大敗したスペイン戦の後、コスタリカ代表はふたつのことに集中して取り組んでいる。

 ひとつは選手の気持ちを落ち着かせることだ。コスタリカの選手の多くは、あの試合の後、ほとんど眠れなかったという。0−7という大敗は大きなトラウマとなっている。そのため、何も世界が終わったわけではないということを、監督をはじめスタッフが選手たちにわからせるよう努力している。

 もうひとつは、代表チームへの非難から選手をできるだけ遠ざけることだ。コスタリカの国民もメディアも怒りまくっている。特にメディアは、まるで代表と戦争でもしているかのようだ。歴史的な敗北を、選手のトラウマを、人々の痛みを、そして世界的に恥をさらしたことを、毎日、語っている。代表を叩くことに熱心なあまり、次に日本戦が控えているのも忘れてしまったかのようだ。サッカー連盟は心配し、選手を守るため試合の翌日からメディアをシャットアウトしている。

 サッカー協会会長のロドルフォ・ビリャロボスは「まだ試合があるのにこんな批判をするなんて馬鹿げている。チームに悪い影響を与えるだけだ」とコメントしたが、人々の怒りは収まらない。なぜならコスタリカ代表の問題は、この試合に限ったことではなかったからだ。チーム周辺にはここまでも多くの不手際があった。0−7という結果は、悪いプレーをしたからだけではなく、そうしたことの集大成だと人々は思っているのだ。


スペインに7得点を許したケイロル・ナバス(コスタリカ代表) photo by MUTSUFOTOGRAFIA

 たとえばチームの要、GKのケイロル・ナバスは、パリからチームのいるクウェートに飛ぼうとしたが、チケットが間違っていたため、翌日に出直さなければならなかった。到着した時にはすでに疲れ切っていて、結局、1日半遅れで練習に加わった。準備期間の短い今回のW杯では、練習時間は1日でも貴重であるにもかかわらずだ。

 また、コスタリカはイラクでの親善試合を予定していた。ヨーロッパ組は後からチームに加わったため、大会前に全員でプレーできる試合はこのイラク戦のみ。非常に重要な試合だったが、キャンセルされた。パスポートにはイラク入国のスタンプを捺さないという約束だったが、それがイラクの入管にうまく伝わっていなかったのだ。

動けないベテラン選手たち

 イラク入国の過去があると、原則、アメリカに入国できなくなる。そしてコスタリカにはMLSでプレーする選手が複数いる。チームと入管の間ですったもんだがあった挙句、結局、入国は取りやめることになり、親善試合はキャンセルとなった。その間、選手は8時間足止めをくった。また、この試合はイラクがコスタリカを招待していたため、クウェートのホテル代を含む旅費はすべてがイラク持ちのはずだったが、これもコスタリカの自腹となった。

 こうしてコスタリカは大事な最後のテストマッチと貴重な練習時間を失った。

 カタールに来ている多くのサポーターは自国のユニホームを着てアピールをしながら街を闊歩するが、コスタリカのサポーターはユニホームを着るのを止めたという。恥ずかしくて歩けないというのだ。実際、ブラジル対セルビア戦に来ていたコスタリカのサポーターは、セレソン(ブラジル代表)のユニホームを着ていた。

 ルイス・フェルナンド・スアレス監督は、日本戦ではスペイン戦とは異なる選手を使おうと考えている。スペイン戦ではベテランと若手のミックスを試みたが、それはうまくいかなかった。たとえば最年長で37歳のブライアン・ルイスは、ピッチでほとんど動かなかった。サントスから追い出され、どこのチームもほしがらず、国内のクラブ(アラフエレンセ)に拾われたが、それでも代表でプレーしている。日本戦はより若い世代にチャンスが与えられるかもしれない。

 システムもスペイン戦で使った4−4−2と同じになるかどうかわからない。スペインはコスタリカ相手にW杯でのパス成功数最多記録を達成した。それは何よりもコスタリカのシステムが間違っていたことを意味する。彼らはスペインに好きなようにプレーを許してしまった。

 4−4−2というのは一般的には攻撃的な布陣だが、スペイン戦でのコスタリカはほぼ守備に徹していた。ボールを持ったスペインが攻めてくるのを、ただ待って守るだけのチームだった。実際のFWは0だったとも言われている。コスタリカは日本のスピードを警戒しており、中盤をもっと厚くしてそれに対応しようとしてくるだろう。

 少し前までコスタリカのメディアは「日本に負けるなど恥だ」という論調だったが、今は「日本に負けても当たり前だ」と言い出している。3戦3敗が濃厚だと感じており、「我々には日本が持っているようなレベルの選手がいない。敗戦はほぼ決まり」と言うのだ。

 代表最多得点記録を持つコスタリカのレジェンド、ロランド・フォンセカは言う。

「W杯前のコスタリカは他のチームのことを知ろうともせず、世界の潮流に乗り遅れた。コスタリカのプレースタイルはとても鈍く、ベテランたちはあまり走れない。そして日本は3つの敵のなかで一番スピードのあるチームだ。これはコスタリカにとってハードな試合になるだろう」

 もともと2戦目の日本戦がカギとなることは、大会前からわかっていた。しかし、今はその試合がとても難しいことも知った。

 日本には勝たなければいけないが、勝ったとしてもそのあとにドイツが控えている。コスタリカは崖っぷちに立たされた。ただ、日本がドイツに勝ったことは、コスタリカを苦しめるが、同時に希望も与えてくれた。もしかしたらコスタリカも、ドイツ相手に同じことができるかもしれないからだ。

 いずれにせよ、すべては日本戦にかかっている。