カタールW杯での森保ジャパンは、開幕のドイツ戦を控えて、ポジティブな要素があるだろうか。

 前哨戦のカナダ戦は1−2で敗れているが、目を覆いたくなるほどにチグハグだった。

 2カ月ぶりの実戦となった浅野拓磨は完全に空回り。久保建英も左サイド固定で個性を奪われていた。相馬勇紀はすばらしい先制点を決めたものの、持ち味を出せたとは言い難い。南野拓実は深刻なほどフィットしていなかった。柴崎岳はすばらしいパスを何度か見せたが、遠藤航のバックアッパー不在は明白で、球際の勝負になると、守備ラインを保てない。

 自慢のハイプレスも場当たり的で、組織的ではなかった。ボールを持ち運ぶパターンもない。トドメは謎の5バックで、ポジションの間を切り裂かれると、アディショナルタイムのPK献上で自滅した。

 控え組中心の先発だったことを差し引いても、ネガティブな面ばかりだった。不安しかない。しかし、すでに賽は投げられたのだ。どうにか明るい材料を探すべきだろう。

 ドイツとの決戦を控え、森保ジャパンが勝利すべき手立ては、天変地異的な運に恵まれない限り、おそらくひとつだけである。

<鎌田大地の能力を十全に使えるか>

 カナダ戦で鎌田は、後半途中からボランチで起用されている。彼の群を抜いたサッカーセンス、ユーティリティ性があれば、できないことはない。フランクフルトでも、ボランチとして起用されることはある。その守備センスは卓抜で、昨シーズンのヨーロッパリーグFCバルセロナ戦でペドリを封殺したのは記憶に新しい。


カナダ戦では後半22分からボランチで出場した鎌田大地

 しかし、鎌田の最大の魅力は、あくまでゴールに直結するプレーである。ボランチでは宝の持ち腐れ。前線やサイドにお互いを生かし合う選手がいて、戦術が張り巡らされている場合は、ボランチもひとつの選択肢だが。

 カナダ戦でも鎌田は1対1の球際を制し、抜群のキープ力と推進力で攻撃を牽引していた。急所をつくようなパスも、セットプレーを含めた一撃も、彼の持ち味である。彼が局面で勝利することによって、周りが優位に動ける。ボランチやサイドバックは彼にボールを預けられるし、サイドアタッカーは信じて動くことでアドバンテージを得て、ストライカーは決定的パスを呼び込み、ゴールに結びつけられる。

元サガン鳥栖監督が語る鎌田の特長

「大地はうまく脱力することで、相手を見えているし、周りも見えています。さぼっている、休んでいるわけではなくて」

 サガン鳥栖で当時18歳だった鎌田をJデビューさせた森下仁志監督(現在はガンバ大阪ユース監督)はそう語って、興味深い指摘をしている。

「たとえば、(バルサ戦で)ペドリとの局面でのマッチアップでは、スイッチが入っていました。とにかくボールを取られないし、ほとんどロストしていない。走り出しのタイミングもよくて、味方が出してくれたら、もっとチャンスになっていたかもしれません。より高いレベルでやれるはずで、ワールドカップの日本代表でも、要求することによって、絶対に応えてくれる選手です」(森下監督)

 鎌田はトップ下で自由を与えられたとしても、常に戦況を鑑み、守備も厭わないだろう。守備的なポジションで攻撃を期待するのではなく、攻撃的なポジションで守備を任せるべきである。そのほうが、攻撃で爆発的な活躍を生み出せるはずだ。

 彼を中心にしたチームにすることで、わずかだが活路は開ける。ドイツ戦で先発が予想される伊東純也、前田大然、久保などを生かす可能性は上がる。そしてチーム全体、隅々まで効能を行き渡らせることができたら――。

「今まで出会った選手で、トップレベルにいく選手は感情のアベレージが高いです。(鎌田)大地もそう」

 森下監督は、鎌田の"強心臓"についてそう説明している。

「起伏が少ないというか、乱れを見せず、感情を出してもコントロールしながら、自らを奮い立たせることができます。大地は『自分のサッカーを見せつけてやる』という負けん気が本当に強いですね。それが欧州に行っても、要求に応えるスピードに表れているし、それを続けられる力にもつながっているんでしょう」

 鎌田は大舞台で何者かになり変われる。事実、昨シーズンから今シーズンにかけ、ヨーロッパリーグ、チャンピオンズリーグで殻を破りつつある。そのポテンシャルは底知れない。

 もし森保一監督が、鎌田に"変身"の機会さえ与えられたら――。

 勝負どころがあるとすれば後半途中からだろう。それまでに2点以上リードされていた場合、反撃の余地は限りなくゼロに近い。そこで期待したいのがストライカー、上田綺世である。

 鎌田のパスを呼び込めるのは、このチームには上田以外にいない。彼のゴールセンスは歴代代表FWと比較してもトップレベル。カナダ戦もすばらしい抜け出しからパスを呼び込み、ボールを収めることでセットプレーも奪えていたし、ポストから決定機も作り出していた。先発メンバーが走り回って、相手センターバックと駆け引きを続け、消耗させることができていたら、途中交代出場でチャンスを作れるだろう。

 いずれにせよ、森保ジャパンの浮沈は鎌田にかかっている。