福田正博が振り返る2022年のJリーグ。目立った「育成型クラブの奮闘」と「全国のクラブ間の実力格差縮小」
■11月20日のJ3第34節が終わり、今季のJリーグは全日程が終了。J1優勝の横浜F・マリノスの選手起用や、サンフレッチェ広島、サガン鳥栖といった育成型クラブの奮闘など、福田正博氏が今季の傾向を振り返った。
若い選手をうまく活躍させた広島と鳥栖は、今季のJ1で存在感を見せた
今シーズンのJリーグで主役だったのは、3年ぶりにJ1優勝を手繰り寄せた横浜F・マリノスで間違いない。優勝へのプレッシャーからか、終盤戦に連敗を喫したが、最終節で見事にそれを跳ね返して栄冠を勝ち取ったのは見事だった。
彼らの優勝は、他チームが羨むほどの厚い選手層を生かしたからだと見る向きもある。誰が試合に出てもチームとして機能するのは、選手層の厚みがあればこそではあるが、レベルの高い選手を揃えると、選手個々が出場機会や出場時間などで不平不満を抱きやすく、結果としてチーム全員が同じ方向を向かなくなってしまうケースが多々ある。
しかし、横浜FMはそれを上手にコントロールした。これこそが彼らの優勝できた要因だろう。それがよく表れていたのが、最終節の幻の先制ゴールのシーンだった。
結果的にVARでアンデルソン・ロペスのゴールは取り消されるのだが、シュートが決まったと同時にウォーミングアップエリアにいた控え選手たちが一斉に駆け出して、自陣ベンチ前を通過し、相手ベンチ前を通り過ぎ、コーナーフラッグ付近でよろこぶアンデルソン・ロペスと抱擁した。
この一体感こそが今季の横浜FMの強さだったと言える。そして、こうしたチームをつくりあげたケヴィン・マスカット監督の手腕や、ベンチにいてもピッチ上で戦う選手と同じ気持ちを持てるメンタリティのある選手を集めた、スカウティングをはじめとするクラブスタッフの勝利でもあった。
この横浜FMを最後の最後まで苦しめた川崎フロンターレは、さすがの存在感を見せてくれた。3連覇を逃したものの、彼らは毎シーズンのように若い主力選手を引き抜かれ、さらには主力選手に故障者が続出しながらも、最後の最後まで優勝の可能性を残すところに踏みとどまった。粘り強く戦ったことは評価したい。
ただ、来季以降を考えると、転換期が迫っているのを感じさせたシーズンでもあった。年齢で選手の力量を推し量りたくないとはいえ、家長昭博は来年で37歳。いまのところ衰えはまったく感じないが、いつまでも現在のレベルを維持できるものではない。2〜3年後やその先を見据えた時に、鬼木達監督をはじめ、フロントなどのチームスタッフがどういう方向にチームの舵を切るのか。そこは来季以降の注目点だろう。
選手育成に定評のあるクラブの頑張りサンフレッチェ広島は今季のリーグ戦で3位、天皇杯はPK戦で敗れたとはいえ準優勝し、ルヴァンカップでは優勝を勝ち取った。旋風を起こしたと言っていい。Jリーグには外国人監督が新たな価値観を持ち込むと、選手はほぼ変わらないのに見違えるサッカーを繰り広げるケースがある。今季の広島がまさにそれ。ミヒャエル・スキッベ監督の下で来季どこまで成長を遂げ、どんな結果を残すのかは楽しみなところだ。
この広島にも言えることだが、選手の育成に定評があるチームというのは、主力選手が引き抜かれても、次から次へと新たな選手が頭角を現す傾向が強い。その代表例がサガン鳥栖だろう。
昨シーズン7位と躍進を遂げたが、その選手たちのほとんどが他クラブに引き抜かれた。そのため今季の開幕前は「いよいよ降格もある」と見ていたのだが、蓋を開けてみれば11位。夏場までは上位をうかがう位置につけた。
降格候補と目されながらも鳥栖が降格しないシーズンは、今季だけではなく、ここ数年続いている。背景には主力選手を引き抜かれてポジションが空くことを、選手育成のサイクルとして上手に活用しているように感じる。
クラブやサポーターにとっては、手塩にかけて育てた選手をあっさり引き抜かれるジレンマがあると思うが、若い選手や他チームでくすぶっている選手にとってはポジションが空くことで出場機会を手にしやすいというメリットがある。
若い選手が成長していくためには試合経験に優るものはない。どれだけ才能があろうとも選手層が厚いチームでは出場機会を手にできないことが多く、その結果伸び悩みにつながる。
これを避けるためにレンタル移籍で成長を促したり、定期的に出場機会を与えたりすることが大事なのだが、鳥栖の場合は否応なく若い選手やユースで育てた選手を登用せざるを得ない状況になり、それが選手育成サイクルに好循環を生んでいるのだろう。
ただし、これはクラブの育成組織が充実しているのが大前提だ。鳥栖や広島、柏レイソル、セレッソ大阪などのクラブは選手育成に定評がある。共通して言えるのはこれらのクラブは若い選手を登用しながらチーム力へと変えているということだ。
全国各地から結果を残すクラブが増えている日本代表クラスの選手たちや、その下の世代の有望株が次々と海外移籍をしているため、Jリーグのトップクラブの実力は高まっていないように見える。その一方で下位のクラブでもしっかりと力をつけているところもあり、全体的には上から下まで実力差は小さくなっている。
それを証明したのが、天皇杯を制したJ2のヴァンフォーレ甲府(J2・18位)であり、J1参入プレーオフを戦ったロアッソ熊本だった。
とりわけ熊本は昨季J3で優勝して、今季はJ2昇格1年目で4位と躍進。J1参入プレーオフは、最後で京都サンガF.C.と1ー1の引き分けに終わりJ1はお預けとなったが、彼らの取り組んできたサッカーが間違いではなかったということだ。来季に向けては、同じメンバーで戦えるかという課題はあるものの、彼らのサッカーがJ1で見られる日は遠くないのではないかと思う。
また、J1から降格して来季はJ2を戦うことになったのが静岡県にホームタウンを置くジュビロ磐田と清水エスパルス。我々の世代くらいまでは、サッカーと言えば静岡県という図式だったし、それこそ日本代表の多くが静岡県出身者の時代があっただけに、現状は寂しく感じる。
各地域でユース出身の選手たちが躍動しながら結果を残すクラブが増えているのは、Jリーグが誕生したことで全国津々浦々にサッカーが浸透し、良質な指導者が全国に散らばった成果でもある。ただ、それでも静岡勢がJ1に1チームもいないのは寂しいし、来季以降にしっかりチームをつくり直してJ1復帰へと歩んでもらいたいと思う。
地域で言えば、2017年からの6シーズンでJ1に優勝しているのは、川崎と横浜FMという神奈川県勢しかいない。来シーズンは、神奈川県以外のクラブが優勝争いに加わってくれることを願っている。