名伯楽クリスティアン・シュトライヒからの信頼は絶大だ。

 得点こそ9月8日を最後に途絶えているが、DFBポカール(ドイツカップ)やヨーロッパリーグも含めた今季前半戦の公式戦全23試合のうち20試合でスターティングイレブンに名を連ねるなど、フライブルクの中核を担うのが日本代表MF堂安律だ。

 11月13日に行なわれたブンデスリーガの年内最終節。原口元気が所属するウニオン・ベルリンとの試合にも、堂安はこれまでと変わらず先発に起用された。


堂安律は初のワールドカップでどんなプレーを見せるのか

 2点リードで迎えた前半19分のことだった。右サイドの裏に抜け出した堂安はそのままスピードを落とさず、ドリブルでペナルティエリア内へ。そこで相手DFディオゴ・レイテのファウルを誘い出し、レイテの一発退場とPK獲得というふたつの"果実"を同時に手にした。

 そしてこのPKを同僚ヴィンチェンツォ・グリフォがきっちりと決め、前半途中で10人となったウニオン相手に早くも3点をリード。堂安の働きにより、試合の行方はほぼ決定づけられた。

 さらに圧巻だったのは、前半アディショナルタイムでのプレーだ。右サイドから中央にポジションを移して味方DFからの縦パスを受けると、ウニオンの守備陣3人を引きつけてFWミヒャエル・グレゴリッチに完璧なラストパス。チームの4点目をお膳立てする活躍も見せた。

 試合後の堂安は、「すばらしい前半でゲームを決められたと思いますし、今日まではワールドカップのことは頭のなかではあんまり考えずに臨んでいた。そのマインドセットがうまく機能して、いいパフォーマンスが出た。悪くなかったゲームかなと思います」と手応えを口にした。

 筆者はそのちょうど1週間前のケルン戦にも足を運んだ。ワールドカップ・カタール大会に臨む日本代表メンバーが発表された直後だ。

 その時点ではまだ、「ワールドカップのことはあんまり考えないでくれ、今はとりあえずこの(フライブルクでの)試合に集中してくれと、監督には言われています」と話すにとどまったが、ウニオンとの一戦を終えて、「ワールドカップっていう本当に夢の舞台なので。どうなるか想像もできてないですし、すばらしい経験になることは間違いない」と話し、気持ちは一気に"カタールモード"に切り替えられた様子だった。

 ワールドカップのグループリーグ初戦で激突するドイツ代表には、フライブルクの同僚DFクリスティアン・ギュンターとMFマティアス・ギンターも選出されている。堂安は「明日から敵になるので、嫌いにならないように(笑)」と冗談を飛ばす余裕も見せ、ドイツ戦に向けての意気込みをこう語った。

「今日(のウニオン戦)みたいな、試合を決定づける、チームを機能させたと思われるようなプレーができたらいいなと思います。今までの20年間、積み重ねた努力が、夢の舞台で結果に出ると思っています。いい結果、特別なものが、自分に訪れると信じてやりたいと思います」

 では、フライブルクで過ごしたこの数カ月、堂安にとってどれほどの意義があったのだろうか。

 2020−21シーズンに期限付き移籍で加入し、常に降格危機との戦いだったビーレフェルトとは違い、今季入団したフライブルクは前半戦を2位で終え、来季の欧州チャンピオンズリーグを射程圏内に捉えている。

 予算規模が決して潤沢ではない一方、今や強豪クラブのひとつに数えられるほどになったフライブルクで、具体的にどのあたりが最も成長したと、本人は考えているのだろう。

「強度のところと、相手に対して体を預けてブロックしながら運べるプレーもかなり増えていると思います。選手としてかなり大きくスケールアップできているんじゃないかなと」

 フライブルクでの成長をきっかけに他クラブへ引き抜かれていく、または国の代表選手に選ばれるようになった例は、枚挙に暇(いとま)がない。その理由を堂安はこう推察する。

「監督じゃないですかね? やっぱり監督が、ひとつの妥協も許さない監督なので。本当にサッカーのことしか考えないような生活になる。いい監督に出会えたなと思います」

 この日、ウニオンの選手として後半15分までプレーし、まさかの日本代表メンバー落選となった原口元気は、試合後のミックスゾーンで堂安にエールを送った。

「リスペクトできる仲間だし、だから彼らの失敗を願うようなことはしたくない。一緒にアジアで勝って、4年半一緒に仕事してきた選手たちなので。本当に、彼らにはいいワールドカップにしてほしいなと思います」

 盟友の想いも胸に、堂安は決戦の地カタールへ旅立った。