても次のバッターにいい形で回そう、意味のある打席にしようという気持ちが最大限に出たヒットだったと思います。今回の経験を次に生かしたいと思っています」

 奥村は日本シリーズについて「あの短い間に、本当にいろんなことがあったんですけど」と言って続けた。

「一番印象に残っているのはオリックスの中継ぎ陣。ベンチの中にいるひとりとして、いつもと変わらず試合に出ている選手の背中を押すとか、次の1点を全力で奪いにいくんだという気持ちは出していたんですけど......圧倒的な投手力を前にして、なんとかしなければいけないという、焦りじゃないのですがそういう気持ちが生じてしまった。そこはすごく反省していますし、また考え直さないといけないなと思っています」

 赤羽由紘は、今年7月に育成から支配下登録されプロ初安打も記録。日本シリーズでの出場は果たせなかったが、チームに帯同し、ほかの選手と一緒に準備した。

「ベンチ入りは1試合でしたけど、日本シリーズの雰囲気や緊張感を味わえたことは財産になりました。超満員の球場でプレーするのがどれだけ大変なことかも感じましたし、日本シリーズを体験して、あらためて普通にプレーして、普通にアウトをとることがどれだけすごいことなのか、身に染みてわかりました」

 宮本丈は2年連続して日本シリーズの舞台に立った。

「去年は初戦でケガをしてしまって、最初と最後しか出られなかったので、今年は最後までベンチに入ってチームに貢献したいという思いと、個人的にはある意味、去年のリベンジをしたいという気持ちがありました」

 宮本はチームに欠かせないユーティリティ選手として、代打では前述の内山の同点3ランの起点となる二塁打を放ち、先発出場した試合もあった。

「結果が出たところもあったんですけど、うまくいかなかったところのほうが大事かなと思うので、この秋季キャンプではそこを意識した練習をしています。オリックスのピッチャーのレベルの高さをすごく感じたので、自分に何が足りないのかを考えながらやっています」

来季に向けてのそれぞれの課題

 高津監督は松山キャンプを「若手の底上げ」「ライバル意識」を大きなテーマに、宮本をキャプテンに任命。今回取材をした6人の選手もそれぞれの課題と向き合い、来シーズンの飛躍を誓った。

 宮本は「僕もまだ若手だと思っているので、年齢に関係なく競争だと思ってガムシャラにやっていきたい」と笑顔を見せた。打撃ではよかった部分を体にしみ込ませる意識、悪かったところは修正していく意識で、新しい発見はないかとバットを振り込んだ。

「ユーティリティとして、途中出場から結果を出すところは自分の強みだと思っていますが、チャンスがあれば先発を増やしていきたいところもあります。今は内野も外野も全体的にレベルを上げて、いきなり出番がきても『前よりも上達しているな』と思ってもらえるよう準備をしています。それが自分の生きる道ですし、目の前のチャンスをものにする気持ちでやっていきたいです」

 内山はキャンプ中に組まれた愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグplus)と松山フェニックス(社会人)との練習試合でホームランを放った。来シーズンは、打つほうでは打率.300、守るほうでは70試合に先発マスクを被りたいと目標を掲げる。そのために、大松尚逸打撃コーチと話し合いながら打撃フォームを見直した。

「今のままではおそらく無理だなと感じていて、これまでと真逆っていうくらい意識を変えました。それがすごくハマってきた感じがして、打球の質も少しずつよくなっている実感があります。守備のほうでは、中村さんがレギュラーとしてやっているので難しいですが、前半戦でなんとか結果を残して、後半戦は1試合でも多くマスクを被りたい。そのために12月と1月は技術をしっかりと磨きながら、1年間ケガをしない体づくりとか、パワーアップできるようなトレーニングをしていきたいです」

指揮官が成長を感じた長岡の守備

 キャンプでは、3年ぶりにヤクルトに復帰した河田雄祐外野守備走塁コーチが、丸山や並木らを鍛える外野特守を見るのは楽しい時間だった。いい守備には「アラボーイ(いいぞ)」という河田コーチの声が飛ぶ。

 丸山は「まずはここで負けないで、一軍に合流できたらそこでも負けないようにやっていきたい」と言葉に力を込めた。目指すはスタメン出場と打率.300。キャンプでは1日1000スイングを振りこむと意気込んだ。

「(ライバルには)全部で負けたくない。今年うまくいかなかった送りバントをしっかりするとか、三振をしないとか、あとはスイングスピードを上げること。そこをしっかりとやっていきたいです」

 並木も「まだ何年目だからと思っていたら先はなくなってしまいますし、負けてられないという気持ちでやっています」と話した。

 スピードが武器のライバルがひしめくなか、並木は「肩だったら丸山が一番だと思うので、自分は足の速さをアピールしたい」と、30メートル走のタイムはキャンプでトップを記録。オフには打撃を強化しないといけないと感じている。

「監督には『ゴロを転がすのも大事だけど、小さくまとまりすぎずに外野にも飛ばしてみろ』と。強く振れることで内野がうしろに下がってくれたら小技が効いてくると思うので、そういうことを求めながら状況に応じた打撃をやっていけたらと。来年は守備や代走で一軍を勝ちとり、対左投手やレギュラーの方の調子が落ちた時に『並木を使ってみよう』と思われるように信頼を勝ちとりたいです」

 赤羽は「普段の練習からより高い意識を持って、来年の準備をしたい」と言った。

「自分の立ち位置として、途中出場だったり、守備固めだったり、そういうところから結果を出していきたいですね。いずれスタメンで出られる選手になりたいので、まずはワンアウトをとることもそうですし、代走で出たら次の塁とか、普通のプレーができる強みというのを、このキャンプ、オフで考えてやっていきたいです」

 奥村は松山キャンプ前日に招集が決まったという。

「年齢は高くなりましたが、ポジション的には一軍にいられるかどうかの立場です。なので、メンバーに入ったことはめちゃくちゃ感謝しています。キャンプではもっともっと勝負して、信頼されるワンプレーができるようにしたい。そのためには自分に自信が持てるようにしていきたい。このキャンプとオフに鍛えて、(来年)2月に自信を持って勝負できるようにしたいですね」

 松山キャンプには右ヒジの不安で別メニューとなった長岡秀樹の姿もあった。日本シリーズでは全試合にショートで先発出場。ゴールデングラブ賞にも輝いた。キャンプ後半はノースローではあるが、森岡コーチのノックを元気いっぱい受けていた。

 高津監督は松山キャンプの総括中「長岡の守備がすごくうまくなったと思って見ていました」と話した。

「捕球だけでしたけど、すごい成長を感じました。この2週間でほかの選手たちも成果であったり、結果であったり、いい2週間だったと思わせてくれる選手が出てきてくれたらなと思いました」

 日本シリーズで得た経験を、松山キャンプを経てオフへと結びつけることができれば、高津監督が望む「若手の底上げ」という成果につながるはずだ。