GPシリーズ・フィンランド大会フリーの紀平梨花

片手側転は復調の証

 紀平梨花(トヨタ自動車)は、グランプリ(GP)シリーズの自身初戦となったスケートカナダ(10月29、30日)で5位にとどまった。フリーではノーミスで滑って3番目の得点を獲得しながらも、ミスをしたショートプログラム(SP)の出遅れが響いた。

 そんな紀平だが、GPシリーズ2戦目のフィンランド大会(11月25、26日)では晴れやかな表情を見せた。

 この大会にはイギリス大会で優勝した三原舞依(シスメックス)と、フランス大会優勝のルナ・ヘンドリックス(ベルギー)が出場。そのなかで、紀平のGPファイナル進出の条件は、201.4点以上を出して優勝し、ポイントで並ぶ渡辺倫果(法政大)を2大会の合計得点で上回ることだった。

 だが、ケガからの回復途上である紀平は、GPファイナル進出よりも、「自分が今できること」に集中していた。

 SPは、8位発進となったスケートカナダと同じ構成を丁寧に滑り、カナダでは2本とも4分の1の回転不足で大きく減点されていた3回転サルコウ+3回転トーループをしっかり決めた。演技後半の3回転ループは回転不足となってしまうも、カナダでレベル2だったステップはスピードのある滑りでレベル4とした。

 SPの結果は6位だったが、得点はカナダを4.80点上回る64.07点。その得点をさわやかな笑顔で受け入れた。紀平はこう話した。

「いつもいいジャンプをできていたループでミスして悔しいですが、前より点数を重ねられたのはよかったです。シーズンに入ってから体力、筋力強化のための滑り込みがやりきれていなかったので、その滑り込みを意識しながら、プログラムの修正などをやってきました」

 片手側転を演技に組み込めたのも、復調の証だった。片手側転は「最初は自信がなかったんですが、やっていくうちに慣れてきたので入れました」と説明する。

「絶対にノーミスを」

 フリーでは、「朝、左足に痛みがあった」と構成を変えてきた。これまで2本跳んでいた3回転ジャンプはサルコウとトーループだったが、左トーをつくトーループの代わりに基礎点が0.70点高いループを2本にした。さらにサルコウも1本は、3連続ジャンプの最後に入れる試みをするとともに、封印していた3回転フリップを後半のジャンプに入れた。

「フリップは練習ではいいジャンプが跳べている感覚がありました。大きい大会で久々に入れるのは難しいかなと思いましたが、いつもどおりだと思って集中して入ったので。跳べないかもしれないというジャンプは入れてないし、絶対にノーミスをと思って滑りました」

 冒頭のジャンプをこれまでのように連続ジャンプにするのではなく、単発の3回転サルコウにして滑り出した紀平は、次のダブルアクセル+1オイラー+3回転サルコウを1.17点の加点の出来にすると、そのあとの2本の3回転ループもしっかり決め、後半最初の3回転フリップは0.91点の加点をとるジャンプに。終盤のしなやかな滑りを見せたステップシークエンスはレベル3だったが、スピンはすべてレベル4とした。

 演技終了後には両手を振り下ろしてうれしそうな表情を見せた紀平は、ノーミスの演技でスケートカナダを3.30点上回る128.36点を獲得。合計は192.43点。三原が優勝してヘンドリックスは2位でGPファイナル進出を決め、河辺愛菜(中京大中京高)が197.41点で3位に入り、紀平は続く4位だった。

「構成を変更しても、1本ずつ集中して思いどおりのジャンプが跳べました。点数についてはまだ悔しい思いもあるので、もっと高い点数を出せるようにジャンプのレベルも上げていきたいです。ここまで一歩ずつ上がってこられたから、これからも全日本選手権に向けて計画的に構成を組んで練習をたくさん積み、高い点数をとれる構成ができるようになればいいと思います」

全日本選手権で勝負をかける

 今回、3回転フリップを入れられたように、ケガを負う右足首の状態は回復してきた。

「毎試合、終わってからは痛みが出ないように少し休ませたので、試合をしたあとも大きく痛まなくなり、そこまで心配する必要はなくなってきたなと思います」

 無理は禁物だが、12月22日に開幕する全日本選手権へ向けては、こんな思いを持っている。

「フリーの連続ジャンプは、まだ2本ともセカンドが2回転なので、3回転+3回転も入れて140点を出せるようにしなければいけないと思います。最終的に練習をどうしていくかは足の状態にもよりますが、気持ち的にはルッツもフリップも、コンビネーションも入れて、必ずノーミスの演技ができるようにしていきたいです」

 フィンランド大会では、スケートカナダに続いてSPでミスが出たが、結果を狙いにいく心の準備もできてきたようだ。

「これまでは体力強化の意味もあったのでフリーの練習のほうが多かった。これからはショートの練習もたくさんやっていかなければいけないと思います」

 ここまで慎重に復帰への道を歩んできた紀平。フィンランド大会で見せたのは、次が見えたことを確信できた笑顔だった。