ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 先週日曜日の阪神競馬場では、午前中から雨が降るなかで競馬が行なわれたため、だいぶ馬場の内目の傷みが進行していました。GIエリザベス女王杯で外からの差し馬が台頭し、ふた桁馬番の馬が掲示板を独占したのも、そうした馬場の影響があったと思います。

 その阪神の芝は今週までAコースで行なわれるため、内目の馬場の傷みは残ったまま。そういった馬場コンディションを考慮すれば、やはり外から差してくる馬のほうが有利と見ます。もし再び雨が降れば、なおさらその傾向が強くなるでしょう。

 そうした状況を鑑みて、今週行なわれるGIマイルCS(11月20日/阪神・芝1600m)の行方を占っていきたいと思います。

 今年は、前哨戦で結果を残した馬たちがそろって順調な仕上がりを見せており、上位勢は高いレベルで安定しています。有力馬は五指に余り、軸選びには頭を悩ましてしまいますね。

 この秋の始動が早かった順で有力馬を見ていくと、まずはGIスプリンターズS(10月2日/中山・芝1200m)を叩き台に選択したシュネルマイスター(牡4歳)。当時、管理する手塚貴久調教師は「斤量面とレース間隔」を参戦理由に挙げ、すべては最大目標としたマイルCSから逆算したものだったようです。

 レースでは、初めて臨んだ芝1200m戦でのスピード競馬に対応できず、9着に敗れましたが、僕はその結果をあまり気にしていません。同レース時の中山・芝は、強烈なイン前有利の馬場バイアスがありました。それでいて、外枠発走からの後方追走の競馬では厳しかったと思います。

 そもそもエンジンのかかりの遅い馬ですから、1200m向きではありませんでしたね。むしろ「いい叩き台になったのでは」と、僕は前向きにとらえています。今回は、乗り慣れたクリストフ・ルメール騎手に手が戻るのもプラス。得意のマイル戦で本領を発揮してくれるでしょう。

 スプリンターズSの翌週には、古豪サリオス(牡5歳)がGII毎日王冠(10月9日/東京・芝1800m)で復活を遂げました。同レース前、春に比べるとだいぶよくなっているという話を伝え聞いていましたが、まさにそれを証明する走りを見せてくれました。「この秋は、久々にこの馬の走りが期待できそう」と感じました。

 特に馬群で我慢して、一瞬で抜けてきた競馬には光るものがありました。レコードで勝ったことより、レース内容に進化が見られたことを高く評価したいです。今回はライアン・ムーア騎手に手替わりしますが、2歳時に彼が乗って完勝したGI朝日杯フューチュリティS(阪神・芝1600m)の走りは圧巻だったので、このコンビ復活も大きな魅力です。

 その後、GII富士S(10月22日/東京・芝1600m)では人気の3頭、1着セリフォス(牡3歳)、2着ソウルラッシュ(牡4歳)、3着ダノンスコーピオン(牡3歳)が熾烈な追い比べを披露。時計面も、上がりタイムも及第点がつけられ、そのレースレベルは低くなかったと思います。

 この3頭、斤量面を考えると、力差はほとんどないでしょう。さらに、これらはいずれも阪神・芝1600mの重賞ウイナーで、今回のコース適性も証明済み。勢いや伸びしろに期待するなら、この富士S組の3頭も面白い存在になりますね。

 ここまでに名前を挙げた面々が上位候補になりますが、臨戦過程や順調度を加味しても、それぞれを比較して優劣をつけるのは非常に困難です。そうなると、枠順や通ったコース取りが明暗を分けることになるかもしれません。その辺りを含めて、出走ギリギリまで吟味したいと思っています。


マイルCSでの大駆けが期待されるマテンロウオリオン

 さて、僕がこのレースで穴候補と考えているのは、前哨戦のGIIスワンS(10月29日/阪神・芝1400m)で7着に敗れたマテンロウオリオン(牡3歳)です。

 かつては、スワンSからマイルCSというローテが王道でしたが、近年はあまり主流とはなっていません。そのレースで掲示板にも乗れなかったことで、人気の盲点になりそうです。

 もともと自在性のある馬でしたが、直近3戦は後方待機での一発狙いという、鞍上の横山典弘騎手が得意とする"後方ポツン"の騎乗。スワンSでもブレることなく、最後方待機から大外をぶん回してきました。

 前哨戦でこの乗り方を試みて、本番で戦法を変えてくるとは思えません。

 後方から大外をブン回す乗り方は、展開や馬場が向かないとさっぱり。どうしても精度が低くなります。ですが、状況が向くと鮮やかにハマることがあります。

 そこで、今の阪神の馬場状態を考えると、この乗り方がハマる可能性が大いにあります。イメージするなら、先週のエリザベス女王杯で2着同着となったライラックの走りでしょうか。

 春のGINHKマイルC(2着。5月8日/東京・芝1600m)では、同期のライバルと差のない競馬を繰り広げ、実際にセリフォスには先着を果たしています。ここでも能力的に足りていて、馬場傾向も向くとなれば、侮れません。

 今年のマイルCSで一発があるとすれば、この馬ではないでしょうか。ということで、マテンロウオリオンを今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。