鶴岡慎也がマスク越しに驚いた大谷翔平など強打者5人。「ヒットを打つ天才」「これが首位打者のスイング軌道か…」
日本ハムとソフトバンクで捕手として19年間プレーし、通算7度のリーグ優勝、4度の日本一に輝いた「優勝請負人」の鶴岡慎也氏。そんな鶴岡氏にマスク越しに見た「強打者5人」を挙げてもらった。
日本ハム時代の大谷翔平
大谷翔平(日本ハム→エンゼルス)
「投手・大谷翔平」とバッテリーを組んだのは1年だけでしたが、「打者・大谷翔平」とは4年間対戦しました。翔平の打者としての1番のすごさは、逆方向へのホームランが多いところです。
プロ入り1年目のキャンプ、バッティング練習で翔平はまったく引っ張らないんです。バックスクリーン左の一番深いところにバンバン打ち込んでいました。逆方向を意識すれば、ボールを長く見られるから選球眼もよくなるし、打率も自然と上がっていく。その意識の高さに驚かされました。
もちろん、逆方向に打っても飛距離が出るという自信もあったのでしょう。村上宗隆(ヤクルト)や柳田悠岐(ソフトバンク)といった逆方向にホームランを打てる打者は最強です。高卒1年目、投手としては荒削りでしたが、打者としては大切なことをすでに理解していたし、ある意味、完成されていたと言っても過言ではありませんでした。それ以降も体のサイズアップとともに、すべてにおいてレベルアップしていきました。
思い出すのが翔平の4年目、千賀滉大(ソフトバンク)とバッテリーを組んだ試合で、外角ストレートにすばらしいボールがきました。翔平のバットも折れた音がしたので「打ちとった」と思いきや、打球はレフトスタンドに飛び込んだのです。思わず「えっ?」と僕と千賀は顔を見合わせました。いわゆる「ブロークン・バット・ホームラン」です。
とにかく翔平は、内角球も腕をたたんでうまく引っ張るし、外の球も引きつけて長打が打てる。来た球に反応して打つ時もあれば、配球を読んでスイングしてくるクレバーさもある。バッテリーとしてはお手上げ状態です。正直、翔平のミスに期待するしかない状態でした。
メジャーに行ってからもフォームをすり足に変えるなど、相変わらず対応力に長けています。技術力の高さはもちろんですが、常にもっと上を目指そうとする姿勢がすばらしい。野球解説者が語れるレベルをはるかに超えています。
内川聖一(横浜→ソフトバンク→ヤクルト)
内川聖一選手は2008年に横浜で打率.378という右打者として最高打率をマークし、2011年にソフトバンクに移籍して、史上2人目の両リーグ首位打者を達成しました。僕が日本ハムに在籍時は敵として戦い、ソフトバンクに移籍してからは味方として過ごしました。
キャッチャーから見た内川選手は、どこを攻めてもバットの芯でとらえてくるバッターでした。なにより驚いたのが右打ちのうまさです。たとえば走者一塁で、バッテリーとしてはライトに運ばれて一、三塁にはしたくない場面。インコースを厳しく攻めても、ボール気味のアウトコースに投げても、図ったかのようにライト前に持っていきます。バットに角度をつける技術、腰を回転させる体のコントロール。それをマスク越しに感じましたね。
外角高めが得意なコースだったと思うのですが、打率を残すために狙い球を変える。チャンスメーカーにも、つなぎ役にも、ポイントゲッターにもなれる強打者でした。
ソフトバンク時代、同じ右打者としてアドバイスをもらったことがあります。内川選手の打撃理論はすごくシンプルで、左足をステップする始動を早くして、バットを最短距離で出す。頭では理解できるのですが、実際にやるとなると簡単ではありません。私のなかで内川選手は「ヒットを打つ天才」「バットコントロールの天才」でした。
中村剛也(西武)
内川聖一選手がヒットを打つ天才なら、中村剛也選手はホームランを打つ天才です。長嶋茂雄さんの記録を抜き、歴代14位の本塁打数(454本)を放っている中村選手。この数字は、もちろん現役選手最多です。
一方で、通算1990三振は歴代トップです。中村選手の場合、ホームランを打っても、ヒットを打っても、三振をしても、すべて同じスイングです。つまり、変化球でも決して合わせにきません。
スライダーを完全に読まれて打たれる時もあれば、絶好調でも簡単に三振する時もあります。バッテリーとしては「三振だったけど、もう1個分ボールが高かったら危なかった」という怖さが常にあります。中村選手は"割り切り"ができるバッターです。僕もかなりの本塁打を献上しているのではないでしょうか(笑)。
それに軽く振っているように見えるかもしれませんが、実際はものすごくスイングスピードが速いんです。そのうえ、バットにボールを乗せるのがうまいので打球が飛ぶんです。
ウイリー・モー・ペーニャ(ソフトバンク→オリックス→楽天→ロッテ)
外国人選手ではウイリー・モー・ペーニャです。2012年にソフトバンクで21本塁打、2014年にオリックスで32本塁打、2015年に楽天で17本塁打、2017年にロッテで15本塁打を打っています。
右打ちの長距離砲で、外に逃げる変化球に弱くて三振も多いのですが、当たればどこまでも飛んでいく。だから、コントロールミスしたらやられてしまうというプレッシャーがありました。
しかも、普通はホームランの打球は放物線を描くものですが、ペーニャの打球は内野手がジャンプするような低い弾道でそのままスタンドインするんです。「この角度で入るの?」と驚きしかなかったですね。
福浦和也(ロッテ)
福浦和也さんは、2001年に首位打者のタイトルを獲得してから6年連続して打率3割をマークした好打者です。僕はプロ3年目の2005年から一軍の試合に出始めたのですが、その時に福浦さんと対戦しました。ある試合で味方の投手が外角にものすごくいいボールを投げて「決まった。見逃しだ!」と思った瞬間、バットが出てきてレフト前に運ばれました。
捕手というのは打者がバットを振るのか振らないのか、大体わかるものです。でも、福浦さんは絶対に振ってこないというタイミングから目の前をバットが横切ってきました。「これが一軍で首位打者を獲る選手のバットスイング軌道か......」と、打たれたのに感動したのを覚えています。
その後、福浦さんが現役引退する2019年まで何打席も対戦しました。年齢とともに打撃スタイルは変わりましたが、「内角低めの捌き方」「外角球をレフト前に弾き返す軌道」は福浦さん独特のもので、誰も真似できないと思います。
鶴岡慎也(つるおか・しんや)/1981年4月11日、鹿児島県生まれ。樟南高校時代は2度の甲子園に出場。三菱重工横浜硬式野球クラブを経て、2002年ドラフト8巡目で日本ハムに入団。2005年に一軍入りを果たすと、その後、4度のリーグ優勝に貢献。2014年にFAでソフトバンクに移籍。2014、15年と連続日本一を達成。2017年オフに再取得したFAで日本ハムに復帰。2021年オフに日本ハムを退団した。