日本のハイプレスは機能せず

 予想どおりと言うべきか、カタールW杯本番前の最後のテストマッチとなったカナダ戦は、コンディション調整の色合いが強かった。お互い6日後に本大会初戦を控えており、日本はドイツと、カナダはベルギーという、それぞれのグループで首位通過を狙う強豪との対戦ゆえ、試合の強度を高められないのは当然だ。


日本はカナダと対戦し、1−2で敗れた

 ただ、両チームの調整具合を比較すると、少なくない差があったことは否めない。

 負傷中のアルフォンソ・デイビス(バイエルン)とステファン・エウスタキオ(ポルト)以外は、ほぼレギュラー陣がスタメンに名を連ねたカナダに対し、日本は多くの主力の調整が間に合わず、ほぼ控え組が中心。権田修一、酒井宏樹、久保建英以外は、9月のアメリカ戦でベンチを温めたメンバー(エクアドル戦のスタメン)を先発させ、そこに戦線を離脱していた板倉滉と浅野拓磨が初めて実戦の場に復帰した格好だ。

 そこで思い出すべきは、Bチームで戦った9月のエクアドル戦で起きた現象だ。あの試合のエクアドルは4−2−3−1を採用。そのため、お互い同じ布陣を採用するチーム同士の対戦になったが、日本のハイプレスはほとんど機能しなかった。

 なぜなら、ビルドアップ時のエクアドルは、ダブルボランチの一角の20番(ヘグソン・メンデス)が最終ラインに下りて3バックに可変させたため、守備時に4−4−2の陣形をとる日本の2トップが、前からハメることができなかったからだった。

 では、このカナダ戦でその問題に改善は見られたのか。チーム全体として同じ戦術を共有できているのであれば、メンバーが違っても、少なからず改善の跡が見られるはず。逆に、改善の跡が見られなかったとすれば、チームとして戦術の細部を共有できていないことになる。

 今大会の日本の行方を大きく左右するのは、前線からのプレスと奪ったあとのショートカウンターだ。森保一監督がその戦いに舵を切ったのは、9月のアメリカ戦で明確化された。そういう意味で、今回のカナダ戦を振り返る時、日本のハイプレスに焦点を当ててみると森保ジャパンの戦術浸透度も見えてくる。

 まず頭に入れておきたいのは、4−2−3−1を採用する日本の守備方法だ。日本は、相手のビルドアップ時を含めて日本のアタッキングサード(相手のディフェンディングサード)では4−4−2の陣形でハイプレスを仕掛けるが、ミドルサードから自陣で守る時は、4−4−2のブロックを形成し、むやみなプレスは仕掛けない。これが基本の守備方法で、カナダ戦もそうだった。

 そのうえで、カナダ戦における日本のハイプレスが機能していたかと言えば、残念ながら、日本にとって好ましくない現象が見えてくる。とくにこの試合をカナダの視点に立って振り返ると、なぜ日本のハイプレスが機能しなかったのかがわかりやすい。

日本の出方、変化にもしっかり対応したカナダ

 カナダの布陣は4−4−2。つまり、自分たちがボールを保持している時は、4−2−3−1の日本が4−4−2に可変して守るので、4−4−2対4−4−2という、フィールドプレーヤー10人が完全にマッチアップする状態になる。

 立ち上がりのカナダは、GKがボールを保持した時に日本の守備陣形を確認し、センターバック(CB)の2人と逆三角形を作ってからCBに一旦ボールを預けたところで、日本のハイプレスの方法をチェック。そして、その確認作業をしている間は無理してビルドアップせず、ボールを大きく蹴り出して日本のプレスを回避する。これは、試合序盤はある程度日本のハイプレスを受け入れることを前提とした戦い方だ。

 ところが、その確認作業中の前半8分、CBがバックパスしたボールをGKがクリアしたあと、日本にボールを回収され、失点。DF4人のラインコントロールにおけるミスが失点の原因となったが、仮にエクアドルのように開始から日本のハイプレス対策をしていれば、GKがクリアせずにボールをつないで前進できた可能性もある。そこは、カナダとエクアドルの違いであり、カナダにとっては改善ポイントでもある。

 しかし、日本のハイププレスの方法を確認してから、つまり先制点を許したあとは、準備していたプレス回避を実行。ひとつはエクアドルと同じで、ダブルボランチのうちのひとりの13番(アティバ・ハッチンソン)が最終ラインの間のスペースに下りて、日本の2トップに対して数的優位の状況をセット。もうひとつは、2トップの20番(ジョナサン・デイビッド)が日本の前線と2列目の間のスペースに下りてそのエリアで数的優位をつくる方法で、これは6月のブラジル戦でネイマールが実践したプレーと同じだ。

 主にこの2つの方法を実行したカナダは、ビルドアップの精度の低さから前半35分と38分に日本のハイプレスを浴びてピンチを招いたシーンはあったものの、それ以外は、試合を通してほぼ日本のハイプレスを無力化することに成功し、主導権をにぎって試合を進められた。

 もうひとつ付け加えるなら、日本が後半85分に吉田麻也を起用して布陣を3−4−2−1に変更したあとも、カナダはその時右MFでプレーした10番(デイヴィッド・ホイレット)が最終ラインに下がって、5−3−2に可変。89分に山根視来のシュートを浴びるピンチはあったが、日本が3バックに布陣変更した時の対応策も準備していたことが見て取れた。

「相手の対策」への日本の対策が見られない

 ここで視点を変えて、日本の立場に立って見るとどうなるか。結局、このカナダ戦で見えた問題点は、実はエクアドル戦で露呈した問題点とまったく同じなのがわかる。要するに、森保ジャパンの戦術浸透度が低いことが証明された格好だ。

 その結果として表れたスタッツ(データ元『skysports.com』)が、日本の45.6%対カナダの54.4%というボール支配率、7本(枠内2本)対17本(枠内3本)というシュート数で、日本がカナダに劣勢を強いられた原因でもあった。

 もちろん、日本が9月のアメリカ戦と同じメンバーであれば、もう少し違った展開になった可能性は残される。しかしながら、対戦相手が日本の戦い方を分析することが当たり前になっている現代サッカーにおいて、日本が相手の対策に対する対策を用意していなければ、メンバーが違っていても問題の本質は変わらない。

 さらに根深いのは、この4年間、森保ジャパンはこの問題をずっと解決できないまま、ここまで来てしまったことだろう。カナダ戦からドイツ戦までの5日間で、4年間できなかったものを覆せるのか。指揮官は、そんな秘策を持ち合わせているのか。

 この試合ではスタメンを飾った久保と酒井が前半で退いたため、現時点における森保監督の頭の中にあるドイツ戦のスタメンは、はっきりとした。冨安健洋、守田英正、遠藤航が間に合うことを前提とすれば、9月のアメリカ戦と同じスタメンになるはずだ。

 彼ら11人が、それまでとの劇的な違いを生みだすか、あるいはドイツが4年前のコロンビアのような予想外の失態を犯すか。

 11月23日は、そこにわずかな望みを託して、グループリーグ初戦に挑むことになってしまった。