2019年冬、明成高校の入学を前に、山粼一渉(やまざき・いぶ)は高校の先輩・八村塁が活躍していたゴンザガ大の試合を見に行った。初めて目の前で見るNCAAの試合に感激し、「自分もアメリカに来る」という思いを強くした。

 それから3年半の年月が経ち、11月7日(日本時間8日)、山粼はバージニア州にあるラドフォード大のユニフォームを着て、NCAAの公式戦のコートに立った。対戦相手のマーケット大のホームコート「ファイサーブ・フォーラム」は、NBAミルウォーキー・バックスもホームコートとするアリーナだ。


山粼一渉に渡米から5カ月経った今の心境を聞いた

 開幕戦当日の昼過ぎにファイサーブ・フォーラムで行なわれたシュートアラウンドを訪れると、山粼はすっかりチームに打ち解けた感じで練習に参加していた。練習中にわからないことがあると、近くにいるコーチやチームメイトに積極的に質問している。身体つきも高校時代よりずっとがっちりしてきて、上級生選手たちと比べても見劣りしなかった。

 ラドフォード大のダリン・ニコルスHC(ヘッドコーチ)によると、山粼はラドフォードに入ってからの5カ月間ほどで、英語も、フィジカル面でも大きな変化が見られたという。

「最近では、時々ジョークも言ったりして、彼のユーモアある性格も見えてきたよ」とニコルスHCは笑う。

 リクルートのために山粼のプレー動画を見た時に、最初に目についたのはシュート力だったと言う。だが、6フィート7インチ(200.5cm)、215ポンド(97.5kg)の身体のサイズを生かしてフィジカルなプレーもでき、様々なポジションができるところにも期待している。

「彼はシュートも決められるし、ペネトレイトすることもできる。とても賢く、ディフェンスのスキームもよく理解している」とニコルスHCは評価。

 NCAAで1年のうちから出場時間を得ることは簡単ではないが、前半のノン・カンファレンス期間中に出場機会を与えることで成長を促進させたいと言う。実際に開幕から4試合、時間の長短はあるものの、毎試合出場している。

 NCAA開幕戦当日、試合前のシュートアラウンドを終えた山粼に話を聞いた。

── ラドフォード大に入ってみて、調子はいかがですか?

「来てから、自信を持つのに時間がかかったんですけれど、コーチもチームメイトも、みんなが英語の面でも助けてくれて、本当に自分にとっていい環境だなって思って。やっと少しずつ、チームの力になれるようになってきました」

── コーチによると、夏の間に英語の勉強のために映画を見て、コーチたちとその映画の話をすることで英語が上達したそうですけれど。

「そうですね。バスケ以外でも、そうやっていろいろ気にかけてくれて。そういう映画のことだったり面白い話とか、いっぱいしゃべりかけてくれるんで、自分の英語の上達が早くなっていると思います」

── 練習を見ていても、コーチやチームメイトに積極的に質問もしていますよね。英語でのコミュニケーションは問題なく取れていますか?

「しゃべるのがちょっとまだあれ(思うようにできないときもある)なんですけど、大体のことは聞けるようになってきました。練習中だとみんな気持ちが入って、しゃべるのも速くなるんで、そこがまだちょっとたまに聞き取れないんですけれど、大体は聞き取れるようになってきました」

── わからないことがあるときは、その場で質問するように心がけているのですか?

「そうですね。わからないままプレーしても迷惑かけるだけなんで。そこは。みんな質問していいっていうふうに言ってくれているので、質問するようにしています」

── アメリカに来てから5カ月経ちましたけれど、一番変わったと思うことは何ですか?

「日本と違って、コートに入ったら本当に敵同士で。競争がすごく激しくて。久夫先生(明成高校の佐藤久夫監督)からも聞いていたことで、自分では理解はしていたんですけど、ここに来て身をもって感じています。これがアメリカのレベルなんだなっていうのを感じて、自分もハングリーになってやろうっていうふうに意識が変わりました」


ラドフォード大の練習で汗を流す山粼一渉

── 今、毎日はどんなスケジュールで過ごしていますか?

「授業が1日に1個か2個あって、(ひとつの授業が)1時間から1時間半ぐらい。終わってから練習をやってっていう感じですね」

── これからは、その合間に遠征にも出るわけですよね。

「はい。今回、こっちに来て初めての遠征なんですけれど、移動時間とかを自分でしっかりと有効に使って、気持ちを持ってやろうと思います」

── アメリカの食べ物はどうですか?

