中村憲剛が期待する「後輩」三笘薫と田中碧。「上田綺世とのコンビは楽しみ」「盤面で見られる目を持っている」
激闘来たる!カタールW杯特集
中村憲剛が「フロンターレ組」にエール(3)
<三笘薫・田中碧>編
現地11月20日、カタールにて2022年FIFAワールドカップが開幕。今回選ばれた日本代表メンバーを見返すと、最終登録26人中のうち、実に7人もの選手が「川崎フロンターレ」に縁を持っている。フロンターレの"バンディエラ"中村憲剛氏にそれぞれの選手の特徴や思い出を語ってもらい、本大会に向けてエールを送ってもらった。
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三笘薫のドリブルの威力が倍増する方法とは?
── 本大会でもうひとり、カギを握りそうなのが三笘薫選手(ブライトン)です。三笘選手は彼が小学生だった時、Jリーグの試合で憲剛さんと手をつないで入場するシーンの写真が話題になりましたね。
「あれは......当事者ながらエモいですね(笑)。自分で言うのも何ですが、あの写真はJリーグ30年の積み上げを示した1枚だったと思います。Jリーグがなければ、薫がああいった形で選手と手をつないで入場することはなかったし、Jリーグを目指さなかったかもしれない。
あの小さな少年が手をつないで一緒にピッチまで歩いたおじさんとのちにプロで再会し、おじさんの現役最後のゴールをアシストし、その次の年に彼は日本代表としてワールドカップ予選で2ゴールを決め、解説者になったおじさんにヒーローインタビューされる。当事者として言うのもなんですけど、このエピソードはもはや映画です(笑)」
── いい話、ありがとうございます(笑)。後輩として見た場合、三笘選手はどういうプレーヤーでしたか。
「正直、薫には言うことはほとんどなかったです。本当にスーッと駆け上がって行っちゃいましたから。彼は非常に自己分析に長けている選手。自分の現状を良くわかっていて、何をしなければいけないかを、よく理解していました。だからこっちが何かを言う前に、やっているんですよ。
そういう意味では、全然、手がかからなかったですね。強いて言えばシュートをふかすことが多かったので、転がせという話はしました。あれだけのスピードで突破していけば、あとは枠に転がすだけで入るよって」
── たしかに三笘選手のゴールは、グラウンダー系が多いですよね。
「たしかデビューから2試合目の横浜FC戦で、ドリブルからチャンスを作ったのに、シュートをふかしちゃったんです。次の仙台戦でも同じようにふかしてしまった。
だから、風呂場で言ったんです。『あそこまでドリブルしてるんだから、コロコロでよくね?』って。そしたら次の湘南戦で、コロコロとまで言いませんが、グラウンダーで初ゴールを決めたんですよ。あれにはびっくりしました。え? すぐ結果残すじゃんって(苦笑)。見事に実践してくれましたね。
薫が1年目の時には、同じポジションに(齋藤)学(水原三星ブルーウィングス)と(長谷川)竜也(横浜FC)がいたから、結果を残さないと自分は出られない危機感があったと思います。あのハイレベルな競争のなかに身を置いたことが、薫にとっては大きかったでしょうね。
あのふたりの存在は間違いなく刺激になったはずだし、あのふたりがとんでもない選手を生み出しましたね(笑)」
── 今やプレミアリーグさえも席巻する存在ですからね。
「最初に選んだチーム(ユニオン・サン=ジロワーズ)がよかったと思いますよ。やったことのないウイングバックをこなすなかで、結果的に攻守の幅を広げられたところもあると思います。薫も常に成長を求めているので、ウイングバックなんてやりたくないとは思わず、その経験も成長につながるとトライしたことが大きかったと感じます」
── ここまで話を聞いていると、フロンターレにいた選手は、逆境さえも成長の場と捉えられるマインドを持っていますよね。そういう資質のある選手をフロントは獲っているのでしょうか。
「それもあると思いますし、僕たち年長者がそういう空気を作ってきたところもあると思います。僕もそういった先輩たちのなかで成長したので、あの雰囲気はクラブの特徴だと思います。人のせいにせず、自分に矢印を向けるような選手ばかりでしたから。
