我々人間の生活の基準となる「1日」や「1秒」といった時間の長さは、地球の自転を基準に決められています。しかし、時間を測定する技術が進歩して原子時計で正確な時間の測定が可能になった結果、地球の自転を基準とした「天文時間」と原子時計の測定する「原子時間」の間にはわずかな誤差が存在することが明らかになりました。このズレをなくすために行われるのが、1日を1秒伸ばす「閏秒(うるう秒)」の実施です。このうるう秒の廃止が科学者たちにより提唱されており、フランスで開催された会議の中で、2035年までにうるう秒を廃止することが決まりました。

The leap second’s time is up: world votes to stop pausing clocks

https://www.nature.com/articles/d41586-022-03783-5

Do not adjust your clock: scientists call time on the leap second

https://www.theguardian.com/world/2022/nov/18/do-not-adjust-your-clock-scientists-call-time-on-the-leap-second

「天文時間」と「原子時間」のずれを補うために1972年に導入されたのが「うるう秒」で、過去半世紀にわたり人類は2つの時間の誤差が0.9秒を超えるたびに、うるう秒を追加してきました。GIGAZINEでは実際にうるう秒を挿入する瞬間を取材したこともあり、一体どういったことが行われるのかは、以下の記事を読めばわかります。

うるう秒「8時59分60秒」を挿入するまさにその瞬間を明石市立天文科学館で目撃した現地レポート - GIGAZINE



うるう秒はほとんどの人にとっては何の影響もなく、挿入されたことに気づかない人も多いはず。しかし、衛星ナビゲーションシステムやソフトウェア、電気通信システムなどの「正確な時間を必要とするシステム」に問題を引き起こすことあるため、一部ではうるう秒の廃止が提唱されてきました。

FacebookやInstagramの親会社であるMetaも、過去にうるう秒の廃止を提唱しています。

Metaが「うるう秒」廃止を呼びかける、過去にはネットサービスで大規模な障害も - GIGAZINE



そんな中、世界中の加盟国の原子時間標準を結合・分析・平均して協定世界時(UTC)を作り出している国際度量衡局(BIPM)が、4年ごとに開催している国際度量衡総会(CGPM)の中でうるう秒の廃止について決議を行い、2035年までにうるう秒の追加を停止することが可決されました。

BIPMで時間部門の責任者を務めているパトリツィア・タベラ博士は、うるう秒の廃止について「歴史的な決定」と言及。さらに、「不規則なうるう秒による不連続性を排除した、連続的な秒の流れ」が生まれると述べました。また、「UTCと地球の自転との関係は失われていません。UTCは地球に関連したままです」「一般の人にとっては何も変わりません」と付け加えています。

なお、うるう秒の廃止が決まったものの、当面の間はこれまで通りうるう秒の追加が必要なタイミングで適宜追加が行われることとなります。しかし、2035年頃からは原子時間と天文時間の誤差が1秒よりも大きくなることが許容されるようになります。CGPMではUT1とUTCの同期が約1分ずれても「少なくとも1世紀はうるう秒を追加しない」ことが提案されていますが、これらの詳細は今後他の国際機関と協議しながら決められる予定。ただし、2026年までに「許容される誤差の上限」が決められることになるとのことです。

なお、うるう秒の廃止にどの国が賛成したのか、その内訳はまだ明かされていませんが、アメリカとフランスがうるう秒廃止をリードした国であるとイギリスメディアのThe Guardianは報じています。また、ロシアが反対票を投じた国のひとつであることも明らかになっており、その理由は同国の運用する衛星測位システムGLONASSの技術的な問題に対処するための時間的猶予が足りないためだそうです。



59の加盟国により成り立つBIPMが作成しているUTCは、「世界的なコミュニティによる取り組み」であり、うるう秒廃止後もUTCを維持することは非常に重要であると、アメリカ国立標準技術研究所の物理学者であるジューダ・レイバン氏は説明しています。

一方で、原子時計により管理されるUTCのライバルであるGPS時刻は、「世界的な監視なし」で米軍により管理されているものであるとレイバン氏は指摘。

天文時間と原子時間のずれに対処するための解決策として考えられているのは、時間のずれを最大1分まで増やす、つまりは「うるう分」を追加することです。このうるう分の追加がどのくらいの頻度で必要になるかを正確に予測することは困難なものの、レイバン氏は「50年から100年ほどの期間で必要になるのでは」と見積もっています。

また、BIPM時間部門の元ディレクターであるフェリシタス・アリアス氏は、「ほとんどの国で夏時間と冬時間の間に1時間のずれがあります。これはうるう秒をはるかに超えるずれですが、その影響はほとんどありません」と述べ、うるう秒やうるう分のようなわずかな時間の誤差は多くの人々の生活に影響を与えるものではないと指摘。

ただし、国際電気通信連合(ITU)が2035年までに行ううるう秒の廃止を妨害する可能性も挙げられています。