カタールW杯ポルトガル代表選出に現地で批判が噴出。26選手中18人が同一の代理人だった
カタールW杯に出場する代表の少なくとも5つか6つのチームで、選ばれた選手が本当に適当であるかが熱く議論されている。その論点はいくつかあるが、そのうちのひとつが「代理人の力」。つまり、代理人の力が代表決定に、何らかの影響を与えているのではないかということである。
多くの代表監督たちはこうした疑問を馬鹿げたもの、もしくは中傷であると思うだろう。しかし代表の決定を近くで見てきたメディアやサポーターは、論議するに値する問題と思っている。
今回、最も奇妙に思えた代表選出はブラジルのダニエウ・アウベスだろう。ハイレベルなチームが3つは作れ、優秀な若手が山ほどいる人材豊富なブラジルで、なぜ、1カ月半近くほとんどプレーしていない39歳の選手が選ばれるのか。
ただし、これに関しては誰かがダニ・アウベスを選ぶように圧力をかけたとか、代理人が裏で囁いたとかいうわけではない。これはチッチ監督の作戦だ。若手の多いチームには経験豊かな存在が必要だし、なにより彼はネイマールと仲がいい。何かあった時にネイマールに言うことを聞かせられるのは、ダニ・アウベスをおいてほかにいないのだ。
おかしいと感じられるのは、若手が妙に多かったり、名前がほとんど知られていない選手が選ばれるケースだ。
たとえばブラジルでは、ガビゴル(ガブリエウ・バルボサ)やロベルト・フィルミーノ、グスタボ・スカルパなどが招集から漏れた一方で、ガブリエウ・マルティネッリが代表入りをしている。彼はアーセナルでプレーする若手だが、ブラジルのメディアはW杯でプレーするほどのレベルには達していないと思っている。
アルゼンチンにもメキシコにもウルグアイにも、そしてフランスにも同じような疑問を感じる選出はある。そこにはいつも代理人の関与が噂される。選手に「W杯に出た」という箔をつけさせ、より値を吊り上げるためだ、と。
ポルトガル代表として5回目のW杯を戦うクリスティアーノ・ロナウド photo by AP/AFLO
たぶんどんなに議論しても、結局、この疑問に答えは得られないだろう。もしかしたら真実を言い当てているのかもしれないが、ありもしない陰謀論の可能性もある。ほとんどの監督は自分の仕事にそうした影響を受け入れることは許さないだろし、そうであると信じたい。
しかし、他の国はどうあれ、ポルトガル代表に招集された選手の顔ぶれは、これまでにないほど異様だ。
その話をする前に、ある選手とある代理人の関係に言及しておきたい。
その選手とは、ここ10年間、サッカー界に君臨してきたクリスティアーノ・ロナウドだ。最近の彼は所属クラブともめごとばかりを起こしている。レアル・マドリードと関係が悪くなるとユベントスへ移籍。ユベントスでもうまくいかずマンチェスター・ユナイテッドへ移った。
そして古巣でもあったマンチェスター・ユナイテッドでも、今、問題を起こしている。数日前のインタビューでは、必要な時に自分をサポートしてくれなかったチームをはっきりと非難し、エリック・テン・ハーグ監督も嫌いだと言いきった。マンチェスター・ユナイテッドの幹部はこれに頭を抱え、ロナウドの処分を話し合っているところだ。
こんな状況であってもロナウドは慌てない。それは、自分には次のビッグチームがある、すべてはうまくいくと確信しているからだ。
その根拠は彼の代理人の力にある。その名はジョルジュ・メンデス。ロナウドと同じポルトガル生まれの代理人で、現在のサッカー界では最強のエージェントだろう。世界中の優秀な監督30人、トップクラスの選手280人顧客に持ち、なによりヨーロッパ中のビッグチームと太いパイプを持つ。彼の運営する会社「GESTIFUTE」は5つの国にオフィスがあり、年々、成長している。
