長かった2022年シーズンも、いよいよ最後のレースを迎えた。

 緊迫のタイトル争いが最終ラップまでもつれ込み、異様な緊張感に包まれた昨年とは違い、今年はすでに両タイトルともにレッドブルが獲得。落ち着いた雰囲気で、この最終戦アブダビGPを迎えるはずだった。

 しかし、1週間前のブラジルで起きた出来事がレッドブルの周囲を騒がしくしていた。


ペレス(左)とフェルスタッペン(右)の関係性は?

 マックス・フェルスタッペンがチームオーダーに従わず、チームメイトのセルジオ・ペレスに順位を譲らなかった件だ。この出来事に対し、F1ドライバーのエゴはかくあるべしという賛同の声もあれば、2シーズンにわたって献身的にフェルスタッペンをアシストしてきたペレスに対する態度として不適切であるという批判の声も多かった。

 これについてレッドブルは、フェルスタッペンを先行させる際の「アロンソとルクレールのポイントを奪ってこい」という指示と説明が不十分であったとし、お互いの認識のズレが呼んだ事態であって、アブダビGPではフェルスタッペンも一丸となってチームのために戦うとの声明を発表した。

 フェルスタッペン自身は、ある事件を契機にそもそもチームオーダーでペレスに順位を譲るつもりはなかったと語った。

「順位の問題ではないんだ。1位であろうと6位であろうと10位であろうと関係なくて、今シーズン以前に起きたことに起因していて、僕はメキシコで説明してチームも理解し合意していたはずなんだ。だからブラジルでは、僕らはお互いに自由にレースをするものと思っていた。チーム内にミスコミュニケーションがあったんだ。

 僕はポジションを入れ換えるような戦略の可能性は何も聞かされていなかったし、最終ラップに突然譲れと言われた。でも、僕はメキシコで話したことで、彼らがそれに対する僕の答えを知っていると思っていた」

 端的に言えば、フェルスタッペンのチームオーダー反対の意思をきちんと理解せず、チームオーダーに従うものと思って先行させ、前の2台を抜けなかった場合には順位をペレスに譲り返してくれると思い込んでいたチームのミスだ。

ペレス2位獲得は最優先事項

「レース後には話し合ってすべて解決したよ。今になって言えば、もっと早くその話し合いをしておくべきだったけど、僕はこれまでチームメイトに敵対したことはないし、常にチームを最優先にしてきた。僕らはもう少しオープンにお互いもっとコミュニケーションを取るべきだということをこの件から学んだんだ」

 ことの経緯を知らない一部のメディアやファンの行きすぎた批判の声に、フェルスタッペンは苦言を呈した。

「世間ではひどい書かれようで、僕が悪者に見えたと思うけど、彼らは全体像も知らないし、正直言ってかなり馬鹿げた記事ばかりで読んでいて不愉快だった。チームのなかで僕がどんなふうに仕事をし、どんなふうに受け入れられているかも知らないのにね。

 詳細は僕とチームの間にだけとどめて多くを語るつもりはないし、メディアは本当のストーリーを知らない。だから、この件についてのストーリーを書くべきじゃない。いつもすぐにネガティブなことばかりフォーカスされて、こんなクソみたいなことにはうんざりだ。結局のところ、僕は何も間違ったことはしていないし、世間が勝手に誤解しているだけなのにね」

 だが、フェルスタッペンがチームオーダーに反対の立場であろうとなんだろうと、ドライバーズタイトルとコンストラクターズタイトルを決めたメキシコシティGP以降、レッドブルはチーム一丸となってペレスのドライバーズランキング2位獲得を最優先事項としてレースを戦っている。

 ダブルタイトルとドライバーの1位・2位。これはレッドブルがチーム創設以来、一度も成し遂げることができなかった偉業であり、チーム史上最高の成功を収めたシーズンとして2022年を歴史に刻むべく、至上命題として狙っているリザルトだ。

 つまりペレスのランキング2位獲得は、ペレスの利益というよりもチームの利益だ。そのチームの利益のために、チームが一丸となって戦っている。

 少なくとも、レッドブルはそう考えていた。

角田は昨年4位フィニッシュ

 ブラジルでフェルスタッペンを先行させてランキング2位を争うシャルル・ルクレールのポイントを削らせようとしたのも、それが無理とわかった時点でペレスに6位を譲り返させようとしたのも、チームがもっとも大切にしている目標を達成するためであり、チームの利益のためだ。単なるチームオーダーではない。だからチームは、フェルスタッペンも当然その指示に従うだろうと思っていた。

 しかし、フェルスタッペンにとって最も大切なものは違っていた。背景にどんな経緯や理由があろうと、その事実に変わりはない。

 果たしてアブダビGPでフェルスタッペンがどんなレースをするのか。昨年とは違った意味で注目が集まっている。


角田裕毅は今季最終戦でどんな走りを見せるか

 一方、角田裕毅にとっては、アブダビは昨年4位に入り、シーズンの最後にようやく光を掴んだ場所だ。

 だが角田は、楽観視はしていない。今年はマシン性能が思わしくなく、空力性能不足と重量過多が響いているだけに、セクター3のようなツイスティな場所では苦労しそうだ。

「去年のアブダビGPは予選8位・決勝4位で、ピエール(・ガスリー)のひとつ前でフィニッシュしてすばらしい週末でした。とてもいい思い出です。シーズンを通してビルドアップした自信をチームに対して証明することができたと思います。

 今年もあんなレースが再現できればと思っていますが、去年に比べて今年はクルマが苦戦しています。去年がよかったからといって今年がよいというわけではないので、特に期待を高く持ちすぎずにいつもどおりのレースができれば。でも、Q3と一番重要なのはポイント獲得なので、その明確な目標を掲げつつ、レース週末を過ごしたいなと思っています」

 前戦サンパウロGPでは週末を通して異様なグリップ不足に苦しんだ。だが、前後ウイングやフロアを交換して臨んだ決勝ではパフォーマンスの改善が見られ、グリップ不足の原因はほぼ掴めているという。

F1を去る者、移籍する者...

 角田は鈴鹿をはじめ、さまざまなレースで実感したファンの応援に応えるべく、最終戦をいいかたちで締めくくりたいと語った。

「今年はいろんなレースでも日本の国旗がたくさん見ることができましたし、たくさんの方に応援していただけていることを感じました。鈴鹿が一番の思い出になりましたけど、本当にこんなところにもファンの人がいてくれているのかというレースもありました。

 何よりも大きなサポートになっています。最後はそういうみなさんのために、来年に向けて期待を持ってもらえるようないい走りでシーズンを終えることができたらなと思っています」

 このレースを最後にF1を去るドライバーもいれば、他チームへ移籍するドライバー、そして来季のためにも1年の集大成を見せようというドライバーもいる。それぞれがさまざまな思いを胸に挑む最終戦アブダビGPを余すところなく見届けてもらいたい。