楽天の歴史的大失速はなぜ起きたのか。OB磯部公一が指摘する課題「外国人野手で当たりを引かないと厳しい」
礒部公一インタビュー(1)
2022年シーズンの楽天を総括
楽天イーグルスにとって、2022年シーズンは苦い記憶が残る一年だった。シーズン序盤は最大貯金18で首位を独走するも、終わってみれば借金2の4位でクライマックスシリーズ(CS)進出も逃した。歴史的な大失速となった今季の楽天に何が起こっていたのか。初代キャプテンであり"ミスターイーグルス"とも呼ばれた、礒部公一氏が分析した。
特に後半戦、苦しい采配が続いた楽天の石井一久監督(右)
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――今季の楽天は球史に残る失速となってしまいましたが、チームの戦いぶりをどう見ていましたか?
礒部公一(以下・礒部):「私は開幕前の順位予想などで、『序盤にいいスタートが切れたら、今季はいいところまでいく」と発言していたんです。それで開幕から絶好調ということもあり、正直、『今年はいったな』と思っていました。そこからの失速はさすがに予測できなかったですね。
私が打撃コーチをしていた2017年もオールスターを境に調子を落としましたが、借金まではいかなかった。さまざまな要因がありますが、一番に考えられるのは鈴木大地選手、浅村栄斗選手などの後半戦の不調でしょうか。主軸の彼らが本来期待された活躍ができず、得点能力がガクッと落ちた。それで先発投手陣も我慢ができなくなり、投打が噛み合わない悪循環に陥っていった。すべての歯車が少しずつズレていき、最後まで立て直せなかったように映りました」
――投手陣については?
磯部:「田中将大投手をはじめ、岸孝之投手、涌井秀章投手、則本昂大投手もそうですが、今季は怪我や加齢による影響もあって調整が難しい部分もあったのかな、と思います。シーズンを通して、期待値以上の活躍を見せた投手がかなり限定的でした。来シーズンに向けて、宮森智志投手など力強いボールを投げる若手が出てきたのはいいことですが、特に先発陣に関しては世代交代のタイミングが来ている感はあります」
――先ほど指摘があった、得点力不足を解決するために必要なことは?
礒部:「イーグルスの場合、外国人野手で当たりを引かないと厳しい、というのが正直なところです。今の打線だと長打を期待できるのが、実質的に浅村選手くらい。さすがにこれでは得点力は上がりません。島内宏明選手なんかは今季に評価を上げました。もともと不器用な選手で、段階を経て成長しているしよく頑張ったと思いますが、本質的には中距離打者。島内、浅村、辰己涼介選手ら主軸が活きるためには、長距離砲の存在が必須です。
打率は2割2、3分でも20本を打てる外国人選手が最低ひとり、ないし2人は必要なことは明らか。逆にそこさえ補強できれば、得点力は大きく変わってくる。このあたりはポストシーズンの動きに期待したいところです」
――新戦力についてはどう評価していますか?
礒部:「ドラフト2位ルーキーの安田悠馬捕手は、開幕前から大きな期待をしていたんです。彼は常に120%のスイングをするじゃないですか。あれだけ振れるということは相当な魅力。何より打席の中で『やってくれそう』という雰囲気を持っていました。キャッチャーとしての守備などは、シーズンを通してよくなっていくもの。それだけに怪我で早々に離脱してしまったのは、来年以降を考えても残念でした。
投手で挙げたいのは2年目になりますが、早川隆久選手ですね。投球回数は100イニングを超えているし、よく投げたともいえますが、思っていたほど伸びなかった面もあります。彼本来のポテンシャルならもっとできるはず。今年の経験も経て、来季は成績を上げてくるでしょう」
――来季に向けて個人的に期待したい選手は誰でしょうか。
礒部:「辰己選手ですね。私も同じ外野手だったということもありますが、どうしてもあの身体能力をみると期待してしまう。今季はキャリアハイの成績(打率.271、11本塁打、35打点)を残しましたが、もっとやれる能力がある。彼の場合は状況に応じたバッテイングができれば、すごい選手になる可能性を秘めていると思います。
気になるのは、本塁打を狙って大きなスイングをしてしまうことが目立つこと。もちろんそういう場面もあっていいですが、もともとはヒットの延長線上に長打があるタイプ。全体的にもう少し下半身をうまく使い、謙虚なバッテイングができれば、率ももちろんですが長打も増えてくると思うんです。ベースの体の強さがあるので、あそこまで強く振らなくても飛距離は伸びてくる。守備と走塁はすでに文句のつけようがないレベルですから、もう守備と走塁練習はしなくてもいいくらいです(笑)。打撃への意識が変わってくれば、もうワンランクもツーランクも上の選手になると思います」
――ファームで注目している選手はいますか?