「アメリカの食べ物は好きなんですけれど、やっぱり日本食を食べたくなる時もありますね」

── 大学のまわりに日本食が食べられるようなところはありますか?

「キャンパス内に寿司屋さんがあって、それはけっこう美味しいんです。あと、車で30分ぐらい離れたところに日本風のステーキ屋さんとかがあって。そこはコーチに連れて行ってもらったりしました」

── U19日本代表として世界の国々と対戦したあと、海外の選手のフィジカルに対抗できなくて、それがアメリカに行きたい気持ちをさらに強くした理由だと語っていましたが、練習ではフィジカル面でもまわりに負けていないように見えました。

「こっちに来て(体重が)10キロ増えて......」

── 大学のロスター表で体重が215ポンド(97.5kg)になっていたので増えたのかなとは思ったのですけれど、10kgも! 食事やウェイトトレーニングで増えたのですか?

「食べる量も変わりましたし、ウェイトもほぼ毎日あるんで」

── その体重でプレーしてみて、身体が重いというよりは、力強くなったっていう感じですか?

「最近、体重計に乗って気づいたぐらいなんで。それまでは気づかなかったです」

── 得意のシュートは通用していると感じますか?

「シュートも自信を持って打っている時はやっぱり入るんで......」

── 11月1日のエキシビションゲーム(NCAAディビジョン靴離瓮蝓次Ε棔璽襯疋Εン大と対戦)ではチーム最多の21得点をあげていましたよね?

「はい。あの試合は自分的にはあまりよくなかったんですけど、ま、得点はチーム最多ですね」

── 相手がディビジョン靴粒惺擦世辰燭里如▲妊ビジョン気箸魯譽戰襪皸磴Δ箸六廚Δ韻譴鼻△修譴任盧能蕕了邱腓妊繊璽犧蚤燭瞭静世鮗茲辰燭海箸納信になったのではないですか?

「そうですね。自信にはなったし、少し気持ちが楽になって、次、頑張ろうってなりました」

── いよいよシーズン開幕ですが、今シーズンの目標は何ですか?

「こっちに来て間もないですし、英語もまだ完璧じゃないんですけど、そこに言い訳をしないで、日本人のいいとこだったりをもっと出して、自分なりにチームに貢献していい結果を出したいですね」

── NCAA ディビジョン気了邱腓砲匹鵑淵ぅ瓠璽犬鮖っていますか?

「(八村)塁さんがゴンザガにいる時とか、YouTubeやテレビでもこういうコートを見ていて、今、自分がここにいて、本当にワクワクします。自分もU19で経験した時に動画で見ているだけじゃわかんないようなことがすごくいっぱいあったので、(NCAAでも)そういったことを肌で感じていろいろ経験しようと思います」

── 明成に入る前に、ゴンザガ大の試合を見に行っていましたよね。今から振り返って、あれは自分にとってどんな経験でしたか?

「ゴンザガに行って、塁さんに会って、本当に塁さんと同じ高校に行くんだっていうことを思いました。自分もやっぱりここ(アメリカ)に来たいというのもあって、久夫先生にも『お前もここに来るんだぞ』って言われたんで、(明成高校に)入学する前にすごい気合いが入りました」

── 明成でチームメイトだった菅野ブルース選手が今、エルスワース短大でプレーしていますが、彼とは連絡取っていますか?

「はい、連絡はとってます」

── かなり活躍しているようですよね。

「はい。もうすでに(NCAAのディビジョン気梁膤悗ら)オファーも何個かもらっていると思うし、ブルースもこれからD1(ディビジョン機砲僕茲浸に、自分が今思っているようなことも感じるだろうし、そういう面ではいろいろ助け合いながら......だし、やっぱり一番のライバルとしても、これからも頑張っていきたいなと思います」


【profile】
山粼一渉(やまざき・いぶ)
2003年7月10日生まれ。千葉県松戸市出身。ギニア人の父と日本人の母との間に生まれ、中学時代は千葉ジェッツのユースチームに所属。明成高時代は2年時にウィンターカップ優勝を果たす。世代トップの身体能力を誇り、各年代の日本代表に選出。2022年、NCAAのラドフォード大に進学した。ポジション=スモールフォワード。身長200.5cm、体重97.5kg。