頑張っている選手が浮かないようにする。やるべきことをやってない選手が浮くような日常を過ごしていたので、それが普通なんです。
もちろん、もともとみんな向上心が強いし、海外にも行きたい想いも持っていたと思います。それがうまくマッチングして、フロンターレでプレーした選手は薫をはじめ、海外でも活躍できているんだと思います」
── 三笘は本大会で、ジョーカーとして起用されるのでしょうか。
「相馬(勇紀/名古屋グランパス)を招集したことが、ひとつのポイントになるかと。途中から出てきたほうが相手にとっては嫌だとは思いますけど、森保さんのなかには薫を頭から使って、途中から相馬を出すという考えもあるはず。
スタメンにしても、途中からにしても、薫をしっかりと生かす設計図を構築しないといけないですよね。単独突破だけでは、さすがの薫でも厳しい。薫にパスを出す選択肢も同時に作ってあげれば、ドリブルの威力も倍増します。
やっぱり、彼はキーマンですよ。相手がドイツでもスペインでも、必ず1回はえぐるシーンを作ると思います。なので、その先ですよね。そこで期待したいのが上田(綺世/サークル・ブルージュ)です。大学の選抜でも一緒にやっているし、五輪でもいい関係性も作れていましたから相性もいい。上田とのコンビは楽しみです」
──「憲剛イズムの正統後継者」と言うべき、田中碧選手についても聞かせてください。
「正統後継者と言っていいものかどうかはわかりませんが(苦笑)、碧は小学生の時から知っていますからね。
もちろん当時は知っているだけでしたけど、ずっとアカデミーで育ってきて、高1くらいからはもうトップの練習に参加していました。まだ細くて小さかったけど、センスはあるなと。練習試合にも穴埋めでCBとかSBでプレーしていたので、最初は守備の選手だと思っていました」
── 田中選手はなんでも器用にこなすイメージですが、憲剛さんが考える一番の強みってなんでしょうか。
「チームを回すことが上手ですね。ゲームを俯瞰して見る能力をかなり積み上げてきていると思います。試合を盤面で捉えることのできる能力は、みんなが持っているわけじゃない。状況に応じて自分がどう振る舞えば、チームにとって一番いいかを考えられる選手なんです。
初めからその能力を持っていたわけではないですけど、オーストラリア戦(3月24日@シドニー)を見た時に、その部分の成長をすごく感じました。チームのために何をすべきか。周りの選手に何を促すべきか。ボールコントロールやフィジカル能力ももちろん成長してきましたが、試合の調整力がものすごく備わってきたと感じています」
── もちろん田中選手にも、多くのことを伝えてきたんですよね。
「碧に関しては、段階を踏んでアドバイスをしてきました。アカデミー上がりなので、止めて蹴るところの技術はしっかりしていましたが、線は細かったので、すぐには活躍できるとは思っていませんでした。
それでも彼は、よく人を見ているし、これは最近見た映像で知りましたけど、意外と順序立てて物事を考えていたんだなと。1年目、2年目と着実にステップを踏みながら、3年目にはしっかり主力になりましたから」
── 代表でも欠かせない選手へと成長を遂げました。
「碧は自分のことをよくわかっている選手です。『特長がない』と彼はよく言うんですけど、それは本心だと思います。
めちゃくちゃドリブルがうまいわけでもないですし、パスがめちゃめちゃ上手というわけでもない。ディフェンスがとてつもなく強いというわけでもないですけど、その項目どれもが高水準で、何でもできるようになりたいという気持ちが強い人間です。
それとさっき言ったように、盤面で見られる目を持っているのが大きいですよね。だから、守田(英正)と碧のふたりが出たオーストラリア戦で、日本が主導権を握れたのは偶然ではないと思っています。彼らが相手を見てプレーしたことで、日本に流れを持ってきましたから」
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