もし他のサッカー選手がロナウドのような振る舞いをしたら大問題になるだろうが、メンデスがいれば、自分の悪いようにはならないことをロナウドは知っている。彼がここまでやってこられたのはメンデスの力も大きい。
そのジョルジュ・メンデスとポルトガル代表の関係に非難が集まっている。
問題の根の深さを理解するには、あるひとつの事実を伝えればわかってもらえると思う。今回カタールに行くポルトガル代表の26人のうち、実に18人がジョルジュ・メンデスの顧客なのだ。
いきなりフル代表に抜擢された選手もGK
ルイ・パトリシオ(※ローマ)、ジョゼ・サー(※ウォルバーハンプトン)、ディオゴ・コスタ(※ポルト)
DF
アントニオ・シウバ(※ベンフィカ)、ペペ(※ポルト)、ヌーノ・メンデス(パリ・サンジェルマン)、ダニーロ・ペレイラ(※パリ・サンジェルマン)、ラファエル・ゲレイロ(ドルトムント)、ディオゴ・ダロト(マンチェスター・ユナイテッド)、ジョアン・カンセロ(※マンチェスター・シティ)、ルベン・ディアス(※マンチェスター・シティ)
MF
ジョアン・マリオ(※ベンフィカ)、オタビオ・モンテネイロ(※ポルト)、ビティーニャ(※パリ・サンジェルマン)、ジョアン・パリーニャ(フルハム)、ウィリアム・カルバーリョ(ベティス)、マテウス・ヌネス(※ウォルバーハンプトン)、ルベン・ネベス(※ウォルバーハンプトン)、ブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)、ベルナルド・シウバ(※マンチェスター・シティ)
FW
クリスティアーノ・ロナウド(※マンチェスター・ユナイテッド)、ジョアン・フェリックス(※アトレティコ・マドリード)、ラファエル・レオン(ミラン)、アンドレ・シウバ(※ライプツィヒ)、ゴンサロ・ラモス(※ベンフィカ)、リカルド・ホルタ(ブラガ)
※印がついているのはジョルジュ・メンデスが代理人を務めている選手だ。
ロナウド、ブルーノ・フェルナンデス、ジョアン・カンセロ、ジョアン・フェリックスなどは、誰が代理人であろうとも代表に入ってもおかしくない。しかし、19歳のDFアントニオ・シウバや、追加招集された21歳のゴンサロ・ラモスは、まだA代表は早いと首をかしげるポルトガル人が多い。アントニオ・シウバはこれまで一度もフル代表に呼ばれたことはなかった。
そしてもうひとつの事実。アントニオ・シウバはレアル・マドリードが、ゴンサロ・ラモスはマンチェスター・ユナイテッドが狙っていて、早ければ1月のマーケットで移籍するとの噂もある。W杯で彼らがプレーし、あわよくば活躍でもすれば、価値はぐんと上がるだろう。
逆に、2016年のユーロでポルトガルの優勝に貢献したジョアン・モウチーニョやレナト・サンチェスは選ばれていない。モウチーニョは36歳という年齢もあるかもしれないが、サンチェスはこの夏、争奪戦のすえパリ・サンジェルマンが1500万ユーロ(約25億円)で獲得した選手だ。しかし、彼らはジョルジュ・メンデスの顧客ではなかった。
もうひとつ興味を引くのが、ビッグクラブに混じって、ポルトガル代表にはイングランドのウォルバーハンプトンの選手が3人いることだ。実はジョルジュ・メンデスとこのチームは非常に親密な関係で、すでに累計20人のポルトガルの選手をこのチームに輸出している。
ポルトガル代表に潜むジョルジュ・メンデスの陰は何も今回始まったわけではない。この8年間にポルトガル代表でプレーしたサッカー選手のうち48%が、ジョルジ・メンデスの顧客だという。ただ、今回のポルトガル代表ほど、メンデス色が強いチームは初めてだ。
口の悪い者は「これはポルトガル代表でなくメンデス代表だ」と言う。ひとりの代理人の手に多くの代表選手が委ねられるのは健全ではない、危険なことだと、ポルトガルのジャーナリストたちは警鐘を鳴らしている。