礒部:「黒川史陽選手なんかもレギュラー争いに加わってほしいですね。私の中では、ファームで通用している打者は上でもやれる、という持論があるんです。黒川選手はすでに下での実績はありますから、あとは守備位置との兼ね合いも加味して、どれだけ打つほうで結果を残せるかでしょう。打席を与えられたら結果を残しそうな雰囲気はあるので、秋季キャンプやオープン戦で結果を残して、どれだけチャンスをもらえるか。素材は間違いないので、期待したいですね」
――これまで打撃陣の名前が多く挙がりましたが、今年のドラフトでは6指名中5名が大卒、社会人投手という編成上の偏りもあった印象を受けました。
礒部:「今年の指名を見る限り、石井一久監督は長期的な視点でチームづくりを考えているんだろうな、という印象を持ちました。今のチーム事情でいえば、投手陣の主力が高齢化していますから、首脳陣としては瀧中瞭太選手や藤平尚真選手あたりにそろそろ一本立ちしてほしい。ただ、彼らが思うような結果がまだ残せていないので、編成上での考え方が変わってきているようにも見えます。
本来であれば野手にも手を入れたいところなんでしょうが、まずはうまく投手陣を整備するほうが優先順位は高かった。いい投手は何人いてもいいですからね。指名に関しては周囲からは批判もあったかもしれませんが、大卒や社会人の即戦力として期待できる投手が多いのも、球団の根底にそんな考え方があるからでしょう」
――最後に来季の展望と、あらためて補強ポイントを教えてください。
礒部:「投手、野手ともに世代交代のタイミングが来ていることは間違いない。来季は優勝というよりも現実的にAクラスを目指す戦いになるでしょうが、その中で投打ともに活きのいい若手が2人ずつくらい出てきてほしいですね。そういった視点では、どれだけ若手にチャンスが与えられるか、にも注目したい。山本由伸選手のような絶対的なエースはいないですが、投手陣の駒は揃っています。急に劇的に打てるチームになることは考えにくいので、投手陣がどれだけ頑張れるかで、順位は変わってくる。
補強については外国人の大砲をひとり補強することはマストで、そこに加えて、私は巨人にいた(ゼラス・)ウィーラー選手を獲得しても面白いかな、と考えています。彼の場合はシーズンを通して計算が立つ選手だし、それなりに守れる上にまだ衰えもないように感じます。何よりもイーグルスというチームに馴染んでしますし、東北という気候の中での調整もうまい。チームを明るくする選手ですし、彼のような存在がいてくれるとありがたいはず。楽天の伝統的に外国人が当たりの時は上にいきますが、そうでない年は苦しくなる。今季の結果を受けて、まずは新外国人の補強に注目しています」
(インタビュー2:「最後の近鉄戦士」坂口智隆の引退に喪失感。いてまえ打線「天才はいなかったけど、練習量がすごかった」>>)
【プロフィール】
礒部公一(いそべ・こういち)
1974年3月12日生まれ、広島県東広島市出身。三菱重工広島時代、1996年のドラフト会議で近鉄バファローズから3位指名を受け入団。2年目からレギュラーに定着して"いてまえ打線"の一角を担い、2001年には12年ぶりのリーグ優勝に貢献した。2003年から選手会長を努め、翌年の近鉄とオリックスの合併問題・球界再編問題の労使交渉に奔走。2005年に東北楽天ゴールデンイーグルスに創設メンバーとして加入し、初代選手会長に就任。2008年に引退するまで「ミスターイーグルス」としてチームを牽引した。引退後はコーチとして球団に残り2017年まで後進の育成に努めた。2018年からは解説者として活躍中。
現役時代の通算成績・・・1311試合出場、打率.281、1225安打、97本塁打、